第12話 本日もいいとこ貰っちゃいます
「もう良いか?」
「もうちょい。──切れた!」
なんとか糸を焼き切る事に成功した。
その間も無数の棘が撃ち込まれたがリアムが全て弾き返した。
「この後はどうすれば」
「まずは屈め、むしろこの状況は悪くない、奴は適当に棘を飛ばして来ているがそれが仇となった、大まかな位置はそれで掴める……聞いておるのか」
「あ、ごめん、右手……すごい変色してるね」
オースティンはリアムの右手が変色している事を確認した。赤く艶やかだった鱗は少し紫色に滲んでいる。
リアムは姿を隠すために大きめのローブを着ている為、棘により穴が空いた部分からしか傷口を確認出来ない。
そのためオースティンからは傷口がどうなっているか分からい、しかし変色した手を見ると大方予想はつく、ローブに隠れた腕はさらに酷い状態に違いない。
少しでも恩返しがしたいと意気込むがお互いがバラバラに動けば先程と同じ結末になる事は分かりきっている……そこで──。
「リアム、少しでいいんだよな? 少しでいいから注意を引けたら仕留められるんだよな?」
「どうした急に、随分と意気込んでおるようだな」
「さっきは俺の判断ミスだ、俺を好きに使ってくれ、指示通りに動く事なら任せろ、俺がどんな役目も引き受けて見せる」
「──ほぅ……面白い、ならば貴様の望み通りにしてやろう」
「あぁ、なんでも……っておい!」
「さぁ、行ってこい!」
「ちょっと待って! ちょ、いやー!」
リアムは傷を負った右腕でオースティンを軽々と掴み上げ、そのまま砂埃の向こう側へと投げた。
想定していなかった事態に慌てるオースティンは鳥のように手をばたつかせたり泳いだりと最大限の抵抗を試みるが空中では何も出来なかった。
「あ……」
外に投げ出されると同時に白蜘蛛と目が合うい情けない声を出すオースティン。
どこからでも来いと身構えるが、白蜘蛛はすぐにそっぽを向いた。
「な!? あいつ舐めやがって、この体勢からでも魔法は撃てるんだ! 今に見て うわぁ! なんだよこれ」
オースティンはまたしても拘束された、今度は先程の様に糸を飛ばしたのではなく、ハエが蜘蛛の巣に引っかかるように、予め作られていた
「クッソ──あの野郎小癪な。──うわ! 今度はなんだ?」
必死に抵抗するオースティンだったが、突如謎の力によって手や足が完全に抑えられた。
よーく見ると細く丈夫な糸が絡まっている、近くに蜘蛛はいないのにこの糸はどこから……白蜘蛛の方に目を向けると、糸を出す腹部が細かく動いていた。
まさかとは思ったがそのまさか、距離がそこそこ離れているにも関わらず、その位置から糸を巧みに使い獲物を拘束する神業。
オースティンを拘束しながら視線はリアムの方へ、とても理にかなった素晴らしい行動である。
「へぇ……最近の蜘蛛はそんな事出来るのか──」
余裕がないにも関わらず素直に監視してしまった、それほど衝撃を受けた。
こんな事をしている場合ではないと我にかえり脱出を試みるオースティンだが、いきなり白蜘蛛が炎に包まれて苦しみ悶えだした。
目まぐるしく変化する戦況に全く着いて行けず1人口を開けてぼけっとしているオースティンをよそに、砂埃から出て来たリアムはムッシュハーブを拾い上げた。
「え? え? え? ……リアム、悪いけど何がどうなってるか説明してもろていいか?」
「単純な話だ、何度も言うが所詮は蜘蛛で虫である事に変わりはない、貴様を捉えてこちらを警戒している様に見せかけて意識は全て捉えた貴様に行っている、我から意識が外れた以上後は焼き尽くせばこうなる」
「なんだそれ、感心して損した。──よいしょっと、2回目となれば糸を焼き切るなんて簡単だな」
「行くぞ、これを頼む」
オースティンにムッシュハーブを手渡し歩き出したが、歩みを進める度に体が左右にふらついている。
毒に多少耐性があるとは言えあの変色の仕方はすぐに処置をしなければならない。
「リアム、俺の肩使えよ、そしたら少しは歩きやすく……」
「キュゥゥゥゥ……キュウゥ!」
「なんだ!?」
謎の声が聞こえオースティンは振り返るとその光景に目を疑う。
白く輝いていた外殻は黒ずみ一部は焼けて穴が空いている、そんな重傷を負いながらも本能で起き上がる、一度倒れてもみたび起き上がる。
「なんで!? 今度は脱皮とかしてないぞ」
「チッ。すまぬ──」
「どう言う事だ? もしかして傷のせいか?」
「それとは別だ、我とて常に最大火力が出せる訳ではない、単純に火力不足だ」
「じゃあどうすれば」
「落ち着け、奴を見ろ、動いてはいるがそれが限界だ、このまま一直線に入り口まで戻れば逃げ切れる」
「あぁそっか、ムッシュハーブさえ手に入れば問題ないんだもんな」
「そう言う事だ、帰るッ!? ぞ……」
リアムの足が止まる。
胸を抑えながらその場で膝を付いた。
「どうした! もしかして毒が!?」
足を止める2人に対象に白蜘蛛は少しずつ動き始める。顎を鳴らしながら2人に近付く。
「どうすれば……そうだ! ──掴まれ!」
オースティンはリアムの前で膝を曲げた。
「俺がおぶってやる! 早く掴まれ!」
「……貴様も……その行動を選択するのだな……だがその気持ちだけで十分だ、我の事は置いて先に戻れ」
立ち上がったリアムはそう言い放ちオースティンに背を向けた。
「は!? 何考えてんだお前! まさか人間の力は借りるぐらいならとか考えてんじゃないだろうな? ふざけんな! 命よりプライドを選ぶなんて事あってたまるかよ、あっちゃいけねぇ! 俺はリアムの事は何も知らない、どんな人生を送っているのかシャルルとどんな関係なのかも知らない、人に手を貸されるのがどれぐらい屈辱なのかも分からない、でもこれだけは言わせてくれ、どんな事があろうとな、命と天秤にかけれる物なんてこの世に存在しないんだよ、例えその決断がプライドを傷つけようとな。最後にもう一度だけ言う、命と何かなんて選択肢はないんだよ、この話を聞いてもまだ変なプライドがお前を邪魔するなら……俺がそのプライドをへし折ってやる! 無理矢理でも抱き抱えて運ぶ、気絶させてでも運ぶ、お前に一生嫌われる事になっても俺はその選択をする! 俺は……お前の事が……リアムの事が大好きなんだー!」
オースティンによる魂の叫びはリアムを動かした。
オースティンは背を向けているため見えていないが、呆れた様子も何も混じっていない
「お前はとことん馬鹿な男だな──」
「シャルルと同類かも」
「あいつは頭がおかしいだけだ」
リアムはオースティンの肩を掴む。
しっかりとリアムを抱えたオースティンは勢いよく立ち上がり力強い一歩を踏み出す。が……
リアムの重さに耐え切れなかったオースティンはそのまま倒れて鼻を地面に強打した。
「何をやっておるのだ、まさか毒にやられたか?」
「お、重すぎる……」
そう、姿を人に変えてもリアムは竜、そもそも体の構造も何もかも違う、例え普通の青少年に見えても、体重は優に3桁を超えている。
知らなかったとは言えあんな息巻いた事を言っておきながらこの有様、オースティンのプライドはズタズタになってしまった。
「はは! 上出来上出来、ほんとは手伝いたくないけど初日だしこの辺にしとこうか」
「シャルル!?」
「其方……もしかしてずっと観ていたのか?」
「どうだろうね……それよりあいつがさっきの超音波の正体か、もう瀕死だな、楽にしてあげる」
シャルルは魔法陣を形成した。
オースティンは一度リアムの魔法陣を間近で見て感じた事はあるがシャルルの
リアムの様に荒々しい魔法陣とは違い無駄の無い綺麗な魔力が流れている。
その綺麗な魔力から放たれた氷の魔法は白蜘蛛を捉える。
暴れる事も抵抗する事も出来ずに白蜘蛛は氷漬けにされた。
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