#8 ギルドマスターの作戦② [マイ]
「ははは、振られたねぇ」
一大決心をして言ったデートのお誘いが見事に断られ私が落ち込んでいると、受付の裏にある資料室から声が聞こえた。
40年間も聞いてきた声だ。
私の幼馴染であり元パーティメンバー。
そして今はギルドマスターのガイルだ。
「なによ。私を嘲笑いにきたの」
「うん。まさか幼馴染が15歳の子供に振られるときがくるなんてね。傑作だよ」
生意気なやつだ。
普通、ここは仲間として労わる言葉や励ましの言葉をおくるべきだと思う。
「あら、良かったわね。じゃあ仕事に戻ったら?」
私は毅然とした態度で追い返そうとする。
「おいおい、俺はマイを助けに来たんだよ。なんで振られたか教えてあげようと思ってな」
「結構よ。それに理由なんて簡単よ。まだご飯に行ける程仲良くなれていないんでしょ?」
「それはそうだな。だけど、そのままだとまた断られるぞ」
ガイルはニヤニヤしながら言う。
私は彼の言葉を無視できなかった。
ガイルは既婚者だ。少なくとも私よりは恋愛に詳しいだろう。
「どういうことよ」
「まず誘い方が悪いんだよ。高級な料理店なんて子供には荷が重すぎる」
「私が奢るつもりだったわよ?そのこともちゃんと言ったし」
「値段じゃなくて、よく知らない女性と高い料理屋に行くこと自体がハードル高いんだよ。
それにお前は奢られすぎて麻痺しているのかもしれないが、奢られるのは本来精神的に負担なんだ。特に男はな」
知らなかった。
奢られて喜ばない人はいないだろうと思っていたが、そんな人もいるのか。
「まぁこういう時は最初は安い酒場に行くのが無難だよ。
奢られてもそこまで罪悪感はないし、相手がどうしても割り勘にしたいって言っても財布に優しいだろ?」
「分かったわ!早速行ってくる」
「はい駄目ー」
私は立ち上がりセカイ君を追いかけようとするが、ガイルに襟をひょいと掴まれ停止する。
「なんでよ。善は急げでしょ」
「恋は盲目だねぇ。お前、ついさっき振られたんだぞ。分かるか?」
「う……」
「もう一つ、お前の良くないところを言うとな。がっつきすぎなんだよ。多分苦手意識持たれてるぞ」
「でもアプローチってそんなものじゃないの?」
彼はため息をつき私に呆れているようだった。
「男ってやつは確かに大人の女性が好きになる時期がある。
けどそういうのはな、勝手に惚れて告白することなく一人で失恋するもんなんだ。
お前が惚れてアプローチするのとは全く違う。
いい年した大人が新人冒険者の少年を口説くって
いい年してビキニアーマーを着ている中堅冒険者みたいなものだぞ」
鳥肌がたった。
「う……それは痛いわね」
「要はお前が恋愛をするんじゃなくて、彼に恋愛をさせる必要があるってことだ。
ただしお前の方からアプローチしたら駄目だ」
「でも、そんなの上手くいくの?」
「まぁ、確かに不安なのも分かる。
実際大人に恋する子供は少数派だろうし、彼の性格的にも何もしなかったら普通に良い人で終わるだろうな。
しかし、そんなマイのために作戦を考えてきた」
私は苦い顔をする。
今までの経験から彼の作戦は意地が悪いものばかりだからだ。
しかし、今は猫の手も借りたい状況。
聞くしかない。
「その名も『どしたん?話聞こうか作戦』!」
「『どしたん?話聞こうか作戦』?!」
「作戦の概要はこうだ。
彼が冒険者生活で悩みを感じている時に酒場に誘って相談にのってあげる。
ただこれだけだ」
「たった、それだけ?
