#9 先輩冒険者の印象② [ウルフ][シルドアウト][フレデリカ]
俺は新人冒険者を連れダンジョンの第一層にやってきていた。
はっきり言って、俺は新人冒険者であるセカイのことが気に食わない。
なぜなら、受付嬢のマイさんが彼に恋をしているという噂が流れているからだ。
ありえない話だ。
元高ランク冒険者であるマイさんが、ただの新人冒険者に恋をするわけがない。
そう思っていた。彼女の笑顔を見るまでは。
偶然、街中でマイさんを見かけた。
彼女は白いローブを着た少年と楽しく談笑をしていた。
その時の笑顔が、俺に向ける笑顔とは全く違っていた。
半年前、彼女の笑顔に一目惚れした俺が言うから間違いない。
マイさんが彼に恋をしているかは分からない。
だけど、俺には向けていない感情を彼に向けていることは間違いなかった。
すると、セカイが俺に話しかけていた。
「リーダー。ダンジョンの第一層ってどんな魔獣が出るか教えてくれない?」
当然俺はそんな彼の質問に答えない―――なんてことはしない。
確かに彼は気に食わない。
しかし、だからと言って彼と仲良くならないわけではない。
それはそれ、これはこれだ。
彼は新人冒険者で俺は先輩だ。
俺はどんな奴にだろうと良い先輩でありたい。
それに、たとえ1カ月であろうと彼は俺たちのパーティメンバーだ。
メンバーに信頼されないリーダーなんて、リーダー失格だろう。
そのためにはまず、俺から彼を信頼する努力をするべきだ。
俺は彼の質問に答える。
「緑の子供っぽいやつと犬っぽい奴だ」
「え?」
「だから、緑の子供っぽい奴と犬っぽい奴だ」
「あ、うん。じゃあ、第一層の地図とかってある?」
「ない」
「え?」
「安心しろ。ちゃんと道は覚えてあるぜ。真っすぐ行って右に曲がって左に曲がってもう一回右だ」
「ありがとう……」
これで彼からの信頼度は爆上がりだろう。
それに、もし彼に良いところを見せたら、そのことをマイさんに話してくれるかもしれない。
なんだか楽しみになってきた!
☆
新人冒険者であるセカイが魔獣との戦闘を始める。
俺たちはその様子を後ろから眺めていた。
彼の実力をはかるため一人でゴブリンと戦ってもらうことにした。
もしもの時は間に入り、彼を守るつもりだ。
彼は自己紹介でいった通り槍を構える。
対するゴブリンは素手だ。
ゴブリンはこぶしを振り上げ襲い掛かる。
セカイは槍の側面の部分でゴブリンの顔を叩いた。
ゴブリンは横に吹っ飛び転がる。
彼は転がっているゴブリンに向かって槍を構えた。
しかし、一向にとどめをさそうとしない。
「何をしている。とどめをさせ」
「うん、わかった」
ゴブリンは呻いて立ち上がってこない。その間に首に槍の刃先を突きつけた。
しかし、そこで止まった。
ちっ、腑抜けが。
俺は彼に近づき槍を手で思い切りおした。
「あっ」
槍はゴブリンの首を貫く。
ゴブリンは大量の血を流して絶命した。
俺はゴブリンの耳をナイフでとる。
「いいか、こいつらは魔獣だ。
知性がなく人間を襲う。躊躇するな。躊躇した分俺たちが傷つくからな」
「……ごめん。次からは気を付けるよ」
その後も何度か彼はゴブリンと戦った。
先ほどみたいに躊躇はしなかったが、とどめを刺す時目をそらしていた。
やはり彼は俺たちのパーティに相応しくない。
たかがゴブリンを倒すのに時間をかけすぎだ。
身体能力が低いのは勿論、魔獣を殺す覚悟もない。
俺なら彼が一体のゴブリンを倒す間に、5体以上倒せただろう。
ただ一つ褒めるとしたら、槍の扱いの正確さだ。
一体目以降は無駄に相手を傷つけることなく、正確にゴブリンの急所を攻撃していた。
槍の扱いに関してはEE級以上の実力を持っているだろう。
☆
パーティに入ってくる新人冒険者が、憧れの白ローブの少年だと知り私は失望していた。
白いローブは私の実家で売っていた、当時最高級の魔魔道具だ。
認識阻害と清潔の二つの魔法が付与されており、その効果も強くD級以下にはレジストできないほどだ。
王都などにあってもおかしくない、うちの自慢の品だった。
しかし、高すぎて誰にも売れなかった。
私は店番をしながらいつもそのローブを眺めていた。
綺麗なローブが目立つところにかけられており、お客さんの多くが足を止めそのローブを眺める。そして、その効果と値段に驚き悔しがりながら帰っていくのだ。
まるで私が褒められているかのように嬉しかった。
しかし、5年前誰かがそのローブを買っていった。
私は店番から外れていたため誰が買ったか分からなかった。
父さんが言うには衛兵の人が買っていったらしい。
私はショックを受けた。
いつもそこにあったローブが無いだけで、1カ月間くらい落ち込んだ。
そして、同時にどんな人が買っていったか気になった。
しかし、あれだけ高価な品だ。
きっと強い人なんだろう。と子供ながら私は思っていた。
3週間程前、私はそのローブを再び目にした。
白いローブを着た少年が、警備隊の訓練所に入っていくのが見えたのだ。
長年見ていたので見間違えるはずがなかった。
衛兵が買ったという情報とも会っている。
間違いなくうちのローブだ。
私は嬉しかった。
白いローブを買った人が同じくらいの少年だったからだ。
あの高価なローブを変えるくらいお金を持っている衛兵の少年。
きっと強いに違いない。
私はいつの間にか彼に強いあこがれを抱いていた。
だから、その正体が新人冒険者で、彼の冴えない素顔を見たときとてもがっかりした。
裏切られた気分だった。
分かっている。これは私の勝手な思い込みだ。
私が勝手に勘違いしていただけ。
彼は何も悪くない。
でもどうしようもなく思ってしまう。
彼なんかに買ってもらいたくなかったって。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【ステータス】
名前:ウルフ
種族:ヒューマン
レベル:49
印象:嫉妬?
体力:201
攻撃:149
防御:111
俊敏:205
魔力:15
聖力:10
気力:138
備考:
D級冒険者パーティ『ニューソード』のリーダー。
拳闘士。惚れやすい。
【ステータス】
名前:シルドアウト
種族:ヒューマン
レベル:45
印象:侮蔑
体力:197
攻撃:186
防御:183
俊敏:42
魔力:14
聖力:11
気力:145
備考:
D級冒険者パーティ『ニューソード』のパーティメンバー。
剣士。甘味が好き。
【ステータス】
名前:フレデリカ
種族:ヒューマン
レベル:42
印象:失望
体力:128
攻撃:203
防御:72
俊敏:30
魔力:251
聖力:51
気力:84
備考:
D級冒険者パーティ『ニューソード』のパーティメンバー。
魔法士。両親を家ではパパ・ママと呼んでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます