第10話 ペルと宗孝

「子犬!?」


 大神様は目を丸くした。


「丸くて小さくてフワフワして、とても可愛かったです!」


「そんなことは訊いておらん!」


 子犬の姿を思い出して、目を輝かせるルネスを一喝する大神様。


「「はいいっ!」」


 大神様の怒りにふれビビるルネスとデウス。


「その男と子犬が転生した世界ナンバー539はどんな世界なのじゃ?」


 大神様は自らの手の平に、黒い石板を発生させた。

 ルネスもデウスも発生させた。

 まるでタブレットの様にその表面を撫で、フリックする。


「世界ナンバー539……。中世世界。主な種族は人間、獣です。あっ、あと……エルフとかいう亜人間もいますね。国家間の戦争がたびたび起こり、治安が安定していません。一部の貴族と、商人が富を独占し奴隷と呼ばれる階級を酷使しています。あっ……そして、魔物と呼ばれるモンスターが復活ししつつあります」


 ここにいる誰よりもいち早く世界データベースから情報を取得できたルネスが、早口で大神様に説明する。


「エルフだと!? 典型的な異世界ファンタジー世界って感じだな」


 それを横で聞いたデウスが頷く。

 彼はエルフという単語に反応した。


「耳尖ってて色白でかわいいんだよね。エルフ」


 ポワンとしたデウス。

 それを無視して続けるルネス。


「大きく他の異世界と違うところは、まだ魔法が発明されていないと言ったところでしょうか……」


 ルネスが石板の上に置いた指を上下させる。


「魔法か……確かに異世界ファンタジーに良く存在する例のやつだな」


 それを横で聞いたデウスが頷く。


「世界ナンバー539において、子犬は勇者として生まれ、その男は孤児として生まれたわけじゃな」


「はい」


「孤児の親は? 誰じゃ?」


 大神様の問いにルネスは石板の上の指を走らせる。


「まだ……世界データベースに載っていません」


「世界データベースは情報更新が遅いのが難点じゃな」


 天界では多数の世界を世界データベースというシステムで統合管理していた。


「で、その男が生きていた世界と、子犬が生きていた世界ナンバー1503について教えるのじゃ」


 大神様は石板での検索が苦手だった。


「わしはこういう便利なものが苦手でな。昔みたいに紙で管理したいものじゃ。指でサクサク調べられるのはいいが素っ気ない。昔はな、もっとこうアナログで神と神の繋がりが……」


 大神様は古いタイプの神様だ。


「あっ、大神様! 男と子犬は同じ世界にいたようです!」


 ルネスは大神様の話の腰を思いっきり折った。


「ん、んむ……。で……?」


 話の腰を折られた大神様は何だか不満そう。


「はい。1503世界は銀河系。その星の一つ地球。天月宗孝は日本という国に生まれて高校生という状態でした」


 早口でルネスは説明する。


「地球か、あそこで作られるアニメとやらは面白いな」


 デウスが率直な感想を述べた。

 きっとエルフと異世界ファンタジーの良さもアニメとやらから学んだのだろう。


「子犬の方は?」


「はい。子犬の名はペル。雌です。豆柴という種族です。人間に飼育されていました。飼い主は井下田唯菜。小学生という状態。ですが、彼女は親にこう言われました」


「なんと?」


「引っ越すからペルは捨てなさい、と」

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