さっきみたいに断られるんじゃないの?」
「嫌われてさえいなければ大丈夫なはずだ。
重要なのはあくまで冒険者ギルドの関係者として相談に乗ってあげること。
下手に女の部分を見せるなよ。
人は悩んでいる時、隙ができやすい。
そこにつけこんで好感度を稼ぎつつ、お酒に酔わせてあわよくばをねらうシンプル且つ古からある作戦だ」
「シンプル且つ古からある作戦……」
彼が考えたわけではないのなら期待ができる。
それにあわよくばもあるとは……って。
「彼は15歳よ!お酒は飲ませられないわ!」
「ばれない、ばれない。
15歳くらいならちょっと誘えばすぐに飲んでくれるんじゃないか。
誘うのが嫌なら離席している間にこっそり入れ替えるのでもいいし」
「まぁ、それならいいけど……」
私がお酒を飲ませるのはいけないが、彼が間違って飲む分には構わないはずだ。
意外といい作戦かもしれない。
「気に入ってくれたかい?」
「うん。ありがとう。使わせてもらうわ」
「そっか。それは良かった。じゃあ彼には苦しんでもらわないとね」
「え?」
「だってそうだろう。君に悩みを相談させるためには彼は存分に悩んでもらわないといけない
なにか間違ったことを言っているかい?」
私は彼を睨みつける。
「本当にいい性格してるわね」
「ありがとう」
私の皮肉は通じなかったようだ。
40年間の付き合いで私は慣れたが、彼はちょっと性格が悪い。
「彼についての報告書は俺も見たよ。
セカイ・アライ君。興味深い人物だな。
精霊の森からきて衛兵長に保護される。
2人の精霊を連れているが知覚はしていない。
そしてマイから惚れられる。
どの話も嘘みたいな人物だ」
「あいつら……」
私は盗賊ギルドの残党を思い出す。
約束を守らずギルドマスターに報告したようだ
「おいおい、彼らを恨むなよ。
俺にばれたのはむしろお前が原因だ。
盗賊ギルドの残党が衛兵長にばれただろ?
あのままだったらヤバかったんだからな。警備隊にいる奴から報告が来たから気づけたが」
「う……ごめん」
「いつも思うがマイはC級を侮りすぎだ。
まぁ、その件はいい。ちゃんと記憶を消しておいたから大丈夫だ
ともかくセカイ君はなかなか面白い。
その中でも一番面白いのはこれだけいろんな人に好かれながら、他の冒険者からの評判は軒並み悪いところだ。
十中八九お前がひいきしているせいだな」
それは私も不憫に思っている。
冒険者たちからの彼の評判は最悪だ。
「そこでだ。彼はそろそろEE級に上がるだろ?
新人冒険者育成制度を適用させよう。
安心してほしい。
どこに所属させるかはもう決めてある。
これ以外にないパーティだよ」
新人冒険者育成制度。
2年前から行っている始まりの街冒険者ギルド独自の制度だ。
D級以上の冒険者パーティにEE級の冒険者を所属させるものだ。
D級冒険者は冒険者生活にも慣れてきて慢心しやすい。
そこに新人冒険者を所属させ緊張感を持たせる。
EE級の新人冒険者は先輩冒険者から冒険者のいろはを学びつつ、多くの冒険者パーティとコネクションができる。相性が良かった場合はそのままパーティに誘われることもあった。
先輩新人どちらもが成長する良い制度だ。
しかし、彼の場合は多くの先輩冒険者から良く思われていない。
場合によってはいじめられるだろうし、苦しい思いをするだろう。
「最初からそれが狙いだったのね」
「なんのことだか。
はい、これがそのパーティ」
私はガイルから渡された冒険者の情報が載った書類を見る。
私は目を見開いた。
「ご存じの通り、最近D級になった今注目のパーティだ。
記録も更新して慢心しまくりだろう」
そう。彼らは始まりの街冒険者ギルドD級昇格年齢
まだ
「そんな時に、受付嬢にひいきされて昇格したいけ好かない後輩が、パーティに入ってきたらどう思うだろうねぇ」
最悪だ。
彼は同年齢の先輩にいじめられることになる。
そして、その悩みを聞いて慰めてあげるのが大人の私だ。
彼の言う通りこれ以外にない最高のパーティに違いなかった。
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【ステータス】
名前:ガイル
種族:ヒューマン
レベル:251
印象:興味
体力:1489
攻撃:1015
防御:1178
俊敏:1501
魔力:4017
聖力:2501
気力:1034
備考:
始まりの街冒険者ギルドのギルドマスター。
元A級冒険者の支援術師。
性格がすごく悪い。
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