#10 D級冒険者の実力② [フレデリカ]
私の出番がないままにオークを撃退した私たちは、11階層の奥へと進んでいた。
私は隣で歩く新人のセカイを見る。
セカイは周囲を見渡し警戒しているようだった。
そして時折、紙を取り出し地図を作成していた。
真面目な子だ。
幼馴染の二人は大雑把な性格なので地図を取ろうなんて思いもしなかった。
最初の方は誰も道を覚えてなくて迷ったりしたな。
あれがあって帰還用の魔石は高くても買うようにしたんだっけ。
5カ月くらい前のことだけど、遠い昔のように私は思い出していた。
すると、彼が紙をポーチに入れ槍を両手で持ち直した。
「魔獣が出たぞ。依頼のやつだ」
シルドアウトが魔獣を知らせる。
私も杖を構えて戦闘の体勢を取る。
依頼の魔獣ということは初めて戦う魔獣だ。
魔獣の数は4体。黒色の狼のような魔獣だった。
4体の魔獣は私たちに向かって走ってくる。
8階層にいた狼のやつより速い!
しかし、あの程度の速さならウルフとシルドアウトの敵じゃないだろう。
そう思っていたが、魔獣は彼等二人の横を通り過ぎた。
「なにっ!」
「しまった!」
予想外の出来事だ。
今までこんなことはなかった。
私は杖で殴れるようにしながら詠唱を開始する。
使うのはいつもの火の魔法だ。
しかしここでさらに想定外のことが起こる。
魔獣達全員がセカイに向かって走っていた。
セカイはEE級冒険者だ。4匹全員に対処できるとは思えない。
私は急いで詠唱を完成させる。
「【火よ、槍の形を成し敵を貫け。
槍状の火が一匹の魔獣を貫いた。
リーダーのウルフも急いで追いかけ、一匹に蹴りを入れ吹き飛ばす。
私はセカイの方を見る。
セカイは狼に向かって槍を突き刺す。
胸に刺さり一匹は倒すことができた。
しかし、このままではもう一匹の攻撃は対処ができない。
EE級の彼は体が弱い。
大けがを負う可能性がある。
先輩としてそんな目に合わせるわけにはいかない。
私は杖を狼に向かって放り投げる。
当たったところで死にはしないが、よろけさせることくらいはできるはずだ。
しかし、私の杖は空を切り魔獣に当たることはなかった。
最悪だ。
魔獣の牙や爪が無慈悲にも彼の体を切り裂く――ことはなかった。
ガキンという音と共に魔獣ははじかれのけぞった。
魔獣は追いついたウルフによって蹴り上げられ、そのまま殴られ壁に叩きつけられる。
起き上がってこないため死んだみたいだ。
「セカイ!怪我は無いか!」
「……うん。大丈夫」
「よかった~」
ウルフは彼の体を触って確認する。
どこも痛がっておらず怪我もなさそうだったため安堵しその場に座り込んだ。
吹き飛ばされた魔獣にとどめをさしていたシルドアウトが駆け寄ってくる。
「何かにはじかれたみたいだったが、フレデリカの魔法が間に合ったのか?」
「……ううん。私じゃない」
「セカイ、もしかして魔法が使えるのか?
それともそのローブの効果とか?」
「ローブは違うよ。あれは私の家で売ってたやつだけど、そんな魔法は付与されていなかった」
「俺も魔法は使ってないよ。使い方も知らない」
私は見ていた。
槍は刺さったままで、彼が攻撃を防ぐ手段は何もなかったはずだ。
しかし、魔獣の攻撃が当たる直前、何かが空中に出現して彼を守ったのだ。
疑問に思っていると私は彼の周りで何かが落ちているのを発見する。
私はそれを拾い上げた。
「氷?」
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