第13話 共に歩む彼らの伝承
「立てるか?」
2人が苦戦していた白蜘蛛を何食わぬ顔で仕留めたシャルルは2人に手を差し出した。
力の差を目の当たりにし、助かったと言う気持ちと悔しい気持ちが複雑に入り混じる。
今もこうやって手を差し伸べるシャルルを見ていると、見下されている気分になってしまうほどオースティンは心の底から嫉妬している。
「どうかしたか?」
「──いや、なんでも、シャルルはいつからここに居たんだ?」
「ほんとについさっき来たばっか、傍観しようとしてたんだけどね」
氷漬けの白蜘蛛に近付く。
「まさか元凶が見つかるとは思わなくてさ、これで国王にいい報告が出来ればいいけど」
「元凶? どうしてもシャルルに様があるって通達……国王からの依頼はこれだったのか」
「もうバレたし後でこの事は話そうか。リアムはこの薬飲みな、歩く分には問題ない程度に回復するはず。じゃあ帰ろうか」
シャルル落ちていたムッシュハーブの束を拾い上げて一言「いいやつじゃん」と呟く。
帰り道は何も喋らずひたすらシャルルの後ろを着いて歩く。と言うより喋れる状況じゃない、オースティンを庇ったリアムは呼吸が荒くボロボロの状態、普段通りに歩いている様には見えるがかなり消耗しているのはすぐに分かる。
結局のところリアムとシャルルに助けられただけでオースティンは何もしていない、何もしていない自分が悠々と言葉を話すのは気が引ける。
シャルルもそれを察しているのか喋る気配がない、どうせシャルルの事だ、何処かでお喋りになるに違いないと考えたが、それよりも先にリアムが口を開いた。
「──其方は……
「全然、近頃謎の地盤沈下がよく起こるって事しか聞いてない、ハキリバナレの巣は確かに広い範囲に巣を作る、でも今回は明らかに例外だろ、直接の要因かは知らないけど理由の一つかもな」
「そうか──」
「ん? もしかして責任感じてんの?」
シャルルは足を止めて振り返る。
「チッ 別にそうではない……我自身の力に呆れているだけだ」
「今舌打ち聞こえたぞ、まぁでもこれからだろ、お前だってまだまだ半人前なんだし、これからもっと人生は楽しくなるさ、胸張って
リアムが話し始めてから険悪なムードにならないか心配していたオースティンだったが、リアムの様子をチラ見するが特段変わった様子はなくシャルルと一緒にいる時の雰囲気そのもの。
やはり2人の関係が気になるオースティンだがここはその気持ちをグッと堪える。シャルルが作り出した独特な緩さの雰囲気を壊さぬ様に自分は息を殺した。
現れただけで戦況を一変させ、尚且つその後のケアも欠かさない、一見すると非の打ち所がない様に見えるシャルルだが、実力はこんな物ではない。
「んあぁ? なんだこれ……」
再び歩き出したが、シャルルの顔にネバネバした何かが付着した。その正体は蜘蛛の糸だった。前方を照らすとすぐに隠れたが蜘蛛が数体見えた。
「あのクソ虫どもが」
今すぐにぶちのめしたい気持ちはあったが、なんとか握り拳だけで気持ちを抑えた。
「大丈夫か? 奴らはまだ俺達を逃さない気なんだな」
「まぁ気にすんなよオースティン、所詮は子分だからな、襲われても返り」
ブチュ!
「……討ち……に」
シャルルの言葉に差し込まれた明らかに嫌な音、恐る恐るシャルルの足元に目線を落としたオースティンはその光景に目を疑う。
「なぁオースティン……俺……何か踏んだか?」
「えっと……川……いや水溜まりを探そう、そこなら綺麗に……はははぁ……」
「何をって其方が踏んだのは
「クソ……う○こって事だよな?」
「まぁ……その……おいリアム! ちょっとぐらい言葉選んでくれよ」
オースティンは小声でリアムに訴える。
「踏んだ事はどうしようもなかろう、陽の下に出ればすぐに分かるし隠す意味などない、それにこの臭いは……」
「ああぁ! それ以上はいけない! さぁ行こうシャルル、出口はもうすぐだ」
「あぁ! そうだな! 所でオースティン、お願いを聞いてくれ、嫌とは言わせない」
なるべく鼻を機能させない様にシャルルに近付いたオースティンは、シャルルからムッシュハーブを受け取った。
「俺が運べって? お前は何をする──ゲッ」
この薄暗い巣の中でも分かるほどシャルルの額には怒りの血管が浮き出ている。
「なぁ落ち着けよシャルル、あんな奴らの相手すらなんて時間の無駄だって」
「そうだな、お前の言うとおりだオースティンでもな。ハァ──」
不自然なタイミングでシャルルは大きく息を吸う、自分を落ち着かせるためでなくその逆。
そして……
「舐めてんじゃねえぞシャルルをyo! 覚悟しろクソ虫ども! 1匹残さず足をもいで毛を引きちぎってやる!」
腰の剣を抜いたシャルルは、蜘蛛が逃げて行ったであろう方向に奇声を発しながら闇に消えて行った。
「あれどうすればいい?」
「放っておけ、いつもの事だ」
「いつもって流石にあそこまでじゃないだろ」
「そうではなくてアイツは虫が嫌いなのだ、そもそも我とお前を共に行動させたのは修行目的が2割、虫嫌いが8割色々言っていたが結局それが1番大きな理由だ、今に始まった事ではない、この巣の蜘蛛を全て根絶やしにしたら澄ました顔で我らの前に現れる」
「なんか意外……虫が嫌いって……あ」
初めてシャルルと出会った時を思い出す。今考えてみればツインビーに襲われたあの時もそうだった。刺されたとて本人は大丈夫と言っており現に一時的に顔がグロテスクになったぐらいで問題はなかった、それなのにあの慌て様……点と点が繋がった。
「納得した様だな。そう言う訳で我らは先に外で待つぞ、アイツだって我らを利用して楽に報酬を受け取ろうとしたのだ、痛み分けと言った所で良いだろ」
この2人の関係を見ているとシャルルは結局慕われているのか雑に扱われているのかよく分からない。
巣穴の入り口付近にて待機中にリアムの口からシャルルの聞いたが、出てきたのは「奴は肝心な時に」とか「最後はいい所を拾う」など殆どが恨み節の様な物だった、しかしそれを口にするリアムからは負の感情は漂っていない、これが一種の惚気話なのかと勘違いするほどに表情は柔らかかった──。
「お待たせー」
──リアムの予言した通り、数分後にシャルルは澄ました顔で巣穴から出てきた。
「来たか……さっさと納品して終わらせるぞ」
オースティンは切り株から立ち上がるリアムの袖を掴む。
「なぁ、それでもリアムは……あいつに……シャルルに着いて行くのか?」
「先程の話は全て我の本音だ、シャルルに対する不満も嫉妬も全て──数え切れないほどに。──じゃあ竜である我が何故シャルルに着いて行くのか。簡単な事だ、それら全てを合わせてもプラスにする力がアイツにはある、別に尊敬している訳でも慕っている訳では無い、ただ単純に……奴となら……新たな
オースティンは今の話でなんとなく掴めた気がした。
2人には切っても切れない何かで繋がれている。
2人の過去を知らないためオースティンが出来る推測はその程度、やはりシビアな話であるためシャルルもリアムも多くは語らない。
そこでオースティンは閃く、2人に心を開いてもらう。伝説の勇者になる旅路に新たな
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