第44話 逃げ伸びた先には……
暗い森の中に、馬のひづめの音が響き渡る。
木々の間から差し込む月明りに時折、白く輝く白馬。
その白馬に跨っているのは白銀の鎧をまとったマーシャだった。
彼女は背中にムネタカを背負っていた。
「ぐー、ぐー」
マーシャの目の前には、小さな頭が揺れている。
「フェミル様……」
さっきまで泣き叫んでいたフェミルが、落ち着いたのか泣き疲れて眠ってしまっている。
彼女を落とさない様に、マーシャはしっかりと彼女の身体を両腿で挟み込んだ。
「いつか、仇を討たなければ……」
主君を殺された恨みを晴らさねば。
フェミルにとっては父親だ。
カドレア侯爵を守るために死んでいった騎士団のためにも。
そして、タルボの仇も取らなければ。
「ムネタカ、元気?」
「あうあう」
「そう。良かった」
マーシャの白銀の鎧の冷たさが、上気したムネタカの頬に心地いい。
何も持たない赤ん坊の自分を助けてくれたのがタルボだ。
あのまま森の中で捨てられたままだったら、いつか獣やモンスターに食い殺されていただろう。
タルボの節くれた分厚い手の感触。
抱かれたときの胸板の筋肉。
優しく見下ろしてくれるギョロ目。
最後まで勇ましく戦う姿。
頼りになる父親の様だった。
そう、タルボはムネタカの父親だったのだ。
とても短い時間だったが……
(どんなことがあっても、タルボの仇を取る!)
ムネタカもまた心に誓っていた。
「……もう、追ってこないよね。オヒューイ」
マーシャは自分に言い聞かせる様に、白馬に話し掛ける。
オヒューイは彼女の愛馬だ。
子供の頃から世話して来た。
窓から飛び出した時、丁度、オヒューイが厩舎から飛び出して来た。
まるで、彼女達の危機を知っていたかのように。
「ヒヒン」
「そう……。ありがとう」
マーシャが今、頼りになるのはこの白馬だけだった。
決心はしてみたが、不安でいっぱいだった。
騎士とはいえ15歳の少女には、今日一日色々あり過ぎた。
受け止められる範囲を超えた出来事は、彼女を不安にさせた。
どこにあてを求めればいいのか、分からない。
「こんな時、お兄様がいてくれたら……」
同じく、カドレア侯爵に仕える兄のことを思い出す。
クリームオー諸侯連合の一角、ロンウッド侯爵の元に用があって不在だった。
「だめだ! 私がしっかりしなきゃ!」
マーシャは手綱を握る手に力を込めた。
◆
どれくらい走ったか分からない。
森を抜け、街道の脇に差し掛かる。
遠くにタイマツの明りが見える。
騎士の一団の様だ。
(もしかして、追手……?)
ユメル侯爵が遣わした者達か?
オヒューイに指示を出し、街道の脇に寄せた。
マーシャは様子を窺った。
「……そこにいるのは? マーシャか?」
団の率いる男が馬上から声を掛ける
「……もしかして、兄様」
マーシャは兄の元にオヒューイを寄せた。
「ゼスト兄さま!」
「どうした? マーシャ? こんなところで? 泣いていては分からん」
同じく白銀の鎧をまとい、赤い髪の短髪、白面、鼻筋の通った、容姿端麗の騎士は妹の頭を撫でた。
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