第61話 弓の傭兵

「ところで、ユメル殿の命を救ったあの男は?」


 オズモンド国王は思い出した様に言う。


「ああ、あの弓の者ですか」


「うむ。中々の腕の者だった」


「お呼びしましょうか」


「ああ」


 執務室に呼ばれたのは、細身で黒い髪、切れ長の目が涼やかな男だった。

 手には弓を携え、腰には矢が入った筒。

 入って来るなり、ユメル侯爵は問い掛けた。


「お主、先程は助かった。名は?」


「バルドだ」


「バルド。先ほどは、助かった」


「ああ、そのことか。大した事ねぇよ。自分を売り込んだまでだ」


 すすめてもないのに、バルドはドカッと椅子に腰を下ろした。


「売り込んだ、とは?」


 ユメル侯爵も座る。


「ああ、あんたら、金持ってそうだな。俺をや雇わないか?」


「なに?」


 足を組みふんぞり返りながら交渉して来るバルド。


「そこの髭のオッサンは金持ちそうだな」


 オズモンド国王のことを指差しながら、バルドは出されたお茶を飲んでいる。


「お主、命の恩人とはいえ、その態度、許さんぞ!」


 ユメル侯爵が怒鳴りつける。

 だが、バルドは気にしていない様で、お茶のお代わりを要求して来た。


「まぁ、まぁ、ユメル殿。私は実力のあるものが好きだ。多少、無礼を働こうが気にせん。逆に、丁寧な者でも、実力の無い者は嫌いだが」


 オズモンド国王は目を細め、バルドにお茶を注いでやっている。


「ありがと。オッサン」


「どういたしまして。ところで、バルド、お前は何処のものだ?」


「俺はマルキウ王国の生まれ。だが今は、国を捨て、傭兵をやりながら各地を転々としている」


 バルドは更にお茶を飲みながら言う。


「その弓の実力は、どこで?」


「ああ、戦いの中で自然に身に付けた。色んな武器を試したが、これが一番合っている」


 崖の上にいたムネタカを攻撃したのもバルドだった。

 そして、ユメル侯爵を前に立ち止まったムネタカを、気付かれない様に射たのも彼だ。


「最初はガキの方の味方をしようか考えたが、あんたらのほうが金持ってそうだから、あんたらの味方した」


「ほう、金が好きか?」


「ああ。何でも出来る。金があれば」


「面白いやつだ」


「で、雇うのか? 雇わないのか?」


 バルドはオズモンド国王を見た。


「いくらだ?」


「100000」


「お主……」


 100000といえば、かなりの額だ。

 ユメル侯爵が睨みつける。


「まぁ、良いではないか。ユメル殿。この男の実力は証明されている。これほどの弓の名手なら雇って置いて損は無かろう。よし、私からその金は出す。我が軍に入れ」

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