#9 先輩冒険者の印象③ [セカイ][マイ]
「どうしましたか?いつもと比べて暗い顔をしていますが……」
回収した魔獣の素材を買い取ってもらっていると、リアシーさんから心配された。
「え、そうですか。そんなことないと思いますけど」
「セカイさん、抱え込むのは良くないですよ。
新人冒険者育成制度では先輩冒険者とのトラブルも良くあるんです。
ついつい新人冒険者は我慢して、体を壊したりトラウマを抱えて冒険者を諦めてしまう人もいます」
そんな人もいるのか。
彼らは決して悪い人じゃなさそうだけど、上手くやっていけるか正直不安だ。
俺は彼らに良く思われていなさそうだった。
そして俺自身も彼らの冒険者のスタイルに思うところがあったし……
「そうなんですね……」
「もしよろしければ私が話を聞きましょうか?
私も昔は冒険者だったんです。先輩としてなにかアドバイスができるかもしれません。
それに大人に相談すれば意外とあっさり解決することもよくあるんですよ」
リアシーさんも冒険者だったのか。
それに大人に相談……か。
「お気遣いありがとうございます。
だけど、もう少し自分で頑張ってみようと思います」
「……分かりました。頑張ってくださいね。
けど、無理をする前には私に相談してください。絶対ですよ」
「はい、ありがとうございます」
俺はお金を受け取り、彼女にお辞儀をしてその場を去った。
帰り道、なんで彼女の相談を断ったか考えていた。
異世界に来てわかったことがある。
俺は子供だ。
子供は多くの大人に頼って生きていたんだ。
この世界に来て俺はカインさんに頼りきりだ。
ビルキさんも俺の鍛錬に付き合ってくれている。
リアシーさんはE級の簡単な依頼にもたくさんのアドバイスをくれた。
彼らは何ともないような顔で俺をいつも助けてくれた。
俺にはそんな真似はできないだろう。
今も自分のことで精いっぱいだ。
俺は彼らに何もできない。
頼ってばっかり。
けど、それが普通なんだと思う。
彼らは俺を助けることを苦に思っていないから『大人』で
俺は彼らに頼ることしかできないから『子供』なんだ。
俺は現代にいた時のことを思い出す。
中学2年生の時、母さんとよく喧嘩した。
すごくイライラしている時に限って、俺を叱ってくるからだ。
そんな後でも、母さんは俺の分までご飯を作ってくれていた。
父さんは母さんと比べて優しかった。
母さんと喧嘩した後、優しい言葉で俺を諭してくれた。
父さんみたいに優しくなりたいと思えた。
当たり前のように俺は両親の優しさを頼っていた。
俺は子供だ。けど頼ってばっかりじゃいつまでも子供だ。
早く大人になりたい。
彼等みたいな立派な大人に。
☆
私は去っていくセカイ君の後ろ姿を眺めながら考えていた。
作戦は失敗した……けどしょうがないだろう。
今日はまだ1日目だ。
想定通り彼等とは上手くいかなかったようだ。
思ったより、彼らにとってセカイ君の印象が悪くなさそうだったので焦ったが杞憂だったようだ。
彼らと冒険を続けていくうえで、いつか私に相談してくれるだろう。
「作戦は上手くいかなかったようだね」
ガイルが私に話しかけてきた。
「分かってるわよ。焦ったりしないわ」
「そうそう。毒らせて出てきたところを罠にかけて討つ。
いつもの戦法だと思えばいい。
で、彼らをどう思う?」
「ニューソードのこと?」
「うん。S級を目指しているみたいだけど?」
ガイルは嫌な笑みを浮かべる。
どうせ、私がなんて答えるかなんて分かってるだろう。
「S級が無理なのは当たり前として
まぁ、いってB~BB級ってところじゃない?
または、C級の途中で大けがをして脱落ね」
冒険者ランクは強さの基準になっている。
鍛錬や修行、実戦を繰り返すことで魔力や気の総量が増え体が丈夫になっていくのは常識だ。
冒険者はその現象を『成長』と呼んでいる。
成長の度合いは人によって大きく変わってくる。
魔力が上がりやすい人がいれば、体が丈夫になりやすい人もおり、種族によっても成長の振れ幅が変わる。
しかし、誰もがその成長が止まる時がくる。
成長が遅くなる、成長の幅が小さくなるとかではない。
成長が一切しなくなる。
冒険者はその現象を『壁』と呼んでいた。
実際は、完全に成長が止まるわけではない。
強敵を倒してたり優秀な師のもとで鍛錬を行うことで、再び成長が始まることが多い。
冒険者ランクはヒューマンの『壁』を基準にしている。
冒険者ランクで最も人口が多いのはD級だ。
これは多くの人がD級からC級までの間に『壁』に躓き成長がとまるからだ。
そしてB級とA級の実力の間には、最も大きな『壁』が存在する。
彼らは若く才能がある。始まりの街のダンジョンはあっさり全て攻略するだろう。
しかし、活動拠点を都市に移したときに現実を知るはずだ。
B級は珍しいが特別じゃない。
自分たちはただの『才能がある冒険者』に過ぎないのだと。
それ以前に、彼らは慢心しきっているため、拠点を移したとき調子に乗って大けがを負う可能性がある。
良い師に出会えたら別だろうけど。
「俺はそうは思わないな」
「もっと低い?でも才能は本物よ」
「逆だ。彼らはA級になりうる」
「正気?あんな仲良しグループがA級にいくなんて絶対に思えないけど。
それに私たちがあれくらいの時を思い出しなさいよ。こんなぬるま湯な環境で強くなれるわけがないわ」
「俺もそう思っていたよ。今まではね。
けど、今は違う。今は
と言っても、A級になる可能性が見えた程度だけどね」
幼馴染は悪い笑みを浮かべた。
良くないことを考えている時の顔だ。
「なんでもいいけど、セカイ君は私と結婚する予定だからあのパーティにはいられないわよ」
「安心してほしい。
そこらへんも含めて『作戦』を考えているよ。
だからマイはちゃんと彼をおとしてくれよ」
40年間の付き合いで分かることもある。
彼は他人が苦しんでいると笑って喜ぶため皆から嫌われている。しかし世渡りが上手なため上層部からは好かれている。自身のためなら平気で犯罪を犯すし、それで誰かが犠牲になっても何とも思わない。
彼は悪い大人だ。
しかし、一度も私を裏切ったことはない。
私の信頼する仲間だ。
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