第12話 諸侯連合の関係

「それにしても、この魔石って奴は、よっぽど大したもんなのかねぇ……」


 タルボは赤く光る魔石を摘まんで、しみじみと眺めた。

 それを受けてマイファがアイリーンをあやしながら応える。


「ユメル侯爵が欲しがるからよっぽどのものなんだよ。きっと」


 確かに、裕福な貴族が欲しがっている。

 金銀財宝はたらふく持っているだろう。

 その人物が、こんな丸っこい石、たった一つで怒ったり、関係を断絶したり。


「不思議だよな。人間って。もっと大切なものがあるだろうに……」


 タルボがしみじみという。


「あー。あー」


 宗孝は手足をばたつかせて、魔石の有効性を訴えてみた。


(魔法だよ。魔法。魔石は魔法開発に必要なんだ。きっと、この世界では魔法が重要なんだ。あのユメル侯爵の従者。あいつは絶対魔法使いだ。何魔法を研究しているか分からないが……。この世界で魔法が使えるようになった者が有利に立てる)


 もしも、ギド盗賊団に魔法使いが誕生すれば、宗孝の安全は保障される。

 この魔石をどう使うかは分からない。

 だが、近い将来ギド盗賊団に魔法を知る者が入ってくれれば……


「あん? お前さっきから元気だな」


「あう、あう」


 ギド盗賊団一行は、新しいアジトで休憩していた。

 引っ越しに一晩かかった。

 今はもう早朝。

 朝日が洞窟にも入って来ている。

 さっきまでいたアジトから5kmも離れていない。

 前のアジトはユメル侯爵が治めている領地だった。

 だが、ユメル侯爵と関係が途切れたので、そこにいては何かとまずい。

 ということで、隣接するカドレア侯爵が治める領地にある森の中に移動した。

 その森の中にある洞窟を急遽アジトにした。

 あえてカドレア領内に入ったのにはタルボなりの理由があった。


「あのユメルがカドレアの家を襲えって言ってたよな。その理由が知りてぇ」


 タルボは朝ごはんの支度をしているマイファに話し掛けた。


「そうだねぇ。クリームオー諸侯連合がいよいよ仲が悪くなり始めたのかねぇ」


 クリームオー諸侯連合とは、ユメル家、カドレア家を筆頭に、ドドズル家、ポケコム家、リリス家の五大貴族連合だ。

 諸侯は身を寄せ合う様に領地も近い。

 周りの大国に競い合う様にして作られた連合であり、同盟関係だ。


 その同盟が崩れつつある。


 ユメル侯爵は、私物化した盗賊まで使い……カドレア家の私財を奪うことで、弱体化させたいだけなのだろうか。

 その先には、何か大きな戦争が待っている気がする。

 タルボはそう考えている。

 ユメルとは関係を絶ってしまった。

 だが気にすることはない。

 代わりに、新しい関係を作ることは出来る。


「これを機に、カドレアに接近して情報を集めてみたいんだが」


 タルボはマイファに問い掛ける。

 というか提案だ。


「争い……戦争を食い止めたいんだね」


 マイファが朝食を机代わりの平らな岩に並べる。


「おう。俺たちみたいな、奴をもう作りたくないんでな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る