第49話 暗殺
ところで、なんでフェミナは、マーシャと自分を執務室に呼んだのか……
ムネタカは、ふと、そのことが気になった。
「あの……」
ムネタカはフェミナを見た。
相変わらず身体が小さすぎて、机から顔半分しか出ていない。
大きな黒い瞳に茶色いツヤツヤの髪だけが見える。
なんだか可愛い。
ところで、机で物を書く時はどうやっているのだろうか?
場違いな素朴な疑問が、ムネタカの心に浮かんだ。
「よっと」
フェミナはピョンと机の上に飛び乗った。
そして、羽の付いた筆にインクを付けると、机の上に広げた地図の上に印を書いた。
「ユメル領から我がカドレア領、と……」
(机の上に座って物を書くのか……)
ムネタカは、なるほどと納得した。
フェミナは地図に何かを書きながら話し始めた。
「公に復讐することは難しい。なら、ならば……秘密裏に復讐すればよいのではないか、私はそう思ったのだ」
地図上には、ユメル領からカドレア領に向かって一本の線がひかれていた。
「それは一体、どういう?」
マーシャが問い掛ける。
「うむ。ユメル侯爵を暗殺するのだ」
「「え?」」
マーシャとムネタカは同時に声を上げた。
「兄様……」
マーシャは思わず兄の顔を見た。
「うむ。私は反対したのだが……」
ゼストは困り顔で妹に向かってそう言った。
「この案は一体、誰が?」
ムネタカは問い掛ける。
「私だ」
やはり、フェミルだった。
「当然のこと。父上を殺されたのだ。殺した張本人に復讐をするのは当然。だが、公にそれは出来ないとなると……、暗殺するしかない」
フェミルは無表情で淡々と語った。
ムネタカはまだ、15歳の少女がそんな恐ろしいことを考えるに至った運命に、恐ろしさと悲しさを感じた。
「フェミル様。ユメル侯爵が暗殺されたとなれば、まず、他の諸侯は我々を疑でしょう。それでもよいのですか?」
ゼストが念を押すように問い掛ける。
だが……
「奴がかつてタルボを殺した様に、我々がやったと証拠が残らないよう殺す。そうすれば問題ない」
フェミルは誰にも目を合わさず、地図の一点を見たまま語る。
「ユメル侯爵を殺しても、背後に存在するであろう組織が壊滅するとは思えません。根本から絶たなければ……」
「ゼスト、お主はあの場にいなかったから悠長なことが言えるのだ。あの惨劇を知っていれば、お主も、悠長なことは言っておられん。それほど……」
フェミルはそこで言葉を詰まらせた。
「フェミル様……」
マーシャが髪に隠れたその顔を窺う。
「うえーん!」
その顔は涙で濡れていた。
子供の様に泣いていた。
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