第54話 仇の娘
オニゴズラの毒が一瞬で身体中を駆け巡った。
不幸なユメル公爵の騎士は、鎧の継ぎ目に毒針が刺さったのだ。
「ギギギ……」
全身が紫に膨れ上がるが、そのおぞましい姿は鎧の下に隠れて他の者には見れなかった。
「大丈夫かっ!?」
「誰だ! 敵はどこだ!」
「であえ! であえ〜!」
一行は混乱しつつも、周りの状況に対応しようとしていた。
「取り乱すな! 敵は近い! 勇敢なものはあの崖に登れ! 他は命をかけてオズモンド様、セリシア様、ペル様をお守りしろ!」
ユメル公爵の叱咤が崖の間に響く。
「ギギギ……」
「大丈夫か?」
不幸な騎士に駆け寄る他の騎士。
「バカモン! そいつはもう助からん!」
ユメル公爵の非情な言葉。
「ですが……」
不幸な騎士を抱える騎士が、混乱する。
毒針が刺さった騎士は本当に不幸だった。
◆
「しまった……」
ムネタカは苦悶の表示で腫れ上がる右の手の甲を左手で押さえる。
ユメル公爵への狙いは充分だった。
あのままポイズンガンによる毒針を射出出来れば間違いなくユメル公爵を殺す事ができた
しかも苦しませながら。
だが、その役割は、ユメル公爵の側にいた不幸な騎士に取って代わられた。
「誰だ、お前は?」
ムネタカは声を荒らげた。
黒いローブを着た背の小さな者……
今、ムネタカをじっと見るその者の攻撃のせいでムネタカの手元は狂った。
だから、ユメル公爵の側にいた騎士を不幸にしてまった。
「こっちこそ、お前は何者だ?」
ローブの者は問を投げる。
しばしにらみ合う。
沈黙。
「我はユメルの娘、マリメッコなるぞ!」
「え?」
ユメル公爵の娘がなんでここに?
その問は投げかけるまでもなくムネタカに返ってきた。
「寝坊して、父上に遅れを取り、その遅れを取り戻すために急いで来た。近道を。そしたら不埒なことをするお前がいた!」
早く口で甲高い声で説明するマリメッコ。
フードで顔は見えない。
かなり興奮しているようだ。
ところで寝坊して、というのが敵ながらかわいい。
「ストーンロック!」
……と、油断してると、石のつぶでが飛んできた。
マリメッコの手の平からほとばしる。
「うわ」
この攻撃のせいでムネタカは、狙いを、外したのだ。
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