#6 守護者達の不安① [セカイ]
訓練所でビルキさんと模擬戦をしていると、カインさんがこちらにやってくるのが見えた。今日の巡回が終わったようだ。
俺はビルキさんにお礼を言い急いでカインさんの元へと向かう。
「カインさんこれ見てください!じゃーん!」
俺はカインさんに冒険者証を見せる。
「おお!登録してきたか。ギルドはどうだった?」
「意外と人が少なかったです。あとは受付のお姉さんが美人でした」
「確かにあそこの受付は全員美人だったな。早速何か依頼を受けてきたか?」
「いや、何も。明日また来るように言われました」
「ふーん。そうか」
カインさんは顎に手を当てて何か考えているようだった。
そしてパンと手を叩く。
「よし!じゃあ今日は登録祝いだ!買いに行くぞ。ビルキもついてこい」
「はい。姉弟子として私も少しですが出したいと思います」
「そうか!ビルキに後でお礼を言っとけよ」
ビルキさんはすぐに了承し鍛錬用の棒を片付ける。
しかし俺自身が何を買うか分かっていなかった。
「買うって何をですか」
「何言ってんだ、武器だよ。木の棒で戦うわけにはいかないだろ?」
なるほど、武器か。
初めての依頼は採集系にする予定だったので全く考えていなかった。
って武器?!
「自分の武器を買ってもらえるんですか!?」
「おう。依頼を受けたら否が応でも街を出る。絶対に武器は必要だからな」
「やった!」
自分専用の武器!
それに武器屋に行くのも初めてだ。
男ならだれもがテンションが上がるだろう。
片づけを終え訓練所を出る。
武器屋へと歩く途中、俺はカインさんに質問していた。
「カインさんは元冒険者なんですよね」
「ああ」
「確かC級でしたよね。すごいです!」
C級ということは2つもランクが上がったことになる。
「どうだろうな。C級は中堅って感じだ。
だからと言って簡単になれるわけじゃなかったが」
俺はカインさんから冒険者ランクの感覚を教えてもらった。
「E級は駆け出しって感じだ。
簡単な依頼しか任せてもらえないし、そのせいでなかなかランクが上がらないが一番楽しい時期だな。
D級になって脱初心者。そして一番人が多いのもD級だ。
C級は中堅だがベテランが多い。長年冒険者をしている人が多いからな。
意外にもC級のパーティは依頼者からは結構人気でな。B級以上に稼いでいる人もいた。
そしてC級が凡人の限界だ。
B級からは才能があるやつしかなれない。
B級に行くような奴は一気に駆け上がっていくから若者が多かったな。
そしてA級は……化け物だ。
まぁ要は俺は凡人だってことだ」
カインさんは肩をすくめ自虐するように言った。
そんなことはない。と俺は思った。
カインさんは俺にとって一番強い人だ。
訓練中も勝てる気配が全くない。
しかし口に出して言うことはできなかった。
冒険者の先輩としての口の重みがそこにあったからだ。
「さぁ、そんなこんなで話していたら店に着いたぞ!」
俺たちは武器屋の前に立っていた。
店に入る直前、なぜかフードを被るように指示された。
俺は言われた通りフードを被り中に入る。
壁や棚、いたるところに様々な武器が飾られてあった。
「かっけー!」
「だよな。俺もいつ来てもそう思うよ。ちょっと自由に見てきていいぞ」
俺は棚に飾られてある剣を見る。
持ちての部分に綺麗な装飾が施されているもの、刃が他のものと比べて長いもの、刃も装飾もいたってシンプルなものなど様々だ。
しかし、どれも格好良い。
剣ってなんでこんなに格好良いんだろう。
俺はじっくりと観察した後、本命の槍を見る。
壁にかけられているものや、樽の中に立てかけられているものもある。
見ているとビルキさんが話しかけてきてどんな槍が良いか解説してくれた。
「カインさんはどれが良いと思いますか?」
俺は後ろを振り返る。しかし、そこに彼の姿はいなかった。
するとビルキさんから説明される。
「カインさんはお金を取りにいったみたいです。
武器は高いですから」
なるほど。
というか、普通に奢ってもらうことになっている。
勿論俺は武器を買うお金は持っていない。手持ちのお金もカインさんからもらったお小遣いなので俺の金ではなかった。
この借りを返すためにも冒険者になって早く稼がないと。
そう思っていると武器屋の扉が開く。
カインさんが帰ってきたかと思い再び振り返るとそこには意外な人物がいた。
俺は彼女と目が合った。
「あら、セカイさんじゃないですか。奇遇ですね」
冒険者ギルドの受付のお姉さんだ。
じっくり俺の顔を見られたかいもあり、顔を覚えてもらったらしい。
俺は何と言っていいか分からなかったため、黙ってお辞儀をした。
お姉さんもお辞儀をすると俺たちの横を通ってカウンターの方へ――いかなかった。
なぜかビルキさんの目の前で止まる。
「こんにちは。私は冒険者ギルド受付嬢のマイ・リアシーと言います。お名前を聞いてもよろしいでしょうか」
へぇ。リアシーさんって言うのか。初めて知った。
