第6話 明日から本気出す、、、
「よいしょっと……ふぅ……これでいいか?」
「うん最高だよ。旅で重要なのはこうやって安息の地を確保する事。理想はここみたいに川があって平地で何より資源がいっぱい」
不安を抱えつつスタートした3人旅。と言ってもこれはオースティンを鍛えるための旅、初日の成果はと言うと……何もしていないし何も起こっていない。
気合いを入れたはいいが開始早々トラブル発生。
どうしてもシャルルに用があるとの事でフリューゲル国王の元に向かった。
その場に残されたオースティンとリアムだが、この2人が同じ場所にいたとて何か起こるはずもなくひたすらシャルルの帰りを待っていた。
これからお世話になるため、会話を試みて少しでもお近付きになろうとしたが、村の女性以外の会話経験が少ないオースティンは何を言えばいいか分からずモジモジしていた。
意を決して話しかけたはいいが「特訓って具体的にどんな事するんだ」「我は知らん」や「リアムの魔法は誰から教わったの?」「父だ」とまぁこの様に会話が弾む気配すらなく時間がただ過ぎていった。
そして更なる問題が……
「そう言えばリアムはどこ行った? 俺が戻って来た時はもういなかったけど」
「あぁ……それね……『我がここで待つ意味はない』とか言ってどっか行っちゃった」
そして今に至る、陽が落ちてこれから夕食になるが未だに帰って来ていない。
確かにリアムは必要な時に手伝うと言っていただけで主に指導するのはシャルルだが、ここまで放置されるとは思わなかった。考え方によってはそれも
「別に1日ぐらい気にすんなよ、先はまだまだ長いからな。それよりまずはご飯だな。──食材はさっき適当に集めて来たから」
シャルルが集めた食材はここの平原で捕獲できる動物の肉や自生する果物。
2人は料理のりの字も頭に浮かばないほどの料理下手だが果物を切ったり肉を削ぐ事ぐらいは出来るため問題はない。
「どうせならコイツ捌いてもらおうか? 別になんて事ないんだけど見た事ない動物だよね」
「なんで見た事ないって思ったんだ? 俺だって引きこもりじゃないんだから」
「だってお前何も知らないじゃん、コイツはビーツラッドって言う何処にでもいる小動物だけど袋から出した瞬間不思議そうに見つめてたし」
「う……なんて洞察力。──見かけによらず頭はいいんだな」
腕を組み目を細めながらシャルルをまじまじと見つめる。
「あはは、よく言われる。──まぁやってみ」
2人で手を合わせ一礼した後に、シャルルに教えてもらいながらビーツラッドの皮を剥ぎ、肉を切り裂き内臓を処理した。
別に難しいわけではないが見た目以上に筋肉がガッシリとしており中々の肉感に包丁が押し返される感覚を味わった。
「よーしよし、上手いなお前。後は適当に棒を刺してそのまま炙り焼きにするか」
「でも火はどうするんだ? 薪は集めても肝心の火がないと……リアムなら火が使えるんじゃないか? 魔法でさ」
「いいアイデアだね。──でも無理なんだよね、あいつ魔力の制御が苦手で火起こしなんて出来んのよ。──すぐ消し炭になるからな」
その代わりにシャルルが見事な魔力コントロールで火を起こした。
「え? 嘘だろ……シャルルってそんな事も出来るのか?」
「俺の事どんな奴だって思ってんだよ。──これぐらい出来るって……一応フリューゲルでマスターやってるんだからさ」
「あ、そうだった」
閃いた時にする仕草の様に右の拳でポンッと手のひらを叩く。
「ほらよオースティン。焼ける前にそれ食ってみなよ、美味いから」
処理したビーツラッドの肉と川魚を火で炙り焼けるのを今か今かと待ち続ける。
その間にシャルルが採ってきた果物を食べたがこれがまた素晴らしかった。
芳醇な香りが口いっぱいに広がる。甘い果肉の中にアクセントで効いてくる爽やかな酸味、あまりの美味しさに一瞬のうちに完食してしまった。
