#17 保護者達の思惑① [マイ(25歳)]


 皆が酔いつぶれ賑わいがおさまってくる中、私は一人カウンターで飲む。するとガイルが隣に座り話しかけてきた。


「念願のA級になれたって言うのにしけた顔してんなぁ」

「ちょっと考え事してただけよ」


 今日は私達のパーティ『バーレスク』がA級に上がったことを祝う宴会だった。

 縁のある冒険者も呼びどんちゃん騒ぎをしたが、朝方にもなり皆は床でつぶれていた。


「少しもらうぞ」


 彼は私が飲んでいたワインをとりグラスに注ぐ。


「テリーとニーナは?」

「最後の樽飲みきって潰れたよ。ニーナは看病。だからこの瓶で最後だ」

「じゃあ大切に飲まないとね」


 私はお酒を一口飲む。

 強くなると毒に耐性を持つせいで酒にも酔いにくくなる。


 目がさえていた。


「何考えてたんだ?」


 ガイルはそう聞くと一口飲む。

 私は彼の目を見ずに答える。


「目標達成しちゃったからさ、これから何しようかなって」

「おいおい。まだまだ上はあるだろ」

「さらに上を目指すのは違うかな。それに行きたくても無理でしょ」

「まぁな」


 沈黙が訪れる。

 彼は私の本心に気づいている。なんとなくそう思った。


「本当はね。お母さんのこと考えていたの」

「マイ、母親のことは……」

「もうあれから10年よ。子供だった私も大人になった」


 10年間。私たちはこの話を一切しなかった。

 あの日の出来事は私たちを間違いなく大いに変えた。

 当時の話をするとあの日の自分に戻ってしまいそうで話すことができなかった。

 だから、忘れるように冒険者活動にのめり込んだ。


 今日しかない。

 話せるのは、あの日から成長するには今日しかない。


「母は狂っていた」


 ガイルは何も話さない。


「でも、それはしょうがないことだと思うわ。

 だってお母さんは父に何十年も監禁されていたんだから。

 まともな精神状態じゃいられなかった。

 父がお母さんに依存しているように、お母さんも父に依存していた」


 私は一口飲む。

 そしてガイルの目を見て少し笑った。


「それでも私はお母さんのことが好きだし、父——クソ親父は嫌いよ。

 お母さんが私を愛していなくても、お母さんが私に優しくしてくれたのは事実だし、クソ親父が私を殴ったのも事実。これっておかしいことかな」


 ガイルは悲しそうな目をして苦笑いをした。


「分からないな。俺は誰かを好きになったことなんてないし」

「そっか」

「でも、誰かを好きになるって幸せなんだとは思うよ。

 特にテリーとニーナを見ればな」


 私はテリーとニーナを思い出す。

 どちらも2年前にパーティに入ったメンバーだ。


「そうね。あの2人には幸せになってほしいわ。

 くっつくまであと何年かかると思う?」

「3年くらいじゃないか?」

「私は5年だと思うわ。24になっても恋人ができなかったら付き合う約束をしているらしいわ」

「なるほど。でも、なんで24なんだ?」

「曰く25になっても恋人がいなかったら行き遅れになるからだそうよ」

「耳が痛いねぇ」


 25歳の私たちはくつくつと笑った。


「私も恋人作ろうかな」


 ガイルは少し驚いた顔をした。


「本当に母親トラウマを乗り越えたんだな」

「ええ。いつまでも昔のことを引きずってられないわ。

 それに、A級になるって目標も達成したし、結婚して田舎でゆっくり暮らすのもいいじゃない」


 うん。なんとなく言ってみたけど良い気がする。

 結婚。


 次の私の目標だ。


「結婚か、そうだな。俺もしてみるか」

「なら勝負ね。どちらが早く結婚できるか」


 ――乾杯。


 翌年、ガイルはあっさりと結婚した。

 冒険者ギルド幹部の娘さんらしい。


 私も多くの人とデートしたけれど、恋人になることはなかった。

 1回食事に行って、それっきり。


 というのも、私に声をかけてくるような男は碌なやつがいなかった。


 冒険者はデリカシーがないし、貴族のボンボンはプライドが高い。

 私の顔やA級冒険者という肩書しか見ていない。


 そのくせ私より弱い奴ばっかりだ。


 そんな内にさらに4年がたってついにテリーとニーナが結婚した。

 そして結婚と同時に冒険者を引退したいと申し出た。


 私たちは了承し、これを機にパーティを解散。

 職を失った私に、ガイルが声をかけ私は冒険者ギルドの受付嬢になる。


 退屈な日々を過ごして10年がたち――


 私は運命の相手セカイと出会った。

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