#6 守護者達の不安② [カイン]
「カインさんこれ見てください!じゃーん!」
セカイが冒険者証を見せる。
Eランクのため木でできた質素なものだ。
しかしその表情は嬉しさでいっぱいだった。
俺は自分の若いころを見ているようで懐かしさを感じていた。
「おお!登録してきたか。ギルドはどうだった?」
「意外と人が少なかったです。あとは受付のお姉さんが美人でした」
特にトラブルには遭わなかったようだ。
念のため人が少なそうな時間に行かせて良かった。
「確かにあそこの受付は全員美人だったな。早速何か依頼を受けてきたか?」
「いや、何も。明日また来るように言われました」
明日?
普通はその日の内に最初の依頼を決めるものなんだが……
受付嬢にいじめられているとかか?
「ふーん。そうか」
適当に相槌を打ちながら俺が介入すべきかを考える。
いや、このくらいは大丈夫だろう。
どちらにせよ明日には依頼を受けるだろうし、これからのことを考えるとその程度のいじめには慣れてもらわないと困る。
「よし!じゃあ今日は登録祝いだ!買いに行くぞ。ビルキもついてこい」
「はい。姉弟子として私も少しですが出したいと思います」
ビルキもすっかりセカイと仲良くなった。
最初はあまり良く思っていなかったようだが、今では俺がいないときはかなり世話を焼いているようだ。
「そうか!ビルキに後でお礼を言っとけよ」
「買うって何をですか」
セカイはまだピンときていないようだ
「何言ってんだ、武器だよ。木の棒で戦うわけにはいかないだろ?」
「自分の武器を買ってもらえるんですか!?」
「おう。依頼を受けたら否が応でも街を出る。絶対に武器は必要だからな」
「やった!」
セカイは嬉しそうに飛び跳ねた。
セカイと冒険者について話しながら武器屋へと歩く。
そして武器屋に入り興奮する彼を自由に見てくるよう指示し、俺はビルキに小声で話しかけた。
「気づいてるか?」
「はい。つけられています」
俺はため息をつく。
つけられるのは別にいい。いや、良くないが、ビルキに気づかれる程度だ。
実力はたかが知れているだろう。問題は……
「どっちが狙いかだよなぁ」
「さすがに衛兵長でしょう。セカイ君をつける理由がありません。
……あるとしても人質にするためです」
ビルキはセカイが皆から嫌われていることを知らない。
ただ俺が過保護だと思っているみたいだ。
「しょうがない、ちょっと聞いてくる。任せたぞ」
「はい」
念のため武器を持ってきておいて良かった。
と言っても使うかは分からないが。
俺は武器屋から出る。
肩を回しながら周囲を見渡した。
ぱっと見は3人。まずは正面のやつからだ。
俺は足に気を集め正面の建物の屋上へ跳ぶ。
そして空中で覗き見野郎の顔を横につかみ、着地と同時に床にたたきつけた。
「よぉ、なんかようか?」
床に顔を押さえつけながら格好を確認する。
そこそこいい装備。ただの下っ端じゃない。
盗賊ギルドの残党か。
野郎は呻きながら俺を睨みつけてくる。
「今更狙いは何だ?」
すると懐から短剣を取り出し俺の腹に突き出してきた。
俺は全身に気を纏う。
短剣は金属に当たったような音と共にはじかれた。
「お前如きの短剣が刺さるわけねぇだろ。もういい。後で聞く」
俺は左手だけで奴を押さえつけ右手の拳に気を集中させる。
そして全力で振り下ろす――直前に横から気配を感じその場から跳び退いた。
俺がいた場所でナイフが空を切る。
形状的に毒の魔法が付与されているだろう。
俺は周囲を確認する。
続々とお仲間が集まってきたようだ。
周囲に4人。
反対側の建物の屋上に2人。
300メートル先の塔の上に1人だ。
面倒になった。
こいつら全員倒したら確実に夜中まで残業コースだ。
俺は気を解放し拡散させる。
「その程度の人数で本気で殺せると思ってるのか」
俺を中心に床に亀裂が走った。
奴らは顔を見合わせると屋上から跳び下りる。
そして街の奥へと消えていった。
脅しは効いたようだ。
折角のめでたい日に残業なんてたまったものじゃない。
それにしても奴らの目的は何だったのか。
少なくとも俺の暗殺じゃなかった。弱すぎる。
監視にしてもビルキに気づかれる程度のやつらだ。
やはり目的はセカイだろうか?
