#2 精霊の興味② [ウィン]


 何かに触れた。

 そう感じ振り返るとそこに一人のヒューマンがいた。


 一瞬にして現れたヒューマンの男の子にボクは興味を持った。


 触り心地が良い。


 服は綺麗で上等なものとすぐに分かった。

 肌はすべすべで髪もサラサラ。混じりけの無い黒髪と黒目は美しさすら感じる。


 ここら辺ではあまり見ない顔立ちで珍しかったため、自然と彼に微風をあてていた。


 すると男の子の目が覚める。


 風で動いた草が彼の顔に当たっていたようだ。


 ボクは彼の目の前に立っていたが彼が気づく様子はない。

 どうやら見えないみたいだ。


 彼は何となく少し違うように感じたのでもしかしたらと思っていたけど普通のヒューマンみたいだ。


 ボクは眺めながら彼の周りをくるくる回る。

 珍しい服装だ。


 いや、ここに人が来ることじたい珍しいため、あまり世俗のファッションに詳しいわけではないけれど、それでも彼のような服装は見たことがない。


 ただ友達が王都の学校で見た服の特徴に似ている気がする。と言ってもボク自身は見たことないのでどれ程似ているかは分からないが。


 それにしても彼はどこから来たのだろう。


 ボクは先ほどまでここら辺を縦横無尽に飛び回っていたけれど彼はいなかったはずだ。

 ちょっと目を離した隙にいきなり道の真ん中で現れたようだった。


 不思議だ。そして面白い。

 先ほどから百面相のように変わる彼の表情のように面白い。


 彼はどこに行くのだろうか。

 と思っていると彼が独り言をつぶやいた。


「街はどっちかなっっと!」

 

 そういい先ほど拾ったであろう棒を宙に放り投げる。

 自分の行き先を決めるにはあまりにも適当すぎる。


 ここら辺は魔獣が出ないからいいけど、他の場所でも同様に行き先を決めていたのならよく今まで生き残ってきたものだ。

 運が良かったのだろうか?それとも実は強いとか?


