第2話 拾ってくれたのは盗賊団じゃなくて義賊団!?

 驚いたことに宗孝は、捨て子として中世ファンタジー風の世界に転生していた。

 しかも物騒な獣や、悪いモンスター、そして国家間での戦争……


 とにかく、物騒な世界で、生きていくためには地球で、日本で暮らしていた宗孝にとって無理ゲーな感じだった。


 そして、そのことをまだ寝たきりの赤ん坊な、宗孝は知る由も無かった。

 むしろ、知らない方が幸せかもしれない。


「うあああああん!」


 赤ん坊のスキルは泣くことくらいだ。

 泣き叫んで周りに助けを求めること。

 暗い森の中に宗孝の鳴き声が響く。


「グルルル」


 だが、その鳴き声に反応したのは一匹の狼だった。

 鋭い吊り上がった赤い目、素早そうな細身の身体。

 灰色の毛並みが美しい。


「うううう……」


 宗孝は恐怖で震えた。

 裸で寝転がされている宗孝に、灰色の狼がゆっくりと近づいてきた。


「ガウウウウウ!」


 狼は大きな口を開けた。

 上下に綺麗に並んだ牙が月の光で光った。


(食われる!)


 痛いのだけはごめんだった。

 やるなら丸呑みでお願いします!

 宗孝は願ったが……


ぺろぺろ……


(あれ?)


 目が点になる宗孝。

 頬に生暖かい感触。


ぺろぺろ……


 赤い目と宗孝の目が合う。


 なんと、狼は宗孝の柔らかい頬を、舌で優しく舐めていた。


(これは一体?)


 狼の目は優しく垂れさがっていた。

 まるで自分の子供を慈しむかのように宗孝をなめまわす。


 すると……


「おーい! ぺルドン! どこだ!?」


「ウウ!」


 野太い男の声に反応した狼は、声のする方を振り返った。

 茂みの奥から、大きな影が近づいて来る。


「お! 赤ん坊じゃねぇか!」


 デカい斧を肩に担いだ、身長2メートル近くある男が現れた。

 身体には獣の毛皮をまとい、頭には木できた兜。

 顔は髭面で、眉が太く目がぎょろりとしている。

 筋骨隆々で、RPGなら戦士といった職業だろう。


「ワウウワウ」


 ぺルドンと呼ばれた狼は、男に宗孝のことを説明するかのように鳴く。

 この一人と一匹の関係は、飼い主とペットと言った感じか。

 ぺルドンは従順な飼い犬というか狼で、主人の前では凶暴な声を上げることは無かった。

 むしろ、猫撫で声というか狼だが、甘える様な鳴き声さえ出していた。


「そいつは、助けなきゃな」


 ぺルドンの言葉を理解したであろう男は、宗孝を拾いあげた。

 男の腕はガッシリしていて、頼りになる。


「俺はギド盗賊団の団長のタルボ。よろしくな!」


 腕に抱いた宗孝に自己紹介する男。

 彼は、割と有名な盗賊団の団長だった。


(よりによって、盗賊に拾われるとは……)


 宗孝は救われて安堵したが、ちょっと落胆もした。

 騎士団とか、貴族とか、せめて女の子に拾われたかった。

 盗賊とは物騒過ぎる。


「お前良かったな」


 タルボは宗孝の頭を撫でた。


「俺達以外の盗賊団に見つかったらお前は、奴隷として売られてた」


(ひぇぇ)


「俺達は悪い盗賊じゃねぇぞ! 不正に金をためこむ不埒な貴族や商人からしか盗まねぇ! その金をな、力のない貧しい奴に配って助けるんだ! だから弱い赤ん坊や子供や女は無条件に助ける。まぁ、義賊ってやつだ!」


 タルボは誇らしげに語った。

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