第31話 海上の社交会
それから数時間、銀色に輝く太陽が砂浜で寝そべる2人を照らし始めた。
「あっちぃ……うわ、もう太陽登ってんじゃん……太陽、むにゃむにゃ……やっば!」
少年シャルルは飛び起きた。
そして心臓の音が筒抜けになるほど焦りが最高潮に達した。
「な〜にぃ? 朝から元気ね」
「えっと今の時刻は。──ふぅ……よかったまだ昇ったばかりか。島の位置から考えて一般的には早朝を過ぎた頃ぐらいかな」
「だからどうしたの、急に、きゅう〜に焦り出しちゃって」
「ちゃんと話したろ、俺は家出中でもしかしたら追ってが来るかもしれないって、出来れば昨日の段階で離れたかったの」
「それは知ってるけどあなたの故郷とこの島はどれぐらい離れてるわけ」
「イカダで6時間、ちゃんとしたボートなら半分の時間で着ける距離かな」
「はっは〜ん。つまりあなたも私と同じね? 漂流したんでしょ、この島に」
「いやだからそう言ってたじゃん、昨日の夜の事覚えてないのか?」
「いやー私がいた島の外の人間を見たのなんて久しぶりだからテンション上がっちゃって何がなんだか覚えてなくて」
舌をぺろっと出してウィンクをしながらピースサイン。
昨日は同じ空間にいるだけで何故か心が休まった気がしたが、知性も一緒に蒸発してそうな彼女を見ていたら勘違いだった様だ。
彼女が居たから落ち着いたのではなく人がいたから落ち着いた、別に誰でも良かった、彼女である事は関係なかったのかも知れない。
「そんじゃ俺は行くから。ほんとはお礼とかしたいけど……ごめん、余裕が無くてさ〜」
最低限の挨拶だけを済ませてから森の中を走って通過すると早速イカダを海に浮かべた。
昨日とは違い波は落ち着いている。そして何よりも補強に補強を重ねた丈夫なイカダを手に入れた少年シャルルにとって波はあってない様なもの、湖と同じ感覚である。
それにしてもいい気分だ、天気は快晴、鳥の鳴き声ともマッチ、そしてその下で絶大な安定感をほこり大海原を進むイカダ、何一つとして怖いものは無かった。
強いて言うなら食料が少ない事だろう、水はそれなりの量を持って来ているので次の目的地まで問題はないが、その分食料が少ないため少々お腹が減ってしまう。
「あー腹減った……やっぱ昨日の夜もっと魚を確保するべきだったなぁ」
そんなシャルルを嘲笑うかの様に前を見れば魚たちが元気に飛び跳ねる、下を向けば沢山の魚影。
気を紛らすべく水を口にするが出てくるのはため息とお腹の音ばかり。
「獲れるか分からないけどちょっと試してみるわね」
「あいよ。え、誰?」
シャルル1人だけはずのイカダから誰かの声が聞こえた。
幻聴かと考えたが聞いた事はあるまだ聞き馴染みの声、後ろを振り返ると笑顔で手を振るマールがいた。
「あが!? な、ななな」
「え、そんなに驚く? そもそも私がいるの気付いて無かったの?」
「いーやいやいやいやちょっと待てよ。え、どのタイミングだ、いつからいたんだ」
「いつからってキミがこのイカダを浮かべて乗り込んだタイミングで私も一緒に乗ったのよ」
そう言われてほんの少し前の事を思い浮かべた。
彼女と別れてイカダの場所まで戻ったシャルルは一部終わらせていなかった箇所を手っ取り早く補強してすぐさまイカダを出した。
「──そんなバカな。いや待てよ、よくよく考えればいつもより重量感があった様な、つまりそう言うことか」
少し目線を落としてマールの胴体に注目した。
「ちょっとなに、私が太ってるとでも言いたいの」
「そんな事言ってないだろ〜。ちょっと体に栄養が行き過ぎって思っただけだよ」
「ふんだ! そんな意地悪なキミには
マールの手には立派な魚が1匹一体どこに隠し持っていたのか分からないがその魚を認識するや否やヨダレが溢れてきた。
「さ、さかな! くれー!」
「えーキミも食べたいの? 別にいいよ、でも交換条件、私のお願いを聞いてくれたらあげる」
