第8話 盗賊団の分裂
「これが最後です。魔石を渡しなさい。そうしないと、あなた方は不利になりますよ」
ユメルが手を差し伸べるが、タルボは首を縦に振らなかった。
「くっ……」
ユメルはどうしても魔石が欲しいらしい。
魔石には力が宿っていて、その力にあやかりたいのだろう。
だとすれば、タルボも魔石の力を感じ始めたのかもしれない。
「ユメル様」
それまでずっと黙ってユメルの横に立っていた紫色のフードを被った者……男か女か分からない奴が、声を上げた。
「魔石は必要ですが、こんな奴らに頭を下げてまで、今すぐ手に入れる必要はありません。こちらの研究もまだ途中ですから」
小さな声で囁く。
その声が聞き取れたのは、宗孝だけだった。
宗孝の聴力は生まれながらにして優れていた。
「うむ……。お主がそう言うのならば……」
ユメルは納得した。
「仕方ありません。ギド盗賊団とはこれでお別れです」
ユメルは貴族としての振る舞いに戻った。
「では、あなたがたの身にこれから何が起きても、私を恨まぬよう……」
そう言い残して、踵を返した。
不気味だった。
これから報復が始まるのだろう。
(まずかったな。魔石欲しさに、貴族とのパイプを絶ったは悪手だったかな)
宗孝はちょっと後悔した。
「けっ、こっちから願い下げだ!」
タルボは地面に唾を吐いた。
「おい、皆、今から移動するぞ! きっとユメルの軍隊が明日ここに攻めて来る!」
(ひえええ!)
物騒過ぎる。
ユメルにしてみれば、自分が使っていた盗賊団が何を喋るか分からない。
それこそ、貴族間で盗賊を雇用していたことが知られたら追放される。
報復なんて甘い。
明日にでもギド盗賊団を根絶やしに来るだろう。
「ま、待ってくれ!」
そう言いながら、駆け出したのはリヒト達だった。
その後に、数名の子分たちが続く。
「み、みんな、待ってちょうだい!」
マイファが止めようとするが、無視してユメルの方へ走って行く。
「マイファ! あんな腰抜けどもほっとけ!」
タルボの怒声が響いた。
◆
ということで、ギド盗賊団とユメル家はケンカ別れした。
お互い長い間の付き合いだった様だが、タルボはユメルに対してわだかまりを持っていた様で、これを良い機会ととらえた様だ。
だが、それはいいとしても、ギド盗賊団はその結果二つに分裂した。
ルヒトをリーダーとする盗賊団と、それまでのタルボが率いていた盗賊団の二つに。
タルボ側に残ったのは、マイファとアイリーン。
そして、10人いた子分はたったの3人になった。
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