第3話 親分の隠し子
「お、お頭! その赤ん坊は一体!?」
タルボの腕に抱かれた赤ん坊、つまり宗孝を見た男達は声を異口同音にこう言った。
「お頭の隠し子ですか!」
その声を聞いたお頭こと、タルボは頭を掻きながら宗孝と子分共を交互に見る。
そして、困った顔で口を開いた。
「あのなぁ、お前ら一体俺を何だと思ってるんだ!? 俺がそんなだらしない男に見えるか!」
親分に怒鳴られた子分たちは黙り込んだ。
ここは、ギド盗賊団のアジト。
といっても、宗孝が捨てられていた暗い森の中の更に奥にある洞窟の中だ。
アジトである洞窟は壁に据え付けられたタイマツの炎と、机代わりの平たい岩の上に立てられたろうそくの炎で、間接照明チックに照らされていた。
「あんた以上に女にだらしない男なんて、いやしないよ!」
奥から声が聞こえた。
暗がりの中からほっそりとしたシルエットが浮かび上がる。
「マイファ……」
タルボが視線を向けた先には、黒髪の美しい女が立っていた。
タルボと同じ様に赤ん坊を抱いている。
「行く先々で、女に声を掛けて浮気してたの知ってるんだからね」
「あ、あれは密偵として、街の女と仲良くなって情報を聞き出そうとしてただけだ……」
マイファの言葉にタルボはしどろもどろだった。
(二人は恋人同士かなにかか?)
相変わらずタルボのゴツイ腕に抱かれたままの宗孝は二人を交互に見た。
「子供が出来たらすこしは大人しくなると思ってたのに……」
マイファは真っ赤な唇を噛んで悔しそうだ。
タルボとマイファは夫婦だ。
浮気者の夫に妻は苦労していた。
その気持ちが腕の中の赤ん坊に伝わったのか……
「うああああああん!」
甲高い鳴き声が洞窟内に響く。
「おお、よしよし。アイリーン」
マイファは赤ん坊をあやした。
名前からその赤ん坊は女の子であろう。
「おいおい、マイファ。勘違いされちゃ困るぜ。食料を取りに行ってる途中、この赤ん坊を森の中で拾ったんだ。それにわざわざ隠し子を連れて来るか!? 連れて来た時点で隠し子じゃないだろうが! それに、それによく見て見ろ! 俺に全然似てないじゃないか!」
タルボは自分の顔の側に宗孝の顔を並べた。
ギョロ目の男と、細い目をした赤ん坊は似ていなかった。
それは誰もがそうと分かった。
「……分かったわ」
マイファはようやく涙を拭った。
疑り深いのはタルボを愛しているからだろう。
「さて、皆、食事にしようぜ! 俺が自ら取って来た食材だ!」
タルボは背中に背負っていた袋を、ドスンと地面に落とした。
袋の入り口から、果物や木の実、そして獣の肉がゴロリと零れ落ちた。
森の恵みだ。
「さぁ、料理を作れ! お前ら!」
「あの、お頭……」
「何だ?」
恐る恐る問い掛ける子分に、流れをせき止められた腹ペコの親分はギロリと視線を向けた。
「その赤ん坊、引き取ってどうするつもりです?」
「どうするもこうするも、お前、俺達に拾われたってことは」
一同が次の言葉を待つ。
「盗賊にするに決まってるだろ」
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