#12 仲間の証① [セカイ]
オーガが左手を振り上げる。
俺は大盾を右に構えた。
オーガの拳が盾に上がる瞬間、再び【
俺は設置している地面を起点にし衝撃を受け流そうとする。しかし、完全にいなしきれず体が盾に引っ張られ体勢を崩した。
オーガが追撃を行う直前、フレデリカの詠唱が間に合った。
「【魔力よ、彼の者を包み力を増せ。
フレデリカがシルドアウトを魔法の力で強化する。
「うおおおおお!」
シルドアウトは気の斬撃をオーガに向けとばす。
オーガは直撃し、体に大きな傷が入る。同時に血が流れるがすぐに止まった。
傷口からは湯気が立ち徐々に傷が塞がっていく。
「ちっ!これも効かないのかよ」
シルドアウトが舌打ちをした。
オーガは雄たけびをあげ、シルドアウトに視線を移す。
俺は体勢を整えナイフを抜いた。
そして、オーガの足元を斬りつける。
皮一枚程度しか切れないが、オーガの注意を引き付けることはできた。
オーガが再び俺を攻撃しようとした瞬間、横からウルフが飛び蹴りをくらわした。
オーガは咄嗟に腕でガードする。
俺とウルフはその瞬間にオーガから距離を取った。
「セカイ、オーガについて何かわかったか?」
「【
魔法で威力が増したシルドアウトの攻撃も致命傷にならない高い防御力。
そして軽傷程度ならすぐに治ってしまう治癒力。
ここら辺は魔獣辞典で書いてあった通りだ。
それに加えて、火の魔法に対する耐性が高い。
他の魔獣に比べ俺へのヘイトが向きにくい。
ってことくらいかな」
なかなか絶望的だ。
勝てるビジョンが見えない。
「リーダー。オーガの治癒が追い付かないほどの破壊力を持つ必殺技とかあったりしない?」
「……ある」
「あるの?!」
「ああ。だけど、あの技は不完全で2秒完全にその場で立ち止まる必要がある。
それに頭に当たらない限り殺せる自信はない」
「頭か……」
問題はオーガが3mを超える巨体だということだ。
頭に当てること自体が難しい。そんな中でオーガの前で2秒間も立ち止まる必要がある。
オーガの攻撃は規格外だ。
破られることがなかった【
D級の彼等でも食らったらとんでもないだろう。
「オーガの攻撃を食らいながらでも当てる覚悟はある。
だけど、肝心な頭に当てる方法がない」
「要はオーガの頭を下げればいいんだよね」
「ああ。そうだけどそんな方法があるのか」
「……ある。博打みたいな方法だけどね」
俺はある作戦を思いついた。
すぐにシルドアウトとフレデリカを呼び、オーガからさらに距離を取った。
俺はその作戦を説明する。
「おい!正気か?」
「危険すぎるわ!」
シルドアウトとフレデリカはすぐに反対した。
「だけど、もうこれくらいしか希望は残っていない」
「だけど、あまりにも危険すぎる。本当に冗談でもなく死ぬぞ。
せめて、セカイの役割は俺がする」
「そうなると、俺はオーガを攻撃する手段がない。
別に死ぬ気はないよ。ただ適任なのが俺だっただけだ」
「でも、死ぬかもしれないのよ!ウルフも反対よね!」
フレデリカはウルフに同意を求める。
しかし、ウルフの答えは彼女と違っていた。
「何もしなかったら俺達全員が死ぬことになる。
ただセカイ、できるんだな?」
「うん!俺はタンクを全うする。当然死ぬ気もない」
「分かった。俺はその言葉を信じる。
シルドアウト、フレデリカ。セカイが覚悟を決めたんだ。
お前らも覚悟を決めろ」
「でも……」
「死なせたくなかったら俺達がオーガを殺しきるんだ」
「……分かった」
3人とも覚悟を決め作戦通りの配置につく。
シルドアウトとフレデリカはそれぞれ、オーガの左右から5m離れた地点に。
ウルフはオーガと俺達を円で囲むように走る。
俺はオーガの正面に立ち近づいていった。
そしてオーガの目の前で盾を構えて
オーガは右足を上げて踏み潰そうとする。
そうだよな。
寝そべった相手に攻撃することは中々ない。
だから、攻撃も読みやすい。
一番しやすい攻撃が蹴りや踏み潰しだ。
つまり、その間片足で立つ必要がある。
そこを2人がつく。
「【炎よ、槍の形を成し敵を燃やし貫け。
「はっ!」
フレデリカは魔法、シルドアウトが気の斬撃を、オーガの蹴り上げた方ではなく支えてる方の足に目掛けて放つ。
オーガは思わぬ攻撃によろめき尻もちをついた。
「リーダー!」
「おう!」
尻もちをつくということは、頭がウルフの手の届く範囲にまで下がるということだ。
ウルフがすぐさまオーガに後方に立ち、掌底を後頭部に突き出した。
2秒間の静寂。しかし、見えないだけで竜巻のように彼の周りで気が流れる。
「発勁」
次の瞬間、ウルフが立つ地面に亀裂が走る。
オーガが後ろを振り返りウルフの存在に気が付いた。
肉が抉れる音が辺りに響く。
オーガの顔の左半分が抉れていた。
しかし、脳まで達しておらず致命傷には至らなかった。
「ちっ!うおおおおおお!」
ウルフは膝でオーガの顔をかちあげ、5発拳を顔面に叩き込んだ後、後ろに跳び距離を取った。
「ウガアアアアア!!!!!」
オーガが顔を抑え立ち上がりながら叫ぶ。
俺も立ち上がりオーガから距離を取る。
そしてウルフの元へと近寄った。
「どうだった?」
「避けられた。けどかすっただけであの威力だ!