「やはりそう来たか、ちなみにその条件とは」
「おーけー。単純明快よ、私も行きたい所があるの、そこに連れてってくれたらいいわ」
「まぁ連れて行くぐらい別にいいけど場所は? この近くだったりする?」
「ありがとう。少し離れてるかな、そこは周りが海に囲まれた小さな島なんよね、その島にある『サテナティオ』って言う村。私はそこに行きたい」
「──サテナティオ……よく分からないけど今日はレギンフォードってゆう場所に一旦寄るつもりだけどそれでもいい?」
「あらほんと!? むしろちょうどいいじゃない。サテナティオはレギンフォードの近くにある島だから」
「いい偶然だね。それなら心置きなく前に進めるよ。──それはそうとして……ほれ、約束の
マールは手に持っていた魚を渡すと、受け取ったシャルルは目を輝かせた。
どう調理すれば一番美味しく頂けるか妄想に妄想が捗る、安定の塩焼き、鮮度がいいならそのまま、とにかく頭の中が大騒ぎ。
「いや、待てよ。
シャルルの言う通りこの魚は毒を持っている、火を通せば死滅する毒だが生では食べられない。
別に難しい事はない、特殊な調理法などなくただただ火を通せばいいだけ、しかし今この状況はどうだろうか、イカダの上、周りは海、そう、火が使えない。
「しまっ! あ、あ、がくしっ」
シャルルはそっと静かに横になった。
正に上げて落とすその現実が相当メンタルに来てしまったのか小さく窄みながらぶつぶつとお経の様な物を唱え始めたシャルルの体からは天に昇る魂の片鱗が見えた。
もう終わりかと思ったその時、香ばしい匂いが辺りを包んだ、そしてその匂いにつられ抜け殻になりかけているシャルルは復活した。
「すげーいい匂い。ってなにそれ、どうなってんだ!?」
シャルルの目には左手で魚を持ちながら右手で炎を出しこんがりと魚を焼くマールが映った。
あまりに見慣れない光景なので何度か目を擦りよーく観察したがマールが魚を焼いている事実は本物だった。
「なになに? 熱くねぇのか?」
「もー大袈裟だね、面白い。これはただの炎じゃないよ、私の体に流れてる魔力から生成した物、言ってみれば私の一部だから熱くはない」
「魔力? もしかして魔法ってやつか」
「魔法……とはちょっと違うかな、これは飽くまで魔力であって魔法じゃないの」
「俺はあんたが何を言ってるのかさっぱり分からん。そりゃ魔力と魔法の存在は分かるけど」
「そうだよね、魔力とか魔法は一般的じゃないもんね、けど私が見た所ちょっと訓練すればキミも使えそうな気配がしてる」
「俺がか? 生まれてこの方微塵も考えた事ないぞ」
「大丈夫。魔力に遅いも早いもないから……ほら、焼けたわよ。尻尾の辺りは熱くないからそこを持ってね」
差し出された魚を受け取ったが、シャルルはその魚をじっと見つめて食べる素振りを見せなかった。
「──どうしたの?」
「なんか悪いと思って、全部やってもらったのに俺が食べるなんて」
「そんな事気にしなくていいのに」
マールはそう言うがそれでもシャルルは何処か納得していない様子。
「仕方ないなぁ」
するとマールはシャルルが持っている魚に齧り付いた。
香ばしく焼けた皮の美味しそうな音と同時に美味しい匂いが広がる。
「あら美味しい、キミも食べな」
そして一口。
一度口に入ってしまえばもう止まらない、夢中で魚にかぶりつき気が付けば骨と皮だけ。
食事後、お腹が空いていたため歯止めが効かなかった自分を振り返るとシャルルの顔がほんのり赤くなった。
それを見て優しく微笑むマール、そんな彼女の顔を見て背を向けて再びイカダを進行させた、彼なりの照れ隠しなのだろう。
2人の短く濃縮な旅はまだ始まったばかり。
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