#3 衛兵長の笑顔② [カイン]
精霊の森の方から不審者が出たらしい。
そう聞いて急いで駆け付けたのだが話を聞いてみると実態は少し違っていた。
「つまりお前は身元の分からない子供を殴って追い返したということか?」
「いや、その子供がすごく怪しかったんです。どこから来たか聞いてもはぐらかして、それに服だけは立派なくせに何一つ持ってない。黒髪黒眼で不気味な顔でした。もしかしたら魔族かもしれません」
俺はため息をつく。
「馬鹿。魔族だったらお前は今生きていねぇよ」
「だとしたら山賊ですよ。ともかく不審な人物でした」
「武器一つ持たずに立派な服を着た子供の山賊か……」
実際不審な格好をした子供が現れたのは事実なのだろう。
しかし殴って追い返すほどだろうか。
普段なら子供を殴るやつなんかじゃない。そんな部下がここまで警戒している。何かが変だ。
俺は念のため魔法の耐性を上げるブレスレットをつけ周囲の巡回に出た。
件の少年はすぐに見つかった。
黒髪黒目。汚れてはいるが上等な服を着ており壁にもたれかかれ座っていた。
俺にはまだ気が付いていないようだ。
警戒しつつ話しかける。
「おい。ここで何をしている」
少年はびくっとして答える。
「や、休んでいました」
声がかすれている。顔をよく見ると唇も乾いており水分を取ってないように見える。
頬は殴られて少し腫れており目に生気がなかった
「なぜこんなところで休んでいる?」
「歩き疲れてここで休んでいました。街には入れてもらえなかったので」
嘘をついているようには見えない。
少年から気や魔力は感じられない。いたって普通の少年だ。
少なくとも不審者には見えなかった。
「どこから来たんだ?」
「森の方から来ました」
「森のどこからやってきた」
少年が黙る。
目が泳ぎ明らかに焦っているようだった。
俺は警戒を解かない。
「どうした?早く答えろ」
少年が土下座をした。
「分かりません」
「なぜわからない?森から来たんじゃないのか」
「本当に分からないんです。朝起きたらいつの間にか道の真ん中にいました。嘘みたいな話なんですけど本当なんです。信じてください。お願いします……もう朝からずっと歩いているんです。足も限界で水も飲めていません。ここがどこかも分かりません!助けてくれる人も誰もいないんです!助けてください!お願いします!信じてもらえないかもしれないけど本当なんです!……なんでもします!助けてください!俺一人じゃ生きていけないんです!お願いします!お願いします!」
そこにはただの可哀そうな少年がいた。
彼は嘘をついているようには見えない。
俺は警戒を解き彼に手を貸す。
「ひっ!」
「つかまれ」
彼は殴られると思ったのかおびえた様子だった。
「ついてこい」
彼のどこが不審者なのか。
後で部下に詳しい事情を聴かなければならない。どこからどう見てもただの子供だ。
ただ部下が愚かだったのなら簡単だ。
部下を一発ぶん殴って彼に土下座をさせればいい。
しかしもしそうじゃなかったら話は変わってくる
例えば誰かに精神を操られていたらどうだろうか。
ない話ではない。ここは精霊の森に近い。精霊がいたずらをした可能性もある。
俺は少年を行きつけの酒場に連れて、いつも食べているシチューを食べさせる。
少年は感謝の言葉を述べ事情を説明してくれた。
こことは全く違う国で平和に暮らしていたこと。
今日は本来なら学校に通う初めての登校日だったが、見ず知らずの道の真ん中で起きたこと。
一日中歩いてここにたどり着いたこと。
門番に事情を説明しようとしたが殴られて追い返されたこと。
そして今俺に感謝をしていること。
全て正直に話しているように感じた。
30年近く生きれば彼がどんな人かなんとなく想像つく。
彼は真面目でか弱い貴族の子供だろう。
上等そうな服、学校に通うはずだったという情報、教養を感じられる話し方。
ただの平民とは考えにくい。
貴族の子供がいきなり道の真ん中に捨てられここまで歩いてきたのだ。
彼にとって非常に苦しかっただろう。
俺は彼の名前を聞く。
セカイというらしい。名字もあるみたいだし貴族で間違いないみたいだ。
俺はセカイの頭を思いっきりなでる。
「セカイ、よく頑張ったな」
セカイは堰を切ったように涙を流す。
きっと今まで泣くのを我慢していたのだろう。
俺は頭をなでてあげながら黙ってみていた。
好きなだけ泣くといい。
泣いた分だけ男は強くなる。
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【ステータス】
名前:カイン
種族:ヒューマン
レベル:99
印象:中立→好印象
体力:493
攻撃:376
防御:315
俊敏:124
魔力:51
聖力:12
気力:510
備考:始まりの街の衛兵長。元C級冒険者。皆から慕われている。
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