第63話 会うために生まれた
「つまり、ローランは出来が悪くて足手まといだから、お姉さんから疎まれてるってことね」
「うっ……、まあ、そういうことになるんでしょうか」
ペルの口から、忖度なしにズバリと言われたローランは落ち込んだ。
言った方のペルは、特にローランを貶める意図も無く、思ったことを言ったまでである。
「ローランは大丈夫だよ。そのうち強くなるんじゃない?」
「え!? そうですか」
「だって、ムネタカの前に立ち塞がってお父さんのこと守ろうとしたでしょ」
「あれは……、結局、何も出来なかったから……」
「いや~、殺されるかもしれないのに立ち向かうのはすごいよ」
「そうですか……。へへへ」
ペルに褒められて喜ぶローランだった。
階段を降り、石畳の廊下に降り立った。
「もう少しです。ペル様。あの角を曲がると、ムネタカが投獄されている部屋に着きます」
ペルが指差す先には、門番と思しき兵士の影が見える。
筋肉ムキムキで皮の鎧がはち切れそうなほど、太い腕と足をしている。
「分かった。ちょっと待ってて。ローラン」
そう言い残すと、ペルの姿が消えた。
一瞬にして音もなく、門番の背後まで移動していた。
「おう!」
兵士は変な呻き語を上げると、膝を突き泡を吹いて倒れた。
「ペル……様……」
状況が呑み込めず呆気にとられるローラン。
「さ、行くわよ」
いつの間にか門番から鍵を奪ったペル。
彼女は、自分の正体が露見するのを避けるため、これから自分が何をしようとしているか見られるのを避けるため、門番を眠らせた。
「ペル様……強い……」
「毎日、訓練させられてるからね」
屈強な兵士は、ペルの手刀を首に受け気絶したのだ。
ローランはそのヒット力と、音も出さず獲物に近づく俊足に、驚いた。
そして、可愛いのに、強いというペルのギャップを目の当たりにして、ますます彼女のことが好きになった。
「開けるわよ」
ペルが扉に手を掛ける。
(ああ、やっと、ムネタカに会える)
トラックに跳ねられそうになったところを、助けてもらった。
彼の腕に抱かれたとき、彼の名前を知った。
彼の胸の辺りに付けた名札。
そこに彼の名前があった。
私はその時、犬だった。
だけど、その名前を形として覚えた。
そして、この異世界に来た時、私は知性を得ていた。
あの文字は、ムネタカと呼ぶのだ。
そして、私はムネタカを探すために生きることにした。
「ムネタカ!」
ペルの歓喜の声が拷問部屋にこだました。
「あああ! こんなひどいめにあって!」
次の声は悲嘆に満ちた叫びだった。
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