#11 強敵の邂逅① [セカイ]


「タンクだと?」


 シルドアウトが聞き返す。


「うん。それが一番適切だと思う」

「タンクってなんだ?」


 ウルフはタンクについて全く知らないようだった。

 ほかのメンバーは知っていたようで、ウルフに説明する。


「タンクは盾役だ。敵の注意をひき盾で味方を守る役割だ」

「なるほど。セカイが急に大盾を持ってきた理由はそういうことか」


 ウルフが俺が持ってきた大盾に視線を移す。


「うん。もしタンクになったらこの盾を使おうと思ってね。実は一週間前から訓練所で練習してたんだ」

「もしかしてもう買ったの?」


 フレデリカが焦った声で聞いてきた。


「いや、流石にそんなお金はないよ。

 実は俺は衛兵長のカインさんにお世話になってて。だから頼み込んで警備隊の大盾を貸してもらった」


 カインさんを説得するのもなかなかに大変だった。

 体がまだ弱い俺にタンクは無理だと一蹴され、なかなかタンクになる許可が下りなかった。


 しかし魔獣を引き付ける体質と自動で展開される【氷盾アイスシールド】の話をすると、下手に今のままより守りを固めてタンクをした方が安全だという結論になり、大盾で防ぐ訓練をしてくれたのだ。


 そして、訓練所で使っている大盾と防具を貸してもらう約束も取り付けた。

 勿論秘密裏にだが。


 シルドアウトが真剣な顔で俺に質問する。


「セカイ、お前がタンクになりたい理由はなんだ?

 今の俺たちの戦い方が悪いと思っているのか?」


 俺は何と答えたらいいかわからず悩む。しかし、正直の答えることにした。


「答え方が難しいんだけど、今のニューソードの戦い方は悪いと思っている」

「ほう。EE級のお前がD級の俺達に文句か?」

「誤解しないでほしい。悪いのはそのEE級の俺だよ。ニューソードの皆は悪くない。

 今のニューソード、つまり俺が入った後のニューソードの戦い方が悪いと思っている」


 シルドアウトの機嫌が悪くなりそうだったので、すぐに言葉を訂正する。


「続けろ」

「俺が仮メンバーとして加入して以降、より具体的に言うなら俺が11階層で襲われて以降、皆はいつも通り戦えないでいる。

 速い魔獣が後方の俺を襲うようになって動きが予測しづらいこと、そして皆が俺を守ろうと警戒していつもの動きができていないことが原因だ。

 だから、俺がタンクとして囮になることで戦いやすくする。

 ただそれだけだよ」


 シルドアウトが苦虫を嚙み潰したような顔をした。

 思うところはあるのだろう。


「でもそれじゃ意味なくない?

 折角私たちが守ろうとしてるのにセカイが前に出て積極的に攻撃を受けちゃったら」


 フレデリカが異議を唱えた。

 俺は答える。


「大丈夫だよ。怪我をしないように訓練したし、【氷盾アイスシールド】だってある。

 むしろ防具を固めていない今の方が危険かもしれない。

 それに俺もEE級だけど冒険者だ。多少のけがは覚悟はしてるよ」


「そう言われたら言い返せないけどさー」


 フレデリカが黙ると沈黙が訪れる。

 破ったのはリーダーのウルフだった。


「セカイ、俺は難しい話は分からねぇ。

 だけどな、お前が俺たちのために沢山考えてくれていることは知っている。だからセカイの本当の気持ちを教えてくれ」


 ウルフは真っすぐ俺の顔を見て言った。

 俺も彼の眼を見て答える。


「嘘じゃない。俺は皆の迷惑になりたくないんだ」

「ああ、嘘じゃないんだろうな。でも本音でもない。

 俺はタンクって何かを聞いたときセカイらしくないなって思ったんだ。

 セカイの戦闘スタイルは回避をするか、素早く魔獣を仕留めることでけがを負わないようにするスタイルだったはずだ。

 そのタンクってやつは今までのスタイルとあまりにも変わりすぎている。

 どうしてタンクにこだわるんだ?」


「そっちの方が効率的だからだよ。

 俺がタンクをしなくても魔獣は俺を狙う。だったら前に出て囮になったほうが速く倒せて効率的だと思わない?」


「そう、それだ。なんで効率を求めるんだ?

 別にタンクをしなくても、後ろで防具を固めて自分の身を守るだけでもいいだろ。

 セカイはEE級だし誰も文句はいわねぇよ」


 俺は押し黙る。

 ウルフは続けて言った。


「でも、セカイはそうしたくないんだよな。

 俺はセカイがこうやって意見を沢山言ってくれてすごく嬉しいし、タンクになってもいいと思っている。

 だから、セカイが何を考えているか教えてほしいんだ」


 ウルフは真剣な目で俺を見ていた。

 もっと後で言うつもりだった。


 けど、彼がここまで言ってくれたんだ。


 俺は意を決して、俺の真意を話し始める。


「……俺は残り2週間でダンジョンボスを倒したいと思っている」


「ダ、ダンジョンボス?!」

「そんなの2週間で無理よ!」


 シルドアウトとフレデリカは驚くが、ウルフだけが笑みを浮かべた。


「いや、できる。ニューソードの実力なら苦戦をするかもしれないけど、ダンジョンボスは十分安全に討伐できると思っている。

 ダンジョンボスの情報もギルドの資料室にある魔獣辞典にのっていたよ。

 推奨ランクはDD級~DDD級の鳥型の魔獣だ。

 だけど、スピードは11階層にいるブラックウルフより遅い。

 余裕で追いつき攻撃している皆なら、攻撃を避けることは十分できると思う。

 戦い方は俺がヘイトを稼ぎフレデリカが魔法で撃ち落とせばいい。

 地上戦になったら後は楽勝だ」


 シルドアウトが反論する。


「ダンジョンボスは倒せるかもしれない。しかしそこまでの道中はどうするんだ?

 今の俺達は1週間たっても11階層の攻略ができていない状況だぞ」

「それも情報屋から地図を買い取ればもっと攻略を早めることができると思う。

 ダンジョンの21階層からの地図を買い、依頼を受けず最短ルートでダンジョン攻略をするんだ」


「確かにそうすれば攻略できるかもしれない。だけど依頼を受けないでダンジョン攻略を優先するメリットは何だ?」

「DD級になれる」


 俺は間髪入れずに答えた。


「DD級に?この前D級に上がったばっかりだぞ」

「うん。普通はそんなすぐにランクは上がらない。

 けどダンジョンボスを初めて撃破したとき、ランクが上がる措置があるんだ。

 それを利用する」


「でも確か新人冒険者育成制度中はランクが上がらないんじゃなかったっけ?」


 フレデリカが質問する。

 その質問も想定済みだ。


「うん、俺のランクはね。でもニューソードの皆は上がるはずだ」


 この際だ。

 思っていることは全部言おう。


 タンクを断られるどころか嫌われるかもしれないけど、これを伝えない限り俺の未来はない。


「この際だからはっきり言うよ。

 皆は情報や事前準備を軽視しすぎている。


 もっとダンジョンについて調べてから依頼を受けるべきだと思う。


 魔獣の知識やダンジョンの構造についてね。

 21階層以降からは罠が出る。地図や情報がないままで進む今のスタイルは危険だ。


 あと、もっと皆はポーションを常備するべきだ。

 帰還用の魔石があるから何とかなると思ってるかもしれないけど、俺達でも敵わない強い魔獣が出た時に今のポーションじゃ即座に傷が癒えないし、1本だけじゃ連戦ができなくなる」


「俺達でも敵わない強い魔獣がいるのか?」


 シルドアウトは聞き返した。

 その声には慢心というよりは焦りが含まれていた。


「うん。ダンジョンボスより強い魔獣の目撃情報もあった。

 オーガっていうC級相当の魔獣だ。


 このダンジョンは冒険者ギルドが初心者用に改造したもので、ごくまれに改造前の強い魔獣が出るらしい。

 俺は元C級冒険者の人にいつも訓練してもらっているけど、C級と皆では流石に実力差が大きい。勝つことは難しいと思う」


「そうか……」


 シルドアウトは再び黙った。


「今までのニューソードの冒険スタイルを否定しているわけじゃない。

 実際、皆は強くてすぐにD級になったんだと思う。


 だけど、このままDD級を目指すのはすごくもったいない。


 皆の強さならもっと速くもっと上を目指せるはずなんだ。

 S級になるんならこんなところで燻っていられないはずだ」


 再び沈黙が訪れる。


 言い過ぎた。たかがEE級の俺が行っても説得力がないだろう。けど、俺がこのパーティでやっていくためにはいつかは言わないといけないことだった。


 謝ろうと思った時ウルフが口を開いた。


「セカイ、ありがとな」


「え?」


「俺達のことをそこまで考えてくれてるとは思ってなかった。

 お前は本気で俺達に向き合ってくれている。

 だけど、ならお前のメリットは何なんだ?

 セカイの言う通りにすれば俺達はDD級に上がるかもしれない。

 でもセカイは上がらないんだろ」


 俺は正直に言った。


「俺は……ニューソードの、皆の仲間になりたいんだ」


 カインさんの言葉を思い出す。

 信頼できる仲間を見つけるために俺は冒険者になった。


「でもEE級の俺を仲間にするメリットがない。

 だから皆の手助けをしてDD級に昇格することで、俺の有用性を示したいと思ったんだ」


 彼らこそ信頼できる仲間だ。

 だけど、俺が信頼できるだけじゃだめだ。

 俺自身も信頼されないといけない。


「そのためには今のままじゃダメなんだ。

 皆に守られている限り俺は絶対に仮メンバーの新人だ。俺はそれが嫌だ。

 俺は皆と対等になりたいんだ」


 俺は彼等と冒険したい。


「だから俺はタンクになりたい。タンクになって皆を守りたい」


 俺は心の中で思っていたことを全て彼らに話した。


「もしかしたら、もう皆の返答は決まっているのかもしれない。

 でも新人冒険者育成制度の期間が終わるまで待ってほしい。

 俺は結果を示したい」


 ウルフは笑顔でうなずいた。

 俺も少し笑い言葉を続ける。


「それにもう一つ理由がある

 リーダー、誕生日はいつ?」

「え?確かあとだいたい3週間後だな」


「うん。つまり今はまだ15歳なんだよね。

 そして、このダンジョンボスを倒した冒険者の最年少年齢記録が16歳なんだ。

 外から来たB級冒険者パーティが一日で攻略したらしい。

 また更新したくない?最年少記録」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る