第11話 前世の記憶
井下田唯菜に飼われていたペルは、彼女が引っ越すタイミングで、捨てられた。
結菜は泣いていやがったが、両親に反対され諦めた。
ペルと宗孝の出会い。
その日、宗孝は学校を終えて帰宅するところだった。
通学路を歩いていると、目の前を好きな女子が歩いている。
麻日菜子。
彼と同じクラスで、3番目くらいに可愛い女子だ。
3番目ってところが宗孝レベルでも努力すれば届きそうな感じで、おんなじことを考えている男子が多いから、1番目に可愛い女子よりも、かえって日菜子は人気があった。
笑顔がとにかく可愛いのだ。
(確か部活じゃなかったのか? サボりかな)
彼女はバレーボール部だ。
夕方4時に帰宅するなんて、部活が休みかサボりか。
(周りに誰もいないし、思い切って声を掛けてみるか)
平凡な宗孝だが、いっちょ前に彼女は欲しかった。
彼女が信号で止まった。
(よし。追いつける)
駆け出した瞬間、
「きゃー!」
日菜子が叫ぶ。
その視線の先には、横断歩道の真ん中でごみを漁っている子犬がいた。
それがペルだった。
ゴミ漁りに夢中のペルは、寸前までトラックが来ていることに気付かない。
「うおおお!」
宗孝は日菜子に追いつくべくダッシュしていたから、そのままの勢いで日菜子の横を通り過ぎ、ペルを助けようと走る。
(行ける! 僕はずっとダッシュ態勢だったから、他の誰よりも加速がある! 見ろ! もう子犬に手が届きそうだ! 抱きかかえてそのまま横断歩道を渡り切ればいい! トラックはまだあんなに離れている!)
全ては日菜子にカッコいいところを見せたいがためだった。
「あっ!」
宗孝は足を滑らせた。
今時、バナナの皮が道に落ちていた。
そのままペルの前に倒れ込み、トラックと衝突。
帰らぬ人となった。
ペルは間一髪飛び退いて無事だった。
宗孝が倒れたことでトラックに気付けたからだ。
◆
「なるほどな……」
大神様は宗孝の死因を知り、やはり可哀そうな奴だと思った。
「で、ペルはなんで死んだのじゃ? 宗孝に救われたのではないのか?」
大神様はルネスに問い掛けた。
ルネスは石板に書かれた情報を読む。
「はい。ペルはその後、宗孝の死体が救急車で運ばれるのを見届けた後、その場を去りました。そして、川べりの自分の棲み処に向かっている途中、川で溺れている小鳥を救おうとして、自らも溺れて死にました」
「宗孝を見習ったのかな……」
ペルの死因を聞いたデウスが感慨深そうに言う。
大神様はこう言った。
「まぁ、仕方ない。お互い同じ世界で再会出来れば幸せかもしれん。だが、お互い前世の記憶がないから、すれ違っても分からないが……それはそれで運命。かえって、そんな記憶がある方が、生まれ変わった世界で混乱を招くことになるもんじゃ」
全ての生きとし生けるものは、前世の記憶を持たない。
神たちにより消去されて次の世界に送り込まれる。
それは、大神様の言う通り、前世の記憶があると、その世界ではやってはいけないことを行う可能性があるからだ。
「すいません。大神様」
「なんじゃ、ルネス。まだあるのか?」
「はい……。実はペルと宗孝の記憶を消すのを忘れたまま転生させてしまいました……」
「バッカモーン!」
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