#5 受付嬢のセンサー① [セカイ]


 カインさんから冒険者になれと言われた翌日。

 冒険者ギルドの前に俺は立っていた。


 冒険者ギルド。

 ここから俺の冒険が始まるんだ。


 俺は意を決して扉を開け中に入る。


 中には人がまばらにいた。思っていたより多くない。

 掲示板の前で紙を眺めている人、立ち机で談笑する人、そして中央のカウンターに座っている人。


 おそらく中央のカウンターに座っている人に話しかければいいだろう。


「すみません。冒険者になりたいんですが……」


 受付嬢は綺麗なお姉さんだった。

 耳が横に長くとんがっている。


「冒険者登録ですね。初めてですか?」

「はい」


 お姉さんは笑顔で応対してくれる。

 優しそうな人だ。


「用意いたしますのでこの紙のあいている欄を記入しお待ちください」


 俺は紙を渡された。

 名前は――セカイ・アライ

 年は――15歳。

 希望役職は――希望役職?


「すみません。この希望役職って何ですか?」

「そこは将来自分がどういう戦闘職になりたいか書くところですね。

 例えば、戦士や魔法士、狩人、神官などですね」


 なるほど。俺は戦闘訓練を思い出す。

 基本的に槍の鍛錬をしているため戦士だろう。将来的にはハルバードを使いたいが。


「なるほど。自分の場合は戦士ですかね」


 俺は戦士と記入する。


「えっ!」


 すると受付嬢のお姉さんの驚いた声が聞こえた。

 何か問題があったのだろうか?


「どうかしましたか?」

「いえ。魔法の才能がありそうだったのでてっきり魔法士かと」

「はぁ……」


 彼女は良く分からないことを言って俺をじっと見つめていた。

 もしかして褒めてくれたのだろうか。


 魔法の才能か……

 帰ったらカインさんに聞いてみよう。



「書けました」


 そう言い顔を上げると、彼女はまだ俺をじっと見つめていた。

 しかし、その顔に先ほどの笑顔はない。表情が一切なかった。


 先ほどまでと違う雰囲気に、一瞬恐怖を覚え体が震える。


 すると彼女の顔に笑顔が戻った。


「ありがとうございます。冒険証を発行しますね。その前にセカイさんはどこまで冒険者ギルドについて知っていますか?」

「すみません。全く知らないです……」


「承知しました。

 まず冒険者の仕事はあちらにある掲示板に張られてある依頼をこなすことです。


 依頼は薬草の採集から魔獣の討伐など様々な種類があります。

 そして依頼を受けるにあたって重要になるのが冒険者ランクです。


 冒険者ランクは大まかに分けてE級、D級、C級、B級、A級、S級の6つです。

 セカイさんは初めてということもありE級からスタートしていただきます。


 また、各ランクの中でも3つに実力が分けられます。

 それぞれE級、EE級、EEE級と実績や実力によって文字の数が増えていきます。


 様々な依頼をこなし実力がつけば自ずとEEE級になるでしょう。するとD級に上がるための昇級試験を受けていただくことができます。その試験に合格すると晴れてD級冒険者です。D級冒険者でも同様に実績と実力を積むとDDD級となり試験を受けられます。基本的にこれがA級まで繰り返されます。


 勿論、試験を受けるのは任意です。しかしランクが上がると受けれる依頼も増えていき、より高価な報酬の依頼を受けることができるようになります。


 何かご質問はありますか?」


「いえ、とくにありません」


「分かりました。次は禁則事項について――」


 その後も俺はお姉さんから冒険者ギルドについて話を聞いた。

 そして一通りの説明が終わった後、木のプレートが渡された。


 プレートには俺の名前とE級冒険者であることが書かれてある。


「これでセカイさんは冒険者となりました。最後に確認のためお顔を見せてください」


 俺はずっとフードを被ったままだったことを思い出す。

 しまった。室内ではフードも被らないほうが良いだろう。

 

「あ、すみません」


 俺はフードを外し顔を見せる。


 彼女は俺の顔をじっと見つめた。1分間も。


 長くないだろうか、とも思ったが顔を覚えようとしているのかもしれない。

 冒険者ギルドにも多くの人がいるだろうし、受付嬢だったら顔と名前を覚えておく必要があるだろう。


「ありがとうございます。明日お話があるためもう一度来てください」


 彼女は笑顔でそう言った。

 俺は会釈をし冒険者ギルドから出る。


 はれて今日から冒険者だ!

 

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