第10話 杏子と杏里

「見てみてあんじー!このニュースに出てるルシウスって人、かっこよくない?!」

「はーい?」


 私の名前はあんず。あんず・ウィシュカルテ。

 どこにでもいる、普通な女学生です。

 隣にいるのはレーナ。今を生きるギャル学生。陽キャの塊。ファッションセンスの鬼。

 私たちは今、学校帰り。通学路の交差点にて信号待ちをしています。

 誰かといるときは基本的に会話に集中する性格の私達ですが、流石にこうして立っているだけだと会話が切れてしまう時だってあります。

 そんな時は、携帯に着信したニュースとかから話題を探したりもするのですが、今回はレーナから話題があがりました。


「これこれ!『十五歳にして軍曹となったルシウス軍曹。今回、彼の活躍により』うんたらって書いてあるところ!」

「ここですね。わぉ、十五歳で軍曹さんなんて、すごいですね」

「そこかーい!」


 正直、異性の顔に関して思うところはあんまりないといいますか。

 私、顔より一緒に居る時の居心地を重視するので……。


「いやぁ~。こういう人ってやっぱお金、メッチャ持ってんのかな?!」

「どうでしょう……。でも、少なくとも軍曹階級だと一家庭は簡単に養えるお給料が貰えてるはずですね」


 軍人さんのお給料事情は詳しく知りませんが、軍曹、曹長は今言ったくらいのお給料で、尉官クラスになるとそれの倍で、佐官だとそれ以上のとんでもないお給料、将官だと……想像もつかないですね。


「マジんこ?!いいなぁ、めっちゃお金あるじゃん」

「お金にがめつすぎやしませんかね、レーナちゃん」


 お金が大事、というのは分かりますが度を越えてる気もします。

 そのうち、売春に手を染めたりしないか、杏子は心配です。


「たはは~、卑しいって分かってはいるんだけどね?ほら、最近何かと出費が多いから……」

「……ムーンバックスの最新作のドリンクを毎日飲んでいればそうなるのは当たり前だと杏子は思います」


 ムーンバックス。今、イケてる若者の間で大人気のコーヒーショップ。

 コーヒーとは銘打っていますが、実際は甘いチョコレートドリンクや、季節のフルーツを使ったパフェのようなドリンクがあったりと、とにかく行くたびに新メニューがあるようなすごいお店なのです。

 ……お値段、凄いです。

 ……カロリーも、すごいです。


「うげ……」

「というかレーナさん、心なしか少し丸くなっていませんか?」

「やめてやめて!あんじー、普段は優しいのにこういう時だけメッチャ怒るじゃん!怖いて!」

「私なりに心配をしているのです」


 レーナさんは私のようにあまりピカピカしていない子にも気軽に話かけてくれる、陰の者にとっての太陽なのです。

 そんな人には、少しでも健康かつ健全でいて欲しいのです。


「そういうところ、あん子さんとそっくりだな。おせっかい!」


 あん子さんと言うのは……。

 あ、噂をすればなんとやら。本人が後ろから来ました。

 

「だーれがお節介小姑クソばばぁですか」


 紺色ツインテールを揺らしながらあん子と呼ばれた私の姉の、杏里が来ました。

 ちなみに私は金色の髪で、髪型はシニヨンです。あ、私が妹で、杏里が姉です。

 根からの真面目っ子である杏里とギャル系のレーナは水と油と言いますか。仲が悪いのではなく、ウマが合わないと言いますか。


「誰も小姑なんて言ってないしぃ」

「ってことはお節介クソばばぁに関しては言いやがったんですね?!そうですよね?!杏子!」

「言ってないです。あんりは相変わらず突っ走るというか、なんといいますか……」


 因みに、私ともこういう時は合わないことが多いですね。

 普段は趣味とか色々、凄く合うんですが。

 

「杏子は杏子でのっぺりしすぎなんです!」

「なんですかのっぺりって」

「相変わらず仲いいねぇ、流石双子」

「関係ありますかね」


 そうです。私と杏里は双子なのです。

 なのに容姿。特に髪の色が違うのは二卵性双生児であることと、親の影響が大きい、ということらしいのですが……。

 私達、三歳のころに親が居なくなってしまい、引き取られた身なので詳しくはありません。


「まぁ、この話は置いておきましょう。それでなんの話をしていたんです?」

「このニュースです」

「あれ、今話題のルシウス軍曹のニュースでしたか。私も詳細は知らないのでちょっと見せて下さい」


 ひょい、とレーナさんの携帯を借り、画面をあんりに見せつけました。

 いつもしっかりと新聞を読んでいる杏里は速読が得意なので五秒ほどで読み終えてました。


「すごいですよね。私達の二歳年上なだけで、こうして戦って、悪人を懲らしめるなんて」


 思わず口に出ていました。

 私たちは十三歳。まだまだ子供です。

 そう思いながら私が杏里を見ると、何か難しそうな顔をしていました。

 はて、杏里が読めない難読な文字なんてありましたっけ。

 と、思いきやそれはまた変なことでした。


「…………この顔、見覚えが……」

「そりゃ、ニュースに出るような人なんだから……」


 レーナさんの言う通り。

 ニュースになる人なんて、どこでもその顔を見ることになります。

 なので、何もおかしいことはないのですが……。


「いいえ、違うんです。そうじゃなくて……」


 じい、とルシウス軍曹の写真を見つめる杏里。

 ……惚れたのでしょうか?


「……お兄さん……?」

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