第1章

第46話 10年後

「たあっ! とぉっ!」


 カドレア邸の地下の訓練場に勇ましい声が響く。


「ムネタカ、そんなことでは敵を倒せんぞ」


「はい!」


 ムネタカはこの世界に生まれてから10歳になった。

 あっという間の10年間だった。


「この辺にしておきましょう」


 マーシャが汗を拭う。


「はい」


 お互い、木刀を置いた。


 ムネタカはマーシャにこうして毎日、訓練を受けていた。

 あの日以来、復讐に燃え、自らを鍛え上げることに専念していた。


「ふぅ……。だいぶムネタカも強くなったね」


 マーシャは部屋の片隅にある丸椅子に座り、水を一口飲む。

 彼女は25歳になった。

 もう立派な大人に成長していた。


「はい。あいつらを……殺さなきゃ」


「ムネタカ、子供のくせに物騒なことを言わない」


「あ、はい。すいません」


「でも、あいつらを殺すことは私達の目標であり使命……」


 マーシャとムネタカはともに同じ使命に向かって歩んでいた。


「だが、兄上やフェミナ様には今のところそのことは反対されている。他の諸侯との関係も考えておられる。我々と立場が違うからな」


 マーシャが眉根を寄せる。

 カドレア家でも、その復讐については意見が対立していて、10年経った今も結果が出せずにいた。


「マーシャ、でもいつかはやらなければならないんです! ユメルの首を取ること、その背後にいる組織を壊滅させること、そしてアイリーンを救い出すことこそが……タルボや死んでいった仲間達の魂を救うことになるのです」


 ムネタカの言葉は熱を帯びていた。

 10年前、父親も同然であり自分の命を救ってくれたタルボをユメル侯爵に殺された。

 ユメル侯爵はいまも、健在であり、あの日以来、ユメル侯爵はクリームオー諸侯連合の中で力を付け始めた。

 きっと、沢山の魔石を手にしたからだろう。

 武力というか魔法の力を手にしたと思われる。

 だが、魔法を魔法とハッキリとした力で誇示しているわけではなく、その存在を曖昧にし、不気味な外交の道具として使っていた。


 ムネタカはこの世界にどっぷりと染まっていた。

 転生した直後は、現世のことを考え、戻りたいと思っていたが、今ではここで生きることだけを考えている。

 生きる目標があるというのも大きな理由だ。

 それは、もちろん、復讐だった。


「ムネタカ。復讐心を途切れさせないようにね。だが、あまりそのことを口にしないこと。誰が聞いているか分からないから。諸侯連合は同盟関係とはいえ、お互いの領内に密偵を送り込んでいるのが常。周りに配慮すべきよ」


 マーシャの忠告に頷くムネタカ。


コンコン。


 訓練室の鉄の扉がノックされる。


「なんだ?」


 扉越しにマーシャが声を上げる。


「はっ! フェミナ様がお呼びです」


 扉の向うの兵士が答える。


「分かった。今行く」

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