#9 先輩冒険者の印象① [セカイ]


「EE級昇格おめでとうございます!

 E級は実質お試し期間みたいなものなのでEE級からは立派な冒険者ですよ!」


 リアシーさんがパチパチと拍手をする。


「ありがとうございます。リアシーさんのおかげですよ」


 俺はお礼を言った。

 EE級に昇格できたのは間違いなく彼女の補助があってこそだった。


 最近のリアシーさんは俺と普通に接してくれている。


 依頼と関係ない話題もふられないし、露骨なボディタッチも減った。ここ数日はストーキングもされてない。

 そのため俺の中での彼女の印象は怖い人から変な人に代わっていた。


 ……念のため警戒は解かないけど。


「こちらこそありがとうございます。

 さて、早速ですけどEE級について説明させていただきますね。

 EE級から変わることは3つです。


 受注できる依頼の増加。

 魔獣との戦闘許可。

 新人冒険者育成制度です。


 それぞれ説明させていただきますね」


 俺は鞄からメモ帳を出す。

 異世界に来てメモを取ることが増えた気がする。


「まず、受注できる依頼の増加と魔獣との戦闘許可について説明しますね。

 EE級からは魔獣との戦闘が解禁され、魔獣の素材回収依頼が増えます。


 と言っても始まりの街付近には魔獣はほとんどいません。

 この街は勇者の加護によって守られており、迷い込んできた魔獣も巡回している衛兵が駆除しているためです。


 そのため、魔獣は冒険者ギルドが管理しているダンジョンで倒してもらいます」


 ダンジョン!

 テンションが上がる響きだ。

 

「EE級が受注できる依頼は、一日ダンジョンに潜れば大抵終わらせられます。

 依頼期間も3日間程度が多いため、運悪く素材回収ができなくても次の日に挑戦できます」


「なるほど。ダンジョンについてもっと詳しく教えてくれませんか」


「私も教えたいのですができません。

 教えられない理由を説明するためにも新人冒険者育成制度について説明しますね。


 新人冒険者育成制度は、EE級の冒険者をD級以上の冒険者パーティに所属させ

 先輩冒険者に新人冒険者を育成してもらう制度です。


 セカイさんも私たちが紹介するパーティに入ってもらいたいと思います。


 そして先輩冒険者の最初の仕事が新人をダンジョンに連れていき、ダンジョンについて教えることです。

 よってダンジョンについては先輩冒険者の方々に聞いてください」


 そんな制度があるのか。

 しかし、新人としてはとてもありがたい制度だった。


 俺には冒険者の知り合いが一人もいない。

 他の冒険者と話す理由もなかったし、ちょっと怖くて話しかけることができなかった。


 カインさんが言うには今の俺に必要なのは『仲間』らしい。

 先輩冒険者の仲間に俺はなれるだろうか。


「そのパーティってどんな方々ですか?」


「……最近D級に昇格した注目のパーティです。

 全員、セカイさんと同じく15歳の才能ある若者ですよ」


 同じ年齢。つまり同級生だ!


 歳が同じ人と会うのはこの世界に来て初めてだ。


 俺は少し緊張すると同時にワクワクしていた。


 異世界に来る前の気持ちを思い出す。

 仲間どころか友達ができるかもしれない。


「パーティ名は『ニューソード』です。

 そろそろ、ギルドの外で待っているため挨拶に行ってくださいね」


「え?!今からですか」


 リアシーさんは頷く。


 急な話だ。

 全く準備していなかった。


 上手く自己紹介できるだろうか。


「説明は以上です。何がご質問はありますか?」


「特にないです。ありがとうございました」


「……何かトラブルがあったらすぐに私に言ってくださいね」


 俺は彼女にお辞儀をして急いでギルドの外に出る。

 先輩方を待たせるわけにはいかないからだ。


 ギルドの扉を開け外に出ると多くの通行人が目に入った。

 周囲を見渡していると、道の反対側で談笑していた男子の一人と目が合った。


 おそらく同じくらいの年齢だ。


 彼と談笑している男女も俺の方を見る。

 そして近づいてきた。


 最初に目が合った彼が話しかけてくれた。


「EE級のセカイか?」

「はい。『ニューソード』の方々でしょうか」


「ああ。新人冒険者育成制度でお前を受け入れることになった。

 俺がリーダーのウルフだ。俺のことはリーダーって呼べよ」


 と言い、ウルフは俺の体を全身隈なく見渡した。


 俺も彼の姿をみる。


 赤みがかった茶髪のショートヘアでいかにもスポーツ少年って感じだった。

 背は自分と同じくらいで胸は皮鎧を装備しており、腕に手甲を、足には足甲をつけている。

 所々見える肌の部分は筋肉質で体が引き締まっていることが予測できた。


「ふーん。そんな顔だったんだな。なんだかさえない顔だな」

「え、はい。すみません?」


「マイさんに期待されてるからって調子に乗るなよ!

