第28話 裸の付き合い
森も寝静まった夜中。
月光も届かぬ秘境にある温泉に入る二つの影、赤竜の幼体とオースティン。
光こそ届かぬがこの湯に住む特殊なバクテリアが発光しているおかげで辺りは非常に明るい。
そんな温泉で仲良く遊んでいる。
「よーし、次は泳ぎだ! どっちが先に中央にあるあの岩に触れるかだ、よしやるぞ、よーい。──ドン!」
圧倒的な差を見せつけて赤竜の幼体が勝利した。
「くっそー! なんて速さだ。──幼体は泳ぎも得意なのかよ、てか幼体って言いにくいよなぁ……分かった、俺が名前をつけてやろう、お前の名前は……」
「その辺でやめておけ!」
背後から強い口調でオースティンの言葉を封じた。
恐る恐る後ろを振り向くと、そこには眠りについたはずのリアムが立っていた。
一瞬固まってしまったが、大事な部分をモロに出している事に気付きすぐに肩まで湯に浸かった。
見られてしまったのではと言う恥ずかしさからリアムが言葉を荒げた事などすでに忘れてしまった。
「うぬは今、
「──だ、だったらなんだよ、一々赤竜の幼体って言うのも面倒臭いし名前があった方が愛着も湧くだろ」
「愚か者が!」
いつになくリアムの口調が激しい、確かにいつも口が悪いのはそうだが今回はそのいつもとら少し違う様に感じた。
声も張っており口調も強い、しかし怒りと言う感情は伝わってこない、怒りというよりもそれは憐れみの様な物だった。
「──愛着など必要ない、いや……あってはならぬ」
「なんだそれ、一体どういう……」
「そ・れ・が! ……我々赤竜の掟だ」
「それだけじゃなにも……もっと分かりやすくせつめ……ん? おま!?」
リアムは唐突に羽織っていた布を脱ぎ去りその場に置いた、当然布の下は全裸だった。
先程と同じく鬼の反射神経を発動したオースティンはリアムの裸体を一切視界に入れる事なく背を向けた。
「な、ななななな、なんだよいきなり」
「いきなりもなにも
「どうしたもないだろ。
「……心底呆れる」
湯に浸かる音と同時に水面が揺れる、本当にリアムが温泉に入った、先程とは比べ物にならないほど心の鼓動が早くなり緊張が走る。
そして追い打ちをかける様になんとリアムが近付いてきた。
背を向けているため見えはしないが音でハッキリとこちらに近付いている事を理解した。
そして手を伸ばせば触れられそうな距離まで近付いたリアムは、湯をすくい体に浴びせながら話し始めた。
「──先程シャルルから聞いてまさかそんなはずはないと思ったのだがな……うぬを見ていたらそのまさかの様だな」
「一体なんのことを?」
「……
情報整理を要するに為に一時の時間を失った。
静かだった森は更に静寂に包まれ聴こえるのはリアムの体から落ちた水滴の音が波紋と共に広がるだけ。
「……雄? オスだよな? オスって……人で言うところの『男』だよな? つまり……俺と同じで、お前はオトコ……オレモ……オトコ」
いつもなら仰天して汚い悲鳴を上げるところではあるが今回ばかりはショックが大きすぎて言葉を発する事が出来なかった。
ふとシャルルと会話したことを思い出す。
あの時シャルルにはリアムの事が好き、そんな会話をしていた。──シャルル《あいつ》はリアムが男なのは知っている、当然オースティンも……つまり、盛大に勘違いをさせていた。
その事実を掘り返す顔から火が吹き出てしまい自身の言動の全てが恥ずかしく感じてしまった、最後の抵抗として顔まで湯に浸かり鎮火を図る。
「雌と思われていたなど心外だな……そんなに
「いや……顔……」
「はぁ……今はなにも聞く気にない、
そう言ってリアムは温泉から上がり羽織っていた布を手にして歩き始めた。
「すまん、一つ言い忘れたな。──掟がある以上
その言葉だけを残してリアムは姿を消した。
結局一度も向かい合う事なく2人の会話は終わりを迎えてしまった。
それにしても衝撃の連続だった、リアムが男だった事実が大変重くのしかかり温泉に入ったにも関わらず疲れがどっと押し寄せてくる。
それにこの赤竜の幼体の件についても……話はちゃんとシャルルに聞こう、それまで名前はお預けだ……
オースティンも陸に上がり持って来たタオルで体を拭き2人の待つテントへと戻って行った。
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