第4話 怒りのスイッチがどこなのか分からない

(盗賊……)


 タルボの言葉に宗孝は困惑した。


(嫌だ! 盗賊何てなりたくない! せっかく異世界ファンタジー風の世界に転生したんだ! 勇者とか騎士になって、姫を助けて英雄になりたい)


 その願いは虚しくも叶わなかった。


(というか、あの女神ルネス……。幸せな世界に生まれ変わらせるとか言ってたのに、このざまは何だ!)


 宗孝の怒りは嘘を付いた女神ルネスに矛先を向け始めた。


「うああああああん!」


 赤ん坊だから怒りを声に出すことも出来ず、泣くだけだ。


「おお! よしよし! どうした!?」


 タルボが宗孝をあやす。


「良く泣くねぇ、元気な証拠だよ」


 マイファが感心する。


「じゃ、新入りの赤ん坊のために美味い料理作りますね!」


 一人の子分が張り切って調理場、といっても洞窟の片隅に用意された鍋やら器がある場所に行き、調理をし始める。


 泣いても体力を使うだけ損だと宗孝は判断した。

 だから泣き止んだ。

 とにかく、この世界で生き残ることだけ考えなければ。

 生きていれば、もっといい人生が待っているかもしれない。

 少なくとも盗賊として、陰に生きる日の当たらない人生よりはましな人生が待っていると思う。



 ざっと見たところ、子分達は10人ほどいる。

 女が3人、男が7人。

 そして、タルボとマイファの夫婦とその子供のアイリーン。

 これがギド盗賊団の全員なのかは分からない。

 これらの人間が焚火を囲んで飯を食っている。

 宗孝はタルボとマイファの間に座り、隣にはアイリーンがいた。

 一緒に、温かいミルクを飲んでいる。


「それにしても、人材不足だったから丁度良かったぜ」


 タルボは宗孝の頭を撫でる。

 恐らく、盗賊団は人手不足だったのだろう。

 そりゃそうだ。

 進んで盗賊になりたい人間などいるのか。

 いない。

 やむにやまれず、盗賊になるのが普通だろう。

 恐らく、ここにいる全員訳アリなのだ。


「そうっすね。変に癖のないまっさらな奴を一から育てるのが一番いいですよ」


 さっき宗孝をどうするかタルボに聞いていた子分が、口に飯粒を付けたまま言う。


「おうよ。ルヒト。お前も確か捨て子で、俺の親父に拾われてここに来たんだもんな」


「はい。親分のお父さんに助けてもらった恩は忘れませんぜ」


 ルヒトは宗孝と同じ境遇の様だ。

 そして、この盗賊団は結構な歴史を持っているのかもしれない。


「あの、親分、俺思ったんですが」


「何だ?」


「この赤ん坊をアサシンに育てるってのはどうでしょうか?」


 ルヒトの言葉に周囲がシンとなる。

 楽しい宴が一瞬で凍りついた。

 それは、タルボがルヒトを睨みつけたまま黙り込んだからだ。


(怒った?)


 タルボの怒りのスイッチが、何で入ったのか宗孝には分からなかった。


「てめぇ! ぶっ殺すぞ!」


 タルボは焚火を飛び越えたかと思うと、一気にルヒトの前に仁王立ち。

 そのまま棍棒の様な腕を振り上げ、鉄拳をルヒトの頬にぶっつけた。

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