#4 新しいセカイの日常② [カイン]
セカイが俺の家で居候を始めてから2週間がたった。
彼がどんな人物か徐々にわかってきた。
はじめは不思議な少年だと思っていた。そしてその印象は今でも変わっていない。
まず、彼は貴族の子供ではない。
俺はこんなに家事ができる貴族の子を見たことも聞いたこともない。
彼が来てから俺の借りてた家はピカピカになった。
少なくとも掃除や料理は常日頃からしていたのだろう。
動きが明らかになれていた。
洗濯は初めてだったのか少し苦労していたが、それもすぐに慣れていった。
大きな商家の息子とかだろうか?
少なくとも家事は自分でやるよう教育されていたんだろう。
会話をしていて教養を感じる一方、一般常識が欠けている場面も見られる。
特に魔法や魔獣の知識を忘れていたのはびっくりした。
彼は記憶喪失を起こしている可能性が高い。
彼が住んでいた二ホンという国も不可解な点が多い。
魔獣が一切出ない国。正確には魔獣が世に広まっていない国だ。
その国は争いがなく魔法も浸透していない。そして多くの子供が学校に通い教育を受けているという。
そこまで聞いて俺は確信した。
二ホンは彼が脳内でつくった虚構の国だ。
そんな国が存在するはずがない。
魔獣が一切出ない国はまだあり得る。おとぎ話レベルの話だが。
しかし、魔獣を知らずに生きることなんてこの世界では不可能だ。
それほどまでに魔獣はこの世界の脅威となっている。
やはり彼は記憶喪失の後、嘘の記憶を信じているのだろう。
彼の不可解な点はまだある。
それは彼の呪い。
彼は人から嫌われる呪いを受けている。
確信したのは彼と一緒に外出した際だ。
街の住民が彼を見る目は異常の一言だった。
嫌悪、または憎悪を抱いている人までいた。
中には石を投げてくる子供もいた。
当たる直前にキャッチし防いだから良かったが、いたずらではすまない。
投げた本人はいたずらのつもりではなく、あてるつもりで投げたらしい。
その子はセカイが人の皮を被った悪魔と言った。
事情を聞いても彼とは初対面だという。ただ皆が口をそろえて言うのは彼は信用ならないということだ。
明らかに印象操作が行われている。それも大規模なものだ。
俺はこれを呪いと予測した。
本人ではなく周囲に影響を及ぼす呪い。
聞いたことがない。相当に強い呪いだろう。
そしてなぜ俺が影響を受けていないかもわかっていない。
可能性としては一般人に比べ魔法の耐性があるからだろうか?
それに第一印象が悪いだけで、仲良くなった人もいる。
部下であるビルキも最初は彼をよく思っていなかったが、最近では彼と少し仲良くなった。
あくまで嫌われやすくなる呪いということだろうか?
それともビルキも同様魔法の耐性が高かったからか?
しかし、魔法と呪いは別物だ。まだわからないことが多い。
とりあえず、セカイにはできるだけ一人で外出しないように指示をしている。
外に出るときも認識阻害の魔法が付与されたローブを着させている。
もう一つ不可解な点がある。
それは傷の治りが異様に早い点だ。
若いからでは済まない速さだ。訓練を受けた翌日は誰もが苦しむ。訓練でできた傷や筋肉痛で痛いからだ。
しかし彼は訓練中は痛がっているが一度寝るとけろっとしている。実際小さな傷は一晩で治っていた。
これも呪いに関係しているかもしれない。
そして今俺はセカイを『勇者の安らぎ亭』に連れてきていた。
ある提案をするためだ。
「セカイ、そろそろ冒険者になれ」
「冒険者?」
セカイは怪訝な顔をする。
「ああ。訓練も初めて10日ほどたち分かったことがある。セカイは筋がいい」
「そ、そんな!無理ですよ。カインさんは勿論、ビルキさんにもまだ一撃もあてれたことないのに」
「そりゃ当然だ。俺は元C級冒険者だぞ。体格や経験の差もある。
ビルキだって俺が鍛えて5年近くたつし、冒険者になったとしたらD級は難くない」
そう、セカイは体は貧弱だが戦闘センスの筋がいい。
というか俺たちの真似が上手い。
しっかりと考えながら戦っており、行き当たりばったりの戦闘をしていないことが分かる。
体さえできあがればそこそこには強くなるだろう。
もしかしたら同じC級まで上がれるかもしれない。
「働かざる者食うべからずだ。そろそろ自分で金を稼いでみろ
安心しろ。別に追い出す気もないし、俺に金を寄こせともいわん。ただ、自立に向けて動き出すべきだ」
セカイは黙っている。
「それにセカイはいつかは家族のもとに帰りたいんだろう?
それならここを離れ旅をする必要がある。そのためにも冒険者にはなるべきだ。
なぜかわかるか?」
「お金を稼げるようになるため?」
「違う」
「強くなるため?」
「違う」
俺はセカイの眼をまっすぐ見て答える。
「信頼できる仲間を見つけるためだ。旅は一人ではできない。そして俺はここを離れるわけにはいかない。
俺以外の仲間を見つけてこい」
きっと苦労するだろう。
セカイは人に嫌われる呪いを持っている。
仲間もすぐには見つからないはずだ。
だからこそ仲間ができた時、そいつは最も頼りになるはずだ。
セカイは少し悩んだ後、自分自身の頬を叩いた。
彼が何かを決意するときの癖だ。
「分かった!カインさん。俺冒険者になって頑張ってみるよ!」
俺はセカイの頭をなでる。
真面目でまっすぐで決して諦めない根性を持っている。
可愛い奴だ。
戦闘訓練を始めた時も俺と同じ武器を使いたいといって、棒術の鍛錬をしている。
息子が生きていたらきっと……
俺は笑顔で彼の頭をなで続けた。
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【ステータス】
名前:始まりの街の住民(平均)
レベル:5
印象:嫌悪~憎悪
体力:5
攻撃:5
防御:5
俊敏:5
魔力:5
聖力:5
気力:5
備考:魔獣の脅威に晒されないため平和ボケしている。
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