当てたら絶対に殺れる」
オーガの顔の左半分は肉が抉れ骨が見えていた。左の眼球もつぶれている。
「了解。じゃあもう一度だ」
「……今度こそ俺が絶対に殺しきる。だから死ぬなよ」
ウルフが再び大きく回るように部屋の中を走る。
俺はフレデリカとシルドアウトと目を合わせ頷くと、ウルフを目で追うオーガに向かって走る。
ナイフでオーガの足に傷をつけ注意を惹く。
そして再び寝そべった。
オーガは俺に気が付くと雄たけびを上げる。
先ほどと比べ明らかに機嫌が悪い。
するとオーガは蹴りを入れるのではなく、俺の前で膝をつきマウントポジションに着いた。
そうだよな。蹴りはさっきみたいに転ばされる。
なら、最初から膝をつき安定した体勢で殴りたいはず。
これも勿論想定済みだ。
後は、このオーガの攻撃を耐えるだけ。
オーガの左拳が俺に目掛けて振り下ろされる。
俺は盾でそれを防ごうとした。
当然のごとく【
拳が当たる直前俺は歯を食いしばった。
衝撃が盾を通して俺に伝わる。
腕が折れ、挟んであったポーションが割れ、腕が治り、また腕が折れた。
地面に寝そべっているため、衝撃を受け流すこともできない。
肋骨も何本か折れ、内臓が傷ついたのか俺は口から大量に血を吐く。
朦朧とした意識の中見えたのは2発目を叩きこもうと右手を振り上げたオーガ。
やばい、こりゃ死ぬな。
そう思った瞬間、自分が吐いた血が空中で集まり球体になる。
そして、オーガの右眼に向かって勢いよくとんでいった。
オーガは右目を抑えのけぞる。
その瞬間をニューソードの二人は見逃さなかった。
フレデリカとシルドアウトが遠くからオーガに攻撃する。
しかし、先ほどと違いフレデリカは【
クリーンヒットし、オーガは倒れる。しかしすぐに立ち上が―――れなかった。
オーガは立ち上がろうとするが、体を地面にこすりつけ動くだけで、立ち上がれる気配はない。
「終わりだ」
ウルフの掌底がオーガの顔の目の前にセットされる。
しかし、両目が潰れ立ち上がれないオーガは気づく様子がない。
「発勁!!!」
気の奔流がオーガの頭に叩きつけられる。
オーガは顔面が抉れ地面に倒れる。
ピクリとも動かない。
眼、耳、鼻、口、全てから血を流して絶命していた。
「セカイ!」
俺はウルフからポーションを飲まされる。
念のために買っていた高いポーションで、すぐに内臓が治癒されていく。
俺は再度血を吐くと何とか体を起こした。
腕も胸も痛い。
けど、アドレナリンが出ているのか意識ははっきりしていた。
「な、ないす、りーだー」
「セカイ、大丈夫か?!」
「ひとまず生きてるよ。両腕が2回も折れたけど」
「良かった~」
「よくはねーよ」
ウルフは泣きそうな顔だった。
遠くにいた残りのメンバーが走ってくる。
「セカイ大丈夫?」
「大丈夫か!」
「うん、とりあえずはね。二人共よかったよ。耳に直撃だった」
もしオーガがマウントポジションを取り俺を殴ってきたら頭が下がる。
その時は、二人には耳を狙うように指示していた。
正確には耳の奥。三半規管だ。
もし、俺が気絶してタンクができなくても倒せるようにするためだった。
といってもそんな奥まで攻撃が当たる保証もないし、オーガの生態が人間と同じとも限らない。
完全な博打だったが、上手くいったようだった。
「セカイ、魔石が使えるようになっている」
「早く帰って医者にみてもらうぞ」
ボスを倒すと魔石が使えるようになっていた。
「うん」
俺は魔石を取り出す。
魔石を使う直前、ボス部屋の奥を見た。
そこには新たに扉ができていた。
もう、死にかけるのは勘弁だ。
「「「「【
体の中に魔力がめぐる感覚と共に意識を手放した。
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