第45話 助けた子犬が転生した先は……

 時を同じくして、ムネタカと同時に、世界ナンバー539に生を受けた者がいた。


「生まれました。オズモンド様。元気な女の子です」


 執事にそう言われたオズモンドは、会議室にいる全員に黙礼し、その場を立った。



「よくやった。セシリア」


「はい……あなたが望む男の子では無かったのですが……」


「いや、気にするな。子供が元気であればそれでいい」


 オズモンド国王は、セシリア王妃に頭を下げた。

 セシリア王妃が横たわっている横には、生まれたばかりの赤ん坊が寝ていた。


「だあだあ……」


「おお。可愛いのぉ……」


 オズモンド国王は我が娘を抱き上げた。

 正妻が初めて産んだ子供だ。

 大事に育てなければ。


「そうだな、名前は何にしよう」


「私、この子を産み落とす時に頭に浮かんだ名前があるのです。


「なんだ? セシリアよ、申してみよ」


 オズモンド国王は、セシリア王妃を見てそう言った。

 セシリア王妃の美しい唇が開き、小さな言葉が発せられた。


「……ペル、というのはどうでしょう」


「ペル……か……」


 この世界に余り無いというか、無い名前だ。


「ふむ。一体、どういう意味だ?」


 オズモンド国王は、顎に手を当て考え込んだ。


「……意味は……特にありません。ただ、直感というか、この子が生まれる瞬間、願ったのです」


「願ったとな?」


 不思議な出来事に首を傾けるオズモンド国王。


「はい。私の名前は『ペル』です……と」


 セシリア王妃の顔が笑顔になった。

 ペルという名前に、赤ん坊が笑顔になり、手を叩いたからだ。


「分かった。お前は今日からペルだ。ペル、お父さんだぞ」


 オズモンド国王は、ペルを、たかいたかい、した。


「きゃっ、きゃっ!」


 ペルは手を叩いて喜んだ。


 そして、ペルはこう思った。


(ムネタカもこの世界に来てたらいいなあ……)


 ペルはムネタカが現世で救った子犬だった。

 ペルは再びムネタカに会いたかった。

 会ってどうしようかって訳でもない。

 ただ、会いたいだけだ。


 こうして、ペルはディレックス王国の国王の娘として生を受けた。

 それは、彼女が勇者として生まれたことを意味していた。


 それから、10年の月日が過ぎて行った。

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