 それに、俺だってこの前マイさんに褒められたんだからな!」


 マイさん。ああ、リアシーさんか。

 まぁ、マイさんは優しいしそりゃあ褒めてくれるんじゃないだろうか。


「良かったですね?」


「それに、ご飯も一緒に食ったこともある――「はいはい。その話恥ずかしいからやめてよね。ただ近くの席に座ってただけでしょ!」


 隣に立つ女子が口をはさみ、彼の耳を引っ張った。

 ウルフはいててとうめいている。


 もう一人の男子がため息をつき自己紹介を始めた。


「俺の名はシルドアウト。見ての通り剣士だ。はじめに言っておく。俺達は弱い奴はいらない。俺たちの足を引っ張るなよ」


 シルドアウトはそういうと黙った。背は俺より少し高い。

 茶髪でマッシュの髪型だ。目は髪で隠れて良く見えないが鋭い目つきをしていた。

 背には高さが50㎝ほどの盾を背負っており、腰にはロングソードがかけられてある。


 次にさっきリーダーの耳を引っ張った少女が自己紹介を始める。


「私はフレデリカ。魔法士よ。よろしく」


 金髪のロングヘアー。背は自分より低い。

 薄紫色のローブに身を包んでおり、手には魔法士用の杖を持っていた。


 彼女は続けて言う。


「シルドアウトは言い方が悪いけど、私も同意見かな。

 私たちは幼馴染でE級のころからパーティを組んでるの。だから私達自身は新人冒険者育成制度を受けていないわ。それでもたった半年でD級になれた。

 君の実力を私は知らないけど、私たちは本気で上を目指しているから。本気でついてきてね」


 ニューソードのメンバーからはあまり良く思われていないようだった。

 少なくとも快く歓迎されてはいない。


「自分はセカイ・アライといいます。槍使いです。

 冒険者になってまだ2週間ほどで先輩方と比べたらまだまだ弱いですが、必死についていきます。

 よろしくお願いします」


 俺は深々と頭を下げる。

 辺りが沈黙に包まれた。


「お、おう。よろしくな。頭上げていいぞ」


 俺は頭を上げる。

 3人とも俺を見る目が少し変わっていた。

 ウルフが俺に話しかける。


「セカイ、お前いくつだ?」

「15歳です。」

「そうか、俺も15だ。だけどお前は新人冒険者だ。だから基本的に俺たちの言うことには従え。分かったな」

「はい」


「よし、一つ目の命令だ。敬語禁止!

 さっきからむず痒くてしょうがねぇ。

 同い年なんだからそんな畏まらなくていいぞ」


 俺は呆気にとられた。


「え?でも先輩ですし……」

「いやいや、そういうのいいから。

 というか、さっきからお前少しキモいぞ。

 俺の友達でそんな敬語使える奴いねぇよ……」


 3人とも大きく頷いていた。


「それとも、早速先輩の命令を無視するのか」


「わ、わかった」


 俺は口がどもる

 良く考えればこの世界に来てずっと敬語を使っていた。


 ウルフは俺に向かって手を差し出す。


「俺たちは『ニューソード』。

 よく覚えておけよ。いつの日かS級冒険者になるパーティだ。

 1カ月間よろしくな!」


 俺は手を握り握手をする。


「よろしく」


 悪い人じゃなさそうだ。

 それに、しっかりと上を目指す将来に期待を持てるパーティだった。


 俺も彼らについていき多くを学んでいこう。


 握手を終えると、ウルフは拳で手をパンと叩いた。


「よし!じゃあ早速ダンジョンに行くぞ!」


 急なダンジョン出発に俺は驚く。

 まだ何もダンジョンについて知らない。


「え、ごめん。まだダンジョン用の装備じゃないんだけど……」

「ん?まぁ、武器もってるしいけるだろ」


 ウルフはあっけらかんと言った。


「いや、道具とか……」

「大丈夫だよ。適当に魔獣を何体か狩って帰るだけだし」


 フレデリカがのびをしながら言う。


「俺、魔獣と戦ったことなくて……」

「大丈夫だ。弱い魔獣だし怪我もしない」


 彼らは俺の実力が一目見ただけて分かったのだろうか。

 俺の強さを期待してくれるのはありがたいけど……


 まさか自身が大丈夫だから俺も大丈夫だと思っているわけじゃないよね?


 ダンジョンへ向かう途中、俺はフレデリカに質問する。


「ダンジョンにはいつもどんな道具を持って行ってるか教えてくれない?」


 彼女は口に指を持っていきながら考えた後に、思い出したかのように答えた。


「ポーションとか、水とか、それくらいかなぁ?」

「使っているポーション見せてくれない?何を買えばいいか迷ってて」


「今持ってないや」


「え?」


 ダンジョンに行くのに?

 もしかして本当に武器だけしかみんな持ってないのか?


 俺はみんなの装備を確認する。

 リュックは誰も背負っていない。

 ポーチのようなものさえ見えない。


「多分緑色の一番安い奴だったよ」


 大丈夫だろうか。このパーティ。


 最初感じていた期待は一瞬で崩れ去り、不安しか残っていなかった。

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