#14 大人の勝手① [マイ]
「どうだ?何か変わった点はあるか」
「うーん、特にないわ。普通のオーガね」
ガイルが奥の扉からボス部屋に入ってくる。
どうやら探索を終えたようだ。
「そっちはどう?何か掘り出し物はあった?」
「いや、全然。C級の魔獣としょぼい宝箱があっただけ」
「良かったわ。下手に強い魔獣が出たら管理が大変になるし」
私は後ろで殴ってくるオーガに目を移す。
弱くもなく強くもない。至って普通のオーガだった。
私はオーガの腹部にそっと手を当てる。
そして発勁を放ち心臓を破裂させた。
オーガはその場で膝をつき倒れる。
「確かウルフ君が発勁でとどめをさしたんだっけ?あの歳で発勁を覚えてるってどうなんだ」
「まぁ、才能はあるんじゃない?たぶん。
で、なんでわざわざ私にオーガを倒させたの?ガイル1人でも十分でしょ」
「目的は別にある。確かマイはニューソードのD級昇格試験は見ていただろ?」
「ええ」
「1ヶ月前、つまりセカイ君がパーティに参加する前の彼らだったら、実力だけを見てオーガは倒せたと思うか、これを聴きたかった」
実力だけを見るということは、作戦とかは無視していい。真っ向勝負で戦ってどうなるかだ。
「無理よ。戦いにもならないわ」
「彼らに慢心がなかったとしても?」
「無理よ。オーガは本来C〜CC級のパーティが挑む魔獣よ。今回勝てただけでも奇跡だわ」
「なるほど。ありがとう。これで確信がもてた」
ガイルは笑みを浮かべる。
続けて私に説明をした。
「奇跡と結論づけるのは簡単だ。しかしこうとも考えられるんじゃないか?ニューソードのメンバーは1ヶ月でC級相当にまで成長した、と」
「ありえないわ」
私は即座に否定する。
ガイルは話を続けた。
「しかし、そう考えると納得がいく。
ウルフ君以外の2人もオーガに傷を負わせたと報告書にあることから、それなりの実力はあった。セカイ君は精霊がついているから、C級相当のタンクの働きができてもおかしくはない。ウルフ君は言わずもがな、オーガにとどめをさせる程の気を練れている。
彼らにとってオーガが格上なのは確かだろう。しかし、倒せたのは奇跡なんかじゃなく、真っ当なものだった」
「でもD級とC級の間には大きな壁がある。私達でさえ一度その壁に当たって、なかなか成長しなかったわ。1ヶ月でC級レベルにまで成長する方が奇跡よ」
考えもしない、どころか考える必要もない荒唐無稽な話だ。ガイルらしくない。しかし、ガイルの笑みは絶えない。
「奇跡じゃないとしたら」
「え?」
ガイルは魔法で書類を取り出して私に投げつける。その書類を受け取り内容を確認した。書類の内容は魔獣の討伐数をまとめたものだった。
「今、始まりの街の多くの冒険者が通常より早いペースで成長している可能性がある。
気づいたのは1ヶ月以上前だ。その前の週より魔獣の討伐数が上がっていた。ほとんどのパーティでだ。
俺はダンジョンに何か異変があるかと思い調べたが、特に変わったことはなかった。純粋に多くの冒険者が成長していたんだ。
俺はいつからその変化が起こっているか調べた。
すると、ある新人冒険者が冒険者登録した日だった」
魔獣の討伐数が先月に比べてありえないほど増加している。ほぼすべてのパーティに1体以上増加している。
「しかも、幼馴染はその冒険者にご執心らしい。俺は念のため彼の情報を調べると、彼が普通の人ではないことは明らかだった。
だから俺はもうすぐ壁に当たりそうな冒険者パーティに彼を加入させた。本当に彼が成長の原因か確認するために。
そして彼らは大幅に成長しオーガを倒した」
増加が始まった日は私と彼が出会った日。
「俺は確信した!
これは奇跡なんかじゃなく彼が起こしたことだ。
理由は見当もつかない。しかしあがってきた証拠からこう結論づけるしかない!
彼の周囲の人物は成長しやすくなる!」
ガイルは気分が高揚していた。
「そしてそれは俺たちも例外ではない」
まさかと思い、私はガイルの魔力を見る。すると今までに比べて魔力量が増加していた。
「気づいたか?主観ではわかりにくいが、客観的に見るとわかりやすい。
マイ、お前の魔力量が明らかに増えている」
私はガイルを警戒する。
「俺たちは戦闘すらしていない。強くなりすぎて成長もしにくくなっている。しかし成長した。
素晴らしい!彼の力は本物だ!
是非とも欲しい。彼が!」
まさかガイルもセカイ君の事を……
「まさか、ガイルもセカイ君に気があるの!?」
「あるわけないだろ。既婚者だぞ」
危機していた事をガイルはあっさりと否定し、私は拍子抜けした。なんだ、良かった。
「ガイルが恋敵なら絶対勝てないから、今ボコボコにしようと思ったのに」
「元パーティメンバーに容赦なさすぎだろ。
そうじゃなくて俺はマイとセカイ君に是非ともくっついて欲しくなったんだ。そしてマイと俺でセカイ君を導いてあげるんだよ」
「導く?」
「セカイ君は素晴らしい力を持っている。しかし、その力は危険でもある。
もし、過激な魔族の手に彼が渡ったらどうなる?
検証はしていないが、魔獣だって強くなる可能性がある。
彼の力が悪用されないよう、俺達が保護し彼の力を管理する必要があるんだ」
管理するということは、彼には不自由な生活を強いることになる。
「でも……」
「まぁ、言いたいことは分かる。彼と普通の生活をしたいんだろ?
でも、それは不可能だ。
俺たちは元A級冒険者で彼は特殊な力を持っている。どちらも普通ではない。
一般人には一般人の、力ある者には力ある者の、身の丈に合った生活をしなければいつか破綻する」
私は何も言えなかった。
今まで彼の言う事を聞かず、私は多く失敗してきた。
そして今は絶対失敗できない時だ。
「そのためにもこれからマイには彼を本気で堕とす必要がある。
俺的には適当に洗脳する方が楽なんだが……」
「え!?『どしたん?話聞こうか作戦』は」
ガイルは呆れた顔をした。
「あんなのお前が変な行動をしないよう、俺が適当に考えた作戦に決まってるだろ。
だいたい大人に言うならともかく、アラフォー女が少年に言っても警戒されるだけだ」
「うっ……」
「もしかして本当に相談されると思っていたのか?」
「いやぁ……だって私も元冒険者だし、相談されるかなって」
「されるわけがないだろ。相談事があっても、まず衛兵長にするんじゃないか。
彼も元冒険者らしいし」
「そう言われたらそうだけど……」
「ともかく勝手な行動はするなよ」
「もし、相談されたらどうすればいい?」
ガイルはため息をつき、腕を組みながら私に向けてはっきりと言った。
「そんなこと絶対にないから考えるだけ無駄だ」
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