第9話 主人公の代わりに勇者に転生した者
「それにしても、こんなことになるだなんて……あんたには、ほとほと嫌気が差してくるよ」
荷物が入った袋を抱えながら、マイファが愚痴をこぼす。
その背中にはアイリーンが背負われていた。
「すまないと思ってるよ。だが、盗賊に決まったアジトなんて、必要ねぇ。あしがついちまうからな」
確かにそうだ。
盗賊が一か所に定住して活動をしていたら、ちょっと難しい。
後をつけられて拠点を探り当てられたら……
盗賊がその活動をするためには、常に身を隠す様に拠点を移す必要がある。
タルボ達にしてみたらこれは日常なのだろう。
それがまさか今日になるとはだれも予想していなかったことなのだが。
「さ、早く出ようぜ。あの貴族様が、仕返し……いや、この魔石を狙って攻めて来るかもしれん」
タルボが洞窟を出る。
それに続く様に子分達、マイファが続く。
タルボに背負われた赤ん坊の宗孝は、筋肉まみれの彼の背中に頼るしかない。
(えらいことになったが、何とか生きていくしかない)
◆
その頃。
天界では。
「申し訳ありません!」
ツヤツヤ銀髪が何度も残像を描きながら上下に動く。
「まったく。何をやっておる!」
怒りを表にする眼鏡をかけた男。
彼は白装束をまとい、頭に葉っぱで出来た冠を被っている。
短い金髪で、細マッチョでイケメンだ。
「すいません! ルデス様!」
叱られているのは銀髪の女は、女神ルネス。
宗孝を異世界に送り込んだ張本人だった。
「それで、あの者は、世界ナンバー539に転生したのだな」
「はい……ですが、私の手違いで、その……」
「勇者の家系でなく、捨て子として転生させたのだな」
「……はい」
「はぁ~……」
女神ルネスの上司である神デウスはため息をついた。
部下の失態は自分の失態に繋がる。
「仕方ない。大神様に一緒に謝りに行こう」
◆
「仕方ない。誰にでも間違いはあるもんじゃ」
腰まである長い白髪。
へそまで届くほど長い顎髭。
白い衣をまとった、穏やかな老人。
彼は神殿の奥で蜘蛛の上に座っていた。
彼は先端がアンモナイトみたいに丸くなった杖の先端を撫でている。
大神様は優しい存在だった。
女神や神が世界をいくつも管理することが大変だと理解していた。
宗孝が間違えた転生をしたことも、沢山ある間違いの一つだと、やむを得ないことだと思った。
要は前を向いて改善して行けばいい。
その為に間違いが必要なのだと考えている。
「「申し訳ありません!」」
ルネスとデウスが一緒に頭を下げる。
「で……代わりに勇者に転生した者がいるということじゃろう?」
「は……はい」
ルネスの代わりにルデスが口を開く。
「誰じゃ。まさか犯罪者とかではないじゃろうな?」
「いえ、その……」
「まさか……」
「犯罪者とかそんな悪い奴ではなく、その、子犬が……」
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