「私はビルキと申します。セカイ君の姉弟子にあたります」
ビルキさんは簡潔に自己紹介をした。
顔は無表情だが、それはいつものことだった。
「姉弟子でしたか。因みに師は誰ですか」
「カインさんです」
「カイン……ああ、あの衛兵長の方ですね。彼の評判は良く聞きますよ」
リアシーさんは俺の方に向き直す。
「それでここで何をしているんですか?あ、もしかして武器を選んでいる感じですか。私、長年冒険者ギルドで受付嬢をしているから結構目利きいいんですよ。買うの手伝いましょうか?あっ、長年受付嬢をしていたって言っても――」
なぜか、どんどん話し始めた。
暇なんだろうか。
断る理由もないので了承する。
「じゃ、じゃあおすすめなのを教えてほしいです」
「私のおすすめはこの槍ですね。初心者は高くて高性能な槍の方が良いと思いがちで、奮発して手持ちで買える最も高い槍を買いがちです。しかし、初心者だからこそシンプルで使いやすいものを選んだ方が良いと私は思います。中途半端に高い槍は木の柄の部分の材質や槍の形状にこだわっているだけで、初心者はあまり実戦では生かせません。むしろ変な癖がついて良くないですね。高い槍を将来的に買いたい場合は魔法が付与されている奴を買うといいですよ」
彼女は饒舌に話し始める。
さすがは冒険者ギルドの受付嬢だ。武器の知識も豊富だった。
ってあれ?
「俺、槍使いって言ってましたっけ?戦士とは言いましたけど」
饒舌だった彼女の口が閉じられる。
口は閉じているが笑顔のままだった。
「……違いましたか?槍を見ている様子だったのでてっきりそうなのかと。
それに受付嬢をしているとどんな武器を使うかなんとなく分かるんですよ」
なるほど。
もしかしたらリアシーさんはベテランの受付嬢なのかもしれない。
俺みたいな新人の顔も忘れず、豊富な武器の知識、使う武器の推測ができる人はきっと少ないだろう。
「いや、あってます。わざわざ見ていただきありがとうございました」
「いえいえ。これくらい冒険者ギルドの受付嬢として当然のことです。ここまで見ましたし、今度槍の戦い方も教えましょうか?これでも昔――」
と彼女がまた怒涛に話し始めた時、再び武器屋の扉が開いた。
今度こそ入ってきたのはカインさんだ。
「どうだ坊主?気になる武器でも――」
カインさんはリアシーさんに気が付くと黙る。
そして俺とリアシーさんの横に立ち、お辞儀をした。
「冒険者ギルドの受付嬢の方ですよね。私は始まりの街の衛兵長を務めさせていただいているカインです」
「私は冒険者ギルドの受付嬢をしているマイ・リアシーと申します。セカイさんの冒険者登録をさせていただきました」
「なるほど、ありがとうございます。
セカイは私の最近できた弟子でしてこの度冒険者登録をさせていただきました。
ご迷惑もお掛けすると思いますが何卒よろしくお願いします」
「こちらこそありがとうございます。
カインさんの弟子ですしセカイさんには注目しております」
お、大人の会話だ。二人共。
カインさんが珍しく敬語を使っている。
リアシーさんもさっきの饒舌さはなくなり丁寧な対応だった。
「それにしても彼がセカイだとよく気づきましたね」
「ええ。職業柄この街の冒険者の顔と名前は全員覚えるようにしているんですよ」
「それもありますがフードを被っていたのによく顔が見えたなと思って」
「……ハーフエルフですから。目が良いんです」
俺はそんな二人の会話を聞きながらビルキさんに小声で話しかける。
「冒険者ギルドと衛兵部隊って仲はどうなんですか?リアシーさんとは初対面みたいですけど」
「……見ての通りです」
「なるほど。やっぱ互いに協力して街を守ってますし仲は良い感じですか?」
「あなたの眼は節穴ですか?黙っていなさい」
怒られた。
やはりビルキさんは俺に厳しい。
その後、リアシーさんはカインさんと少し談笑すると、武器屋での用事を終え帰っていった。
帰り際に俺に対して
「明日、冒険者ギルドにて待っています」
と言っていた。
カインさんは彼女が外に出るまでじっと見つめていた。
熱いまなざし……ではなさそうだ。顔が少し険しい。
「セカイ、彼女には気を付けておけよ」
「え?はい。失礼のないように心がけます」
「それもあるが……いや、彼女はハーフエルフだからな。
用心するに越したことはない」
そういえばそんなことを言っていた。
ハーフエルフだったのか。確かにエルフは耳がとんがっているイメージがある。
カインさんは続けて言う。
「エルフは傲慢だ。ハーフだろうとその本性は決して変わらない」
傲慢……にはとても思えない。
むしろ彼女は俺やカインさんに対して丁寧に対応をしているように見えた。
その後、カインさんに槍を選んでもらい買ってもらった。
カインさんが選んだ槍はリアシーさんのおすすめと全く同じものだった。
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