第7話 赤ん坊が原因で貴族と盗賊の関係が悪化

「わわ! 何だこの赤ん坊は!?」


 タルボの腕に抱かれた宗孝は大声を出し、泣き叫んだ。


「おい! どうした!」


 突然泣き出した宗孝に困惑するタルボ。

 その隙に宗孝はその手から魔石を奪った。


「おい! 赤ん坊! その石を渡しなさい!」


 ユメルが魔石を取り上げようとする。

 だが、宗孝は必死で抵抗した。


(魔石といえばゲームや異世界ファンタジーで重要なアイテムだ。それを簡単に渡すなんて、この盗賊団の親分、意外に世間知らずなのか? 簡単に取られる訳にはいかねーだろ! 駆け引きの道具に使わなけりゃもったいない!)


 小さな手足をばたつかせながらもそう思った。

 ギド盗賊団が有利な立場になれば、宗孝の立場も安全も保障される。

 どうやらギド盗賊団は貴族に利用されている様にも見えるし、ここは、駆け引きの道具として魔石を盗賊団として所有した方がいいと考えた。


 そのことをタルボに伝えたいのだが、言葉が出ない。

 だから、魔石を大事そうに抱え、目で訴えた。


 タルボの瞳と宗孝の瞳が重なる。


「おっと、ユメルの願いとはいえ、やっぱこの魔石とやらを容易く渡すのはもったいねぇなあ……」


(やった!)


 自分の願いがタルボに伝わった様だ。


「何だと!? 貴様……。雇い主に逆らう気ですか?」


 ユメルは眉間に皺を寄せた。

 いつの間にか、丁寧な言葉遣いが少し荒々しい言葉遣いに変わった。


「逆らうも何も、俺たちは対等じゃねぇか。俺たちは依頼された仕事をこなし、お前らから報酬を貰う。身分なんか関係ない。そんな関係だろ?」


「くっ……」


 タルボは脳筋キャラっぽく見えて、意外に頭が切れる。

 宗孝は感心した。


「魔石の収集は仕事として依頼したはずです。お前達は仕事を反故にするのですか? ならば、契約違反で今後お前達に仕事を依頼しませんよ」


 諭す様に言うが、呼気や目から焦りと怒りが露わになっている。

 ユメルは盗賊団の子分達を見渡し、取引の様な事を持ちかける。


「それでいいのですか? 仕事が無ければ、報酬も与えませんよ」


 子分達がざわつき始めた。

 仕事が無ければ、ご飯が食べられない。

 そんな単純な脅しだった。


「あんた……」


 マイファが心配そうにタルボの側に寄り添う。

 彼女の腕の中でアイリーンはすやすや眠っていた。


(こんな状況なのに、良く寝れるな)


 アイリーンの肝の太さに宗孝は驚いた。


「勝手にしろよ。俺たちは盗賊だ。自分達で獲物を探して強奪した金品で生活するよ。お前ら貴族とは仕方なく付き合ってたんだ。先代の親父からの付き合いだからな。だが、俺の代になってからは違う」


 タルボは一歩踏み出し、ユメル侯爵を睨みつけた。


「それにお前らと仕事するのは窮屈だったんだ。取り分の割合は半分ずつだし、アサシンを育成しろだの言って来る。この際だ、俺たちは俺たちのやり方でやらせてもらうぜ!」


「くっ……」


 タルボの言葉に、ユメルは歯ぎしりした。


 宗孝が魔石の重要性を訴えたことで、ギド盗賊団とユメル家の間に亀裂が入り始めた。


 

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