 ボクは楽しませてくれたお礼に風を操って街の方向を教えてあげた。

 どっちに行ったって死ぬことはないだろうけど、彼を安全に街まで送り届けるのも良い暇つぶしだ。


 ボクは彼と一緒に歩き始めた。まぁボクは飛んでいるんだけど。


 歩き始めて早6時間。

 彼の様子を確認して分かったことがある。


 彼はあまりにも弱い。弱すぎる。

 たかだか数時間歩いたくらいで死にかけみたいに疲れている。


 勿論普通の子供なら当然の反応なんだけど、ここは特別な領域だ。

 普通の子供は入ろうとも思わないし、実際結界に阻まれ入れないはずだ。


 やっぱり彼は突如あの道の真ん中に現れたのだろう。

 悪い魔法使いに転移魔法であそこにとばされたのかもしれない。


 すると彼が突然倒れる。


 ボクは心配して彼に近寄り様子を確認する。

 意識ははっきりしているようだ。


 するとボク以外の精霊も彼を心配して近寄ってきた。


「大丈夫そう?」

「うん。ちょっと疲れてぶっ倒れたのかも」

「なんでこんな子供がこんな場所に……」

「しょうがねぇ。また日の光を弱くしてやるか」

「私は足の疲れを癒しておくわね」


 光の精霊が周囲の太陽の光を弱くし、癒しの精霊が彼の足に癒しの力をおくる。

 他の精霊たちも彼の周囲を飛びまわりながら応援の言葉をかけていた。


 勿論彼には全く聞こえていない。


 いつの間にか彼の周りにはたくさんの精霊が集まっていた。

 ボクがすれ違う精霊たちに彼の話を聞かせたせいではあるが、まさかすれ違う全員がついてくるとは思わなかった。


 田舎の精霊は全員暇をしているのである。


 休んでいると彼が誰かに助けを求める。キューキューシャさんを呼んでいるみたいだった。


「キューキューシャって何?」

「分からない。人の名前かしら?」

「恰好的に多分この子都会から来たんでしょ?都会では有名な人なんじゃない?」

「キューキューシャの精霊いるか?!いねぇみたいだな……」


 ボクは彼に少しでも気分が良くなるよう心地よい微風をおくる。


 彼は少し休んでまた歩き始める。

 頑張って。街まであとちょっとだ。


 さらに歩き彼は意識が朦朧とする中、ついに街を発見した。


 彼はほとんど体力がないだろうに門まで走っていった。


 ボク達はその様子を遠くから眺めている。

 僕たちの中で謎の感動が起こっていた。嬉しくて泣いている精霊もいる。


 いや、ただ見ず知らずの男の子が歩いているのを眺めていただけだが、確かな絆(?)が彼との間にはできていた。


「感動した……」

「私も感動しました」

「おめでとー!!!!!」

「街でも頑張って!」

「嬉しいけどちょっと寂しい……」

「まったく……手間のかかる野郎だ……」

「へっ!やりゃあできるじゃねぇか」

「この気持ち、歌の精霊歌います―――」

 

 いつの間にか増えてない?


 彼は衛兵と何か話している。

 すると彼が膝をつき倒れた。顔が地面についている。


 街に入る前に力尽きたのだろうか?

 衛兵の前だから良かった。最後は少し締まらないなぁと思っていると



 彼が 殴られた。



 次の瞬間、その場にいた全ての精霊が彼の元へと飛んで行った。

 すぐに様態を確認する。槍の柄の部分で殴られたようだった。


「お前が何も信用できない餓鬼だってことは分かった!デンワだか何だか知らんがお前に貸すものはない!街に入らなくていいならここから去れ!」


 は?


 この男は何を言っているんだ?

 同じヒューマンのこんな子供に。

 諦めず必死に歩いてきたボロボロの少年に言う言葉ではない。


「こいつ許さん!!!」

「待てっ!やめろ!」


 激昂した火の精霊が衛兵を攻撃しようとする。ボクは火の精霊を風で吹き飛ばした。


「なぜ止める!こいつは!この子を殴ったんだぞ!」

「そうするのは簡単だ!しかしその責任は誰がとる!」


 火の精霊ははっとする。


 ヒューマンは精霊を知覚できない。

 もし衛兵を攻撃すると彼らは子供が反撃したと判断するだろう。


 そうしたら彼は本当に悪者になってしまう。


 それはあまりにも可哀そうだ。


「ぐ……もし彼がもう一度攻撃されたら絶対に許さないからな」

「安心しろ。そんなことボクが絶対にさせない。それに……」


 それ以上の言葉は言わなかった。言わずともこの場にいる全員が思っていたからだ。


 それにもしもう一度攻撃されたらこいつはボクが殺す、と。


 落ち着け。冷静になれ。

 ヒューマンは精霊を知覚できない。これは彼自身にも当てはまるのだ。


 もし衛兵を攻撃したら冤罪を彼が被ることになる。

 今までも苦しんでいた彼をこれ以上苦しめるわけにはいかない。


 保護しようにもボクたちの声が聞こえない彼をどう保護すればよいのか。

 聞こえない……なら聞こえればいい。


「それでどうするの?こいつらに彼を任せる気?私は反対だわ」

「うん。ボクも反対だ。だからボク達で保護しよう」

「でもどうやって?彼は私たちを知覚できないのよ」

「うん。だから彼女・・に頼る。耳の長い彼女ならボク達の声が聞こえるはずだ」


 精霊たちは風の精霊の意見に賛成する。


「癒しの精霊、水の精霊はその場に待機。それ以外は彼女を探しに行こう」


 精霊たちは来た道を飛んで戻る。

 ボクは最速最短距離で森へと飛んで行った。


 突風が草原を駆け抜ける。


「今日は風が騒がしいわね」


 森の中、月光を背に誰かがつぶやいた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【ステータス】


名前:ウィン

種族:風の精霊

レベル:21


印象:興味→庇護


攻撃:121

防御:440

俊敏:987

魔力:3569

聖力:0

気力:0


備考:精霊の森に棲んでいる。エルフの知り合いがいる。


 

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