#16 セカイのスキル① [ウルフ]


 冒険者ギルドに向かう途中、セカイと合流し俺達は雑談をしながら目的地へと向かっていた。

 しかし、冒険者ギルド前に着いた時、俺達は思わぬ光景に黙ってしまった。


 ギルド前にて凛とたたずむ一人の女性。

 耳が長くとがっており誰が見てもエルフだった。


 セカイ以外の全員が気づき緊張が走る。

 彼女は俺達の方を見る。するとセカイを凝視し近づいてきた。


 エルフがセカイに話しかける。


「あなたがセカイね」

「……はい」


 セカイはなぜか全く緊張していなかった。

 しかし、話しかけられるとは思っていなかったようで怪訝そうに答えた。


「安心しなさい。私が保護してあげる。着いてきなさい」


 と言うと、エルフは振り返り離れていった。

 しかし、セカイは呆然としていてついていこうとしない。


 セカイはなんでついていかないんだ?

 何でそんなことをして平気でいられるんだ?


 エルフが怖くないのか?


 指摘しようとするがエルフもその様子に気づいたようで、立ち止まり再び振り返った。


「あんた何でついてこないのよ。保護されたくないわけ?」

「まぁ、はい。もう十分心優しい人に助けてもらったので……」

「じゃあ今度は心優しい私が助けてあげるって言ってるの。感謝しなさいよ」

「……ありがとうございます。でも大丈夫です」


 セカイの会話がただただ恐ろしい。

 エルフに対する敬意が一切感じられない話し方だ。


 どんな人でもエルフに逆らってはいけないと知っている。

 話す時はどうしようもなく何かしら敬意や畏怖がこもるはずだ。


 しかし、セカイからはそれが一切感じられなかった。


「私の保護を断るわけ?」

「まぁ、はい。すみません、わざわざ来てもらったのに――「セカイ」


 俺はセカイの言葉を遮った。


 我慢の限界だった。

 これ以上エルフの機嫌を損ねれば殺される可能性だってある。


 セカイは状況を全く分かっておらず、俺に聞き返す。


「なに?」

「エルフ様の誘いを断るなんて正気か?」

「もしかして凄く偉い人だった?」


 案の定、セカイは何もわかっていなかったようだ。


「偉い人って……エルフ様だぞ!偉いなんてものじゃない。俺達なんかより生物として上位の方だ」

「そこのヒューマンには常識があるみたいね」


 小声で話していたが聞こえていたようだった。

 でもこれで分かってくれただろうか。


「でも、俺は貴方と初対面だし。それにそんなにすごい方がなんで俺なんかを保護するんですか?」


 全然何もわかっていなかった。


「私があんたを保護する理由は、あんたが精霊の愛し子だからよ」

「精霊の愛し子?」

「ええ。見たことも聞いたこともないけど精霊に好かれやすい体質みたいだわ。

 特別な力に守られている感じたことがあるはずよ」

「確かに……」


 もう俺には何が何だか分からなかった。

 セカイが精霊の愛し子?


 しかし、腑に落ちる部分はある。

 彼がタンクとなるきっかけになった、水魔法アイスシールドの自動展開。

 オーガ戦の時に血が球体となって目に攻撃したという話。


 俺達には見ることができない精霊が助けていたとなれば全て納得がいく話だ。


「風の精霊があんたの保護を私に求めたのがきっかけよ。

 精霊を見ることも、声を聞くこともできないのに惹きつける何かが貴方にはある。

 私が保護するには十分な理由だわ」

「精霊さんと話すことはできないんですか?」

「ヒューマンである限り絶対に不可能よ。精霊たちが高位になれば別だけど、あんたの精霊は雑魚だし無理ね」

「そうですか……」


「mala,arunihaarukeredoanohouhouha......」


 エルフが何かをつぶやく。

 俺には彼女が何を言っているのか分からない。


「arundesuka!osietekudasai」


 するとセカイもまた何かを彼女に話しかけた。

 俺たちが知らない言語で。


「tyottomatte!antawatashinokotobagawakaruno?!」

「e?hai.nandesuka,kyuuni」


 俺は思わずセカイに話しかける。


「セカイ、エルフ様の言葉が分かるのか?」

「どういうこと?みんなも聞けていたじゃん」


 彼はまるでいつも通り普通に聞こえて話しているかのようだった。


「共通語は分かるけど、エルフ語は分からないよ」

「エルフ語?」

「さっきセカイが話した言葉だよ」

「どういうこと?意味が分からない。俺は普通に話しただけだけど」


 フレデリカも分からないみたいだ。

 俺がおかしいんじゃない。


 セカイがおかしくなっている。


「konokotobawodokodeshittano?」

「dokodeshittatte.hutsuunikokyounokotobadesukedo...」

「dokosyusshinn?」

「nihonntoiukunidesu」

「nihon...kiitakotonaiwane.demo,elfnochigamajitteirunonara,seireiniaisarerunomounazukeru」


 その後も流暢にエルフ語で会話しているようだった。

 俺には何を話しているかも分からない。


 セカイ、お前は一体何者なんだ……


「私、あんたの正体が気になってきたわ。絶対に私に着いてきてもらうわよ」

「連れて行って何する気ですか」

「何もしないわ。もともと私はあんたを保護しに来たのよ」


 エルフがセカイの腕を掴む。

 セカイは抜け出そうと抵抗している様子だった。


「や、やめてください」

「だから、私はあんたを保護しに来たのよ。なんで抵抗するのよ」


 親友が嫌がっているのに俺は何もできずにいた。

 親友は失いたくない。しかし、エルフと敵対したら殺されるかもしれない。


 無理だ。エルフ様に逆らうなんて、本能が拒否している。

 なんでセカイは平気なんだ?


 その時、後ろから声がかけられる。


「申し訳ございません。セカイ君が困っています。その手をおはなしください」


 マイさんだ。

 ハーフエルフの彼女ならエルフ様と対等に話せるはずだ。


 予想外のことが起こり続けてどうにかなってしまいそうだった。

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