第6話 魔石の魅力

「そう。仕事の話と魔石の話。私としてはどちらも大事な話だが……」


 だが……一体何だというのか?


「魔石の方がどちらかと言うと、大事なはなしかもしれません」


(なんか、イライラするなこいつ)


 もったいぶったユメルの話し方にイライラする宗孝だった。


「ユメル様。お茶です」


 マイファが器を差し出す。

 お茶が入っている。


「いえいえ、お構いなく」


 ユメルは丁度いい大きさの岩の上に座る。

 お茶には手を付けない。

 当然、従者も手を付けなかった。


「じゃ、まず魔石の話からすっか?」


 タルボが問い掛ける。


「いや、楽しみは後に取っておきましょう。まずは仕事の話から」


 ユメルがそう言うと、親分と子分10名は一斉に目の前の貴族に視線を向けた。


「三日後の夜、カドレア侯爵の家を襲ってくれ。金品と共に女神の石像を奪ってくるのです」


 それが盗賊団への指令だった。


「いいのか? ユメル」


「はい」


「クリームオー諸侯連合として、ユメル家がカドレア家を襲うなんて、あってはならないんじゃねぇか?」


(クリームオー諸侯連合?)


「確かに、かの家とは同盟関係。お互い何かあれば駆け付け助け合う関係です」


「だったら、まずいんじゃねぇのか?」


「これは世の中のためです。問題ありません」


 タルボとユメルは対話を続けていた。

 宗孝は話を聞いていて、こう理解した。

 クリームオー諸侯連合には、5つの貴族家が属している。

 その中でも、力があるのがユメル家とカドレア家らしい。

 そして、カドレア家が治める領地は重税に苦しんでいた。

 それを成敗するために、ギド盗賊団にカドレア家を襲う様にユメル侯爵は依頼をしていた。


「少しこらしめなければなりません」


 ユメルはそう言った。

 涼やかな見掛けによらず、やろうとしていることは強引だ。

 要は私財を奪うことで、カドレア家を弱体化させたいのだろう。

 同盟関係とはいえ、裏ではお互いの足を引っ張っている何だかギスギスした関係の様だ。


「ま、俺たちは報酬がもらえて、ひでぇ奴を懲らしめることが出来ればそれでいい」


 決行は明日の夜になった。


「そして……」


 ユメルがゆっくりと口を開いた。


「これだろ?」


 話に入る前にタルボは腰に下げた袋から、丸い物を差し出した。


「おおっ!」


 冷静な、むしろ眠たそうだったユメルの目が輝いた。

 その瞳には、怪しく光る赤い石が映っている。


「この前、襲った商人が持ってたぜ」


「これが魔石……」


「あんたが言ってた特徴とそっくりだったから、こうして取っておいた。これが魔石っていうのか? 何だか綺麗な石だが、俺たち一銭もならない者には興味ないぜ。そんなに欲しいならくれてやる」


 タルボは本当に魔石に興味が無さそうだった。

 だが、ユメルは魔石に興味津々だった。

 息が荒くなるほど、魔石を見ている。


(タルボは魔石の意味を知らないんだろうな)


 宗孝はそう思った。


「ほらよ」


(まずいな。素直に渡そうとしている)


「うわああああああん!」


 宗孝は大声で泣くことで、魔石の譲渡を阻止しようとした。

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