しかしセカイを監視するには過剰すぎる実力と人数だが。
まさか俺たちが護衛しているとは思っていなかったのだろう。
一体セカイは何者なんだろうか。
これも呪いの影響か?
それとも盗賊ギルドの残党が狙うような何かが彼にあるのだろうか。
……考えるのは後にしよう。
今は、セカイの武器選びだ。セカイのことだしどうせ見た目の格好良さとかで決めているだろう。
冒険者の先輩として助言してやろう。
俺は地面に跳びおり武器屋に戻る。
「どうだ坊主?気になる武器でも――」
気持ちを切り替え扉を開けると、そこにはエルフの女がセカイに話しかけていた。
ぞっとした。
なぜエルフが?なにか怒りを買ったのか?
とにかく彼を守らなければ――
と思ったところで、彼女の恰好に気が付く。
冒険者ギルドの制服だ。
点と点がつながる。確か冒険者ギルドの受付嬢にハーフエルフがいたはずだ。
すると、彼とは冒険者ギルドで会ったのだろう。
俺は急いで彼と彼女の近くに行き挨拶をする。
「冒険者ギルドの受付嬢の方ですよね。私は始まりの街の衛兵長を務めさせていただいているカインです」
ハーフエルフの女は笑顔で答えた。
「私は冒険者ギルドの受付嬢をしているマイ・リアシーと申します。セカイさんの冒険者登録をさせていただきました」
最悪だ。
セカイが美人の受付嬢だったと言っていたが、一番のはずれをひきやがった。
「なるほど、ありがとうございます。
セカイは私の最近できた弟子でしてこの度冒険者登録をさせていただきました。
ご迷惑もお掛けすると思いますが何卒よろしくお願いします」
「こちらこそありがとうございます。
カインさんの弟子ですしセカイさんには注目しております」
俺は再度ハーフエルフの女を観察する。
この女強い。
重心が全くぶれていない。
気の流れに一切の淀みがない。
高ランクの近接戦闘職。ハーフエルフであることを考えると魔法戦士だろうか。
ギルドマスターのパーティメンバーだと聞いていたが間違いないようだ。
つまり化け物の類。敵う相手ではない。
「それにしても彼がセカイだとよく気づきましたね」
「ええ。職業柄この街の冒険者の顔と名前は全員覚えるようにしているんですよ」
「それもありますがフードを被っていたのによく顔が見えたなと思って」
何より問題なのはこのハーフエルフがセカイをいじめている可能性が高いということだ。
いじめられていなくても先ほどの言葉から目をつけられているのは間違いない。
それにこのフードは認識阻害が付与されている。見ようとしなければ見えないはずだ。
「……ハーフエルフですから。目が良いんです」
彼女は都合の良い言葉を言った。
その後の会話からなんとなくだが彼女の人となりが分かった。
彼女は自分の立場を理解し話している。
常に物腰柔らかで丁寧に対応をしていた。
立場的にはギルドの受付嬢と衛兵長だ。
顔を立てたのだろう。
セカイのことも憎くは思ってなさそうだ。
どちらかというと好印象寄りだろう。
しかし決して忘れてはならない。
彼女がエルフの血を引くことを。
盗賊ギルドの残党にハーフエルフ。
問題は山積みだ。
冒険者としての門出は不安しかなかった。
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【ステータス】
名前:ビルキ
種族:ヒューマン
レベル:71
印象:中立
体力:394
攻撃:171
防御:226
俊敏:63
魔力:21
聖力:15
気力:337
備考:始まりの街の衛兵。衛兵長カインの部下であり弟子。基本無表情。Fカップ。
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