#10 D級冒険者の実力③ [シルドアウト]



 11階層を潜り始めて1週間、セカイがパーティメンバーになり2週間がたった。


 俺達はセカイに呼ばれ冒険者ギルドの休憩スペースに集まっていた。


 俺が来た時にはウルフとフレデリカはすでに集まっていた。

 セカイはまだみたいだ。珍しい。


 俺は彼らの対面に座った。


「お、シルドアウトも着いたか」

「セカイはまだか。珍しいな」

「ねー。それにしてもセカイも言うようになったよね。先輩冒険者を休日に呼び寄せるなんてさ」

「確かにな!誘われた時すごく気を使ってたけどな!」


 二人がセカイの話で盛り上がる。


 2週間もたてば彼の人となりは分かってきた。

 彼は真面目で臆病、EE級のため体もまだ弱い。

 しかし、槍捌きや咄嗟の判断力と行動力は目を見張るところがある。


 良い冒険者になるだろう。


「待たせてごめん」


 するとセカイが来て俺の隣に座った。


 セカイの背には見慣れない大盾があった。


「セカイ、その盾どうしたんだ?」


「これは後で説明するよ。今日呼んだのはニューソードの皆に提案があるからなんだ」


「提案?」


「うん。今俺はニューソードに所属しているけどあくまで仮のメンバー。

 それに新人冒険者だから提案なんてする立場じゃないのは分かってる。


 でも、今の現状に俺は納得していないんだ。

 皆に迷惑をかけている今の現状に。だから、俺なりにこのパーティが良くなる方法を考えてみた。


 できれば最後まで聞いてほしいし、何か意見があるならどんどん言ってほしい。

 それに、これはあくまで提案で最終的な決断は皆に任せるつもりだ。

 そしてその決断に文句は言うつもりはないよ」


 ウルフとフレデリカは大きく頷く。

 セカイが俺の方を見た。俺も小さくうなずいた。


「ありがとう。まず今の現状を説明するね。


 今、俺達は11階層からなかなか進めないでいる。

 それは俺が原因だ。正確に言うなら俺の魔獣を引き付ける体質・・・・・・・・・・が原因」


 俺は初めて11階層の魔獣と戦った時のことを思い出す。


 魔獣が俺とウルフの横を通り過ぎ、全員がセカイに襲い掛かった。

 俺達を通り過ぎ後方を狙うなんてことは今までになかった。


 その後も、11階層で黒狼の魔獣に出会うと、一目散にセカイを狙っていた。


 最初はこの魔獣が特別でセカイを狙っていたと思っていたが違った。


 セカイが特別だった。


 依頼完了後、1階層の弱い魔獣でとある検証をした。


 前方に俺と、ウルフ。後方にフレデリカとセカイの並びになりゴブリンと戦う。

 しかし、俺達からは何もしない。


 この状態でゴブリンは誰を狙うかという検証だ。


 ゴブリンは俺達を見つけると走ってきた。

 そして俺とウルフを通り過ぎセカイに襲い掛かった。


 俺達はできうる限り全ての魔獣で検証したが、結果は同じだった。


 このことからセカイは魔獣を引き付ける体質であると結論付けたのだ。


「なんでこんな体質なのかは分からない。

 だけど、そのせいで魔獣が想定外の動きをして上手く戦えないでいるのが現状だ。


 そしてもう一つ。俺を守る謎の力だ。


 俺が攻撃され当たりそうになると、氷の結界が発動して守ってくれる。

 これは氷の魔法なんだよね?」


 フレデリカが答える。


「うん。正確には水の魔法で【氷盾アイスシールド】に近いね。

 でも、こんなピンポイントに【氷盾アイスシールド】を発生させるのは相当な高等技術だよ」


「もちろん、俺はそんな高等技術はできない。

 どころか、魔法すら使うことができない。見たことある魔法はフレデリカ以外だったら、小さな火をだす生活魔法くらいだ」


 嘘をついているように見えない。

 実際嘘ではないのだろう。


 魔法を杖なしの無詠唱で発生させることは非常に難しいはずだ。

 さらにそんな高等技術を彼ができるとは思えない。


「ただ一つ言えるのは、この【氷盾アイスシールド】は、攻撃が受けそうになったら発動し、今の所360度いかなる攻撃も防いでいることだ」


 この検証をする時、彼の正気を疑った。


 複数のゴブリンにわざと殴られると言ったのだ。


 どれだけゴブリンが弱くても彼はEE級だ。もし【氷盾アイスシールド】が発生しなければ怪我をするだろう。


 しかし、彼はそれを覚悟で検証をした。


 臆病なのか度胸があるのか、分からない奴だった。


「この二つの原因は全く分からない。資料室の本も全て読んで調べたけどそれらしいことはかかれていなかった。


 けど、この体質と不思議な力を持っていることを前提としてある提案を皆にしたいと思う」


 ようやくセカイは本題を切り出した。



「俺はタンクになりたい」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



【各キャラクターのセカイに対する一言反応集】


衛兵長「真面目で素直な可愛いやつ。もし息子が生きてたらこんな感じだったのかな……」


姉弟子「手間がかかる弟弟子。でも良い子」


風の精霊「大丈夫かな……もうすぐ説得できそうだから待っててね!」


水の精霊「魔獣からは私が守る!」


癒しの精霊「寝ている間に体を癒してあげるのが最近の生きがい」


歌の精霊「彼の物語を歌にすれば、私は精霊界のアイドルになれるのでは?」


純血エルフ「そんなに言うなら……一目くらい見てあげようかしら」


リーダー「賢い!最近仲良くなってきて嬉しい」


先輩冒険者剣士「おもしれー新人」


先輩冒険者女子「魔獣から狙われて謎の力で守られている……いったい何者?」


ギルドマスター「……」(暗黒微笑)


暴力とそこそこの権力を兼ね備えた倫理観がバグっている恋愛経験なしアラフォーハーフエルフ受付嬢「すき」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る