第69話 証拠品
「フェミナ様! 裏口にムネタカが!」
たまたま見回りに出ていたマーシャがムネタカを抱えて、フェミナの執務室に戻って来た。
「おお! ムネタカ! 逃げて来れたのか!」
ムネタカは答えなかった。
答えることが出来なかった。
それは彼が、意識を失っていたからだ。
「身体も傷だらけです。恐らく、拷問を受けたのでしょう。どうやって逃げて来れたのか、本人の口から聞かないと分かりません」
マーシャが少し安堵した様な雰囲気で言う。
「よし、今日は、ゆっくりムネタカを休ませよう。話を聞くのはそれからだ」
◆
「うう……」
「あ、起きた。ムネタカ」
地下室のジメジメしたいつもの自分の部屋で目を覚ますムネタカ。
「いてて……」
半身を起こそうとすると、身体に痛みが走る。
「だめよ。まだ寝ていなくては。身体じゅう傷だらけなんだから」
その通り。
身体は包帯だらけだ。
「あ、女神像!」
思わず、声を上げるムネタカ。
「うん。大丈夫よ。フェミナ様の執務室にある」
「ああ……」
安堵の表情を浮かべるムネタカ。
「それよりも、良かった。ムネタカがこのまま目を覚まさないんじゃないかと心配だったの」
マーシャは目を細めた。
細い手でムネタカの手を握った。
「あ、ありがとうございます」
ムネタカは顔を赤らめた。
また、マーシャと会えたことが嬉しかった。
ムネタカは、満身創痍でユメル侯爵の邸宅から、ここカドレア邸宅まで戻って来た。
道中、獣に襲われながらも、長い旅路をボロボロの身体で女神像を守りながら帰って来た。
追手が来なかったということは、ローランは何もしゃべらなかったのだろうか。
「あの、僕……、話したいことが沢山……」
「分かってる。だけど、まずは、朝ごはんを食べましょう。話はそれからよ」
マーシャは優しく微笑んだ。
◆
「よくぞ、戻って来た、ムネタカよ」
執務室にて、フェミルが言う。
ムネタカは頭を下げた。
フェミルは相変わらず、大きな黒檀の机から、顔半分だけ出た状態だ。
「そして、この女神像を……よくぞ、取り返してくれた」
「はい」
「これこそが、ユメル侯爵が10年前、我がカドレア邸を襲い、わが父、カドレアを殺し、お主の恩人、タルボを殺した証拠の品になる」
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