第29話 前夜の思い出話

「お疲れ……体は休まったか」


「休まったと言えば休まったけど……それ以上に疲れたと言うか……」


 テントに入るとシャルルがそこに座っていた。

 そして胡座をかいて座るシャルルの足に頭を乗せてリアムが寝ていた。

 向こうを向いているため寝顔は見えないがおそらく可愛い。──そしてリアムの性別を知った上でその光景を見ているとなんだか複雑な気持ちで覆われた。


「なに突っ立ってんの、座れば?」


「お前は……いやまぁ知ってるに決まってるよな」


「──知ってるって?」


「……リアムの……」


「あぁ性別の事? いやーごめんごめん。──まさかそっちが勘違いしてるって知らなかったからつまりそう言うことかと」


 呑気に笑うシャルルは置いといてオースティンは一つ気になる事がある。──そっと目線を落として寝ているリアムを注視した。


「──でも気にしなくていいさ。リアムを女って勘違いする人は結構いるよ、顔が整ってて美形だからな」


「うーん。……それもあるけどどっちかと言えばお前達2人の関係性が問題だと思うんだけど」


「ん……なんかおかしい事してるか?」


「だって普通に抱き合ったりしてるじゃんか、さっきもそうだし」


 なんの事だ? と言わんばかりに素っ頓狂な顔をしている。


「あ! ほら! そう言う仕草とか」


「仕草? ……あぁそう言うことね」


 オースティンが指摘したその時、シャルルは無意識にリアムの頭を撫でていた、これを見せられれば誰しもがそう言う関係の2人にしか思えない。

 オースティンだけでなくリアムを女と