第38話 仲直り

「おいおい、ルヒトがヘマしたからって侯爵様自らが、盗賊に扮して盗みに入るなんてお笑いだな」


 タルボが痛みを紛らわす様におどけた様に言う。

 右腕が無くなったのに笑っているタルボを見て、ユメル侯爵は驚く。


「しぶといやつだ……」


「カドレア侯爵にバレたら面倒なことになるもんな。貴族であろう、ましてや同盟関係であるお前が女神像を盗みに入ったなんてバレたらな」


「くっ……」


「なんなら、大声出して、増援を呼んでもいいんだぜ」


 タルボにからかわれ、カドレア侯爵は声を荒げた。


「うるさい! 黙りなさい! このゲイボルグでお前を葬る……、え!?」


 ない。


 右手に持っているはずの聖槍ゲイボルグが無い。


「あれ? あれ?」


 命綱ともいえる神器が無い。


「バカかお前は」


 タルボが言う。

 その言葉に反応し、タルボの方を向くユメル侯爵。


「あ!」


「そうだよ。さっきのどさくさに紛れて盗んだよ。盗むのが俺の仕事だから」


 神器はタルボの左手に握られていた。


「正体がバレて気が焦ってたんだな。あっさり盗めたよ」


「貴様、神器を……」


「え? これ神器なのか?」


 カドレア侯爵が言っていたことを思い出すタルボ。

 500年前の10英雄と魔王との戦いで、10英雄がそれぞれ手にしていた武器のことだ。

 今手にしているこの槍が神器だというのか。


「すげーな! 意外に軽いし。売ったらいくらになるんだ!」


「貴様、売るとは失礼な! 返さないか! 我が祖先の……」


「おいおい、神器を人殺しに使うお前の方が、祖先に対して失礼だろ」


 ツッコミを入れるタルボ。

 顔面汗まみれのユメル侯爵。

 あっという間に形勢逆転だった。


「あの……親分。俺……」


 ルヒトが恐る恐る尋ねる。


「ああ、お前らさっきはユメルを止めてくれてありがとう。やっぱ、お前ら俺の子分だわ」


 タルボがルヒトに笑顔で応える。


「じゃ、俺らと一緒に」


「いや、ユメル侯爵と一緒なら嫌だ」


「そっすか……」


「ま、だけどな。俺は今からユメル侯爵をこの神器で捕らえる。ユメル家は同盟を結ぶ諸侯に盗みに入ったという罪で解体される。どちらにしろお前達は主人を失う。だから、その後、俺のところに来い。今度の主人はカドレア侯爵だ。また一緒にやろうぜ。カドレアのおっさんはいい奴だぞ」


「は、はい」


 ルヒトが戸惑いながらも笑顔で頷く。


「じゃ、やるか」


 タルボと子分達はユメル侯爵の方を一斉に向いた。


「くっ……」


 ユメル侯爵が後ずさる。


「落ち着いて。侯爵」


 扉の陰に隠れていた紫のフードを被った人物が声を上げる。

 その手には赤ん坊が抱かれていた。

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