#15 エルフの傲慢③ [マイ]
「父親に向かってなんて態度だ!」
私は左頬を本気で殴られる。体勢を崩し床に倒れた。鼻からは血が流れる。
目の前の男ーー自分の父親を睨みつける。
私は父さんが嫌いだ。
いや、父さんとも呼びたくない。私は心の中であいつをクソ親父と呼んでいる。
私がクソ親父を嫌う理由は単純で、クソ親父が私を嫌っているからだ。
暴言、暴力は当たり前。
あいつは私をよく殴るし蹴る。狩猟に少しでもついてこれないと、舌打ちをし躾を称して私に暴力を振るう。本当に殺す気で殴ってくる。師匠に会うまではあいつに鍛錬をつけられていたので、何度も死にかけていた。
しかし、常識がないわけではない。
私が師匠に鍛錬をつけてもらうことになった時、クソ親父は師匠に嬉しそうにお礼を言っていた。手土産まで持ってきてだ。
きっとあいつは私が嫌いなのだ。
「お前なんて生まれてこなければ良かった」と私はよく言われるが、その言葉を聞くといつも嬉しくなる。
私が生まれたことによりこの男は苦痛を感じているんだ。
この事実だけでも私は生まれてきて良かったと思える。
殴られた私に、彼はさらに追撃を与えようと、左拳を振り上げる。私は今度こそ殴り返してやろうと身構える。
「ブヨウさん!やめて下さい。マイは娘なんですよ!」
しかし母さんが私とクソ親父の間に入った。
クソ親父は振り上げた拳を下ろす。
「リアシー、どけ」
「どきません。マイを殴るつもりなら私を殴って下さい!」
「ちっ」
クソ親父は舌打ちをして椅子に座った。
私は母さんに抱き着く。
「お母さん大好き」
「もう、子供なんだから。マイもブヨウさんを怒らせちゃ駄目よ」
「うん。ごめんなさい」
私は母さんに抱きつきながらクソ親父をみる。
そして舌を出し挑発をした。
「クソガキがっ」
父さんはリビングから出ていく。
私は母さんから離れると、軽く頭をチョップされた。
「もう。お父さんを馬鹿にしない!」
怒られた。
しかしすぐに彼女は、垂れていた鼻血をハンカチで拭き取ってくれた。
私はお母さんの顔を見る。
そして首につけられた首輪が目に入った。
これが私がクソ親父を嫌っているもう一つの理由だ。
あいつは母さんを家に閉じ込めている。
クソ親父は母さんに魔法の首輪をつけさせ、家から出ることを禁じていた。
そして、奴隷のように家事をさせるのだ。
母さんは優しい人なので何も不満を言わず料理や掃除をしていたが、クソ親父は一度も感謝の言葉を述べていない。
だから私はクソ親父が嫌いだった。
対して、私は母さんが好きだ。
比べるまでもなく好きだ。大好きだ。
母さんは私を褒めてくれる。
怪我をした私に優しく薬を塗ってくれる。
私のことが大好きだと言ってくれる。
勿論私を説教することもあるが、彼女は優しい言葉で叱ってくれるのだ。
それに、私のためなら父さんにも説教をすることだってある。
母さんは別に強いわけじゃない。
ただの普通のヒューマンだ。
だけどクソ親父にも屈しない勇気を彼女は持っている。
だから私は母さんが大好きだ。
その日の夜中、母さんにお休みのキスをしてもらった後眠っていた私は、彼女の声で目が覚めた。
といっても、私に語りかけているわけではない。
母さんの嬌声が寝室から聞こえてきたからだ。
私はベッドから出て家の中を歩いていく。
そして両親の寝室の扉を少し開け中を覗き込んだ。
クソ親父が母さんに後ろから腰を打ちつけている。
体が勢いよくぶつかる音。
クソ親父の荒い息づかい。
そして母さんの何かに耐えるような声。
「お前のっ、夫はっ、誰だっ」
「ブヨウさんっ……ですっ」
「俺をっ、どうっ、思っているっ」
「愛していますっ」
「なら、どうしてマイなんかを庇ったっ!」
「ああっ、そこは駄目っ。激しいっ」
母さんが私を庇うと、その日の夜、クソ親父はいつも母さんを激しく責めたてた。
そして強気な母さんは抵抗できず快楽の声をあげている。
その事実に私はいつも興奮し濡れていた。
私は手を下に持っていき慰める。
マイ・カンナヅキ。12歳の夜の出来事だった。
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