「それほんと美味いっしょ、俺も好きなんだよね」
「うん、初めて食べたけどこんな美味い果物が世の中にあるなんて! 自生の果物でここまで甘い物は俺の故郷になかったから。──あ、でもシャルルも好きだったんだよな? ごめん、全部食べちゃった」
「ん? 気にすんなよ。単純に食べて欲しいって思っただけだから、美味しいもんは共有するためにあるからな」
シャルルは曇り一つない輝く笑顔でそう言った。
一瞬ときめきそうになったがここはしっかりと踏ん張る。
なにせこれから勇者としての道を進むオースティンとシャルルはライバルになる! その気持ちは今もしっかりと胸に秘めている。
「なぁシャルル。国王に直々に呼ばれるってどんな依頼なんだ?」
「──それは言えないな。いつかオースティンがそうなれる様に俺も手伝うから自分の耳で確かめてくれ」
「まぁ流石にそうだよな、ここで簡単に教えたら極秘の意味がないか」
「そうそう。──それよりリアムと何か喋ったか? 俺と行動してたらあいつも必然的に着いて来るから仲良くしてやってくれよ」
「一応会話は試みたんだけどね……なんと言うか威圧感があるし……それにほら、凛々しい顔してるじゃん? なんか……緊張すると言うか──」
顔を赤らめて明らかに挙動不審のオースティンを見てシャルルは1つの考えが思い浮かぶ。
ニヤニヤと気味の悪い顔でオースティンににじり寄り肩を組んだ。
「ちょ、なんだよ……」
「分かりやすいなお前、リアムの事好きなのか? 好きなんだろ?」
あまりにストレートに心を見透かされたオースティンは頭から煙を出し顔を手で覆い隠した。
「で、でも2人の関係は……」
「関係って俺達か? 気にすんなよ、あいつとはちょっとした縁があって一緒に行動してるけど恋人とかじゃないから。──にしてもリアムを好きになるとは中々物好きだな」
「上手く言い表せないけどなんか引き込まれると言うか……雰囲気も落ち着いてるし、それにあの目だよ目、話には聞いたことあったけど実際に見るのは初めてなんだ、あれが獣人って奴なんだよな?」
「獣人……まぁそこら辺はリアムの口から直接聞いた方がいいさ、そっちの方が親睦も深められるだろうし」
「出来るかなぁ……冒険とかダンジョンにある時なら別にって感じだけど何もない時の会話は意識しちゃって」
「分かる分かる。あいつは他人と干渉しないから人が近付くのもほんとは嫌いなんだよな。でも諦めるな! チャンスは求める奴の所にしか降ってこないからな!」
ちょうど肉がいい具合に焼けて来た。
今日はおめでたい日と言うことで肉と酒を手にして祝杯を上げた。
肉を食べて酒を飲み肉を食べて酒を飲み、静かなフリューゲルの平原に2人の若者の声と川のささらぐ音が響き渡る──。
気が付けば持って来た酒は綺麗になくなりオースティンはそのまま爆睡してしまった。
「ふぅ。──いい風だなぁ〜」
オースティンとは違い酒に飲まれなかったシャルルは夜風に当たり温まった体を落ち着かせている。
「なんだこのザマは。──初日から潰れる勇者が何処におると言うのだ」
「おかえり。──何処行ってた?」
「ちょっと昼寝していただけだ」
「そう。──なぁリアム、お前ってオースティンに自分の事話したりした?」
「しておらぬがそれがどうした」
「別に。──聞いてみただけ」
「今日はもう寝ろ。──後片付けは我がしておく」
「ありがとね」
「礼には及ばん、此奴を放ったらかしにしたのは我の責任だからな」
焚き火を最小限だけ残し、地面で倒れる様に寝ているオースティンの服を掴みグリンガルヴァイパーの革で作られたシートの上に寝かした。
「リ……アム……」
「……どんな夢を見れば我の名前が出てくるのだ」
仕事を終えたリアムは、残ったビーツラッドと川魚の骨を砕きバリバリと食べ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます