第8話 盗賊団の分裂

「これが最後です。魔石を渡しなさい。そうしないと、あなた方は不利になりますよ」


 ユメルが手を差し伸べるが、タルボは首を縦に振らなかった。


「くっ……」


 ユメルはどうしても魔石が欲しいらしい。

 魔石には力が宿っていて、その力にあやかりたいのだろう。

 だとすれば、タルボも魔石の力を感じ始めたのかもしれない。


「ユメル様」


 それまでずっと黙ってユメルの横に立っていた紫色のフードを被った者……男か女か分からない奴が、声を上げた。


「魔石は必要ですが、こんな奴らに頭を下げてまで、今すぐ手に入れる必要はありません。こちらの研究もまだ途中ですから」


 小さな声で囁く。

 その声が聞き取れたのは、宗孝だけだった。

 宗孝の聴力は生まれながらにして優れていた。


「うむ……。お主がそう言うのならば……」


 ユメルは納得した。


「仕方ありません。ギド盗賊団とはこれでお別れです」


 ユメルは貴族としての振る舞いに戻った。


「では、あなたがたの身にこれから何が起きても、私を恨まぬよう……」


 そう言い残して、踵を返した。

 不気味だった。

 これから報復が始まるのだろう。


(まずかったな。魔石欲しさに、貴族とのパイプを絶ったは悪手だったかな)


 宗孝はちょっと後悔した。


「けっ、こっちから願い下げだ!」


 タルボは地面に唾を吐いた。


「おい、皆、今から移動するぞ! きっとユメルの軍隊が明日ここに攻めて来る!」


(ひえええ!)


 物騒過ぎる。

 ユメルにしてみれば、自分が使っていた盗賊団が何を喋るか分からない。

 それこそ、貴族間で盗賊を雇用していたことが知られたら追放される。

 報復なんて甘い。

 明日にでもギド盗賊団を根絶やしに来るだろう。


「ま、待ってくれ!」


 そう言いながら、駆け出したのはリヒト達だった。

 その後に、数名の子分たちが続く。


「み、みんな、待ってちょうだい!」


 マイファが止めようとするが、無視してユメルの方へ走って行く。


「マイファ! あんな腰抜けどもほっとけ!」


 タルボの怒声が響いた。



 ということで、ギド盗賊団とユメル家はケンカ別れした。

 お互い長い間の付き合いだった様だが、タルボはユメルに対してわだかまりを持っていた様で、これを良い機会ととらえた様だ。


 だが、それはいいとしても、ギド盗賊団はその結果二つに分裂した。


 ルヒトをリーダーとする盗賊団と、それまでのタルボが率いていた盗賊団の二つに。


 タルボ側に残ったのは、マイファとアイリーン。

 そして、10人いた子分はたったの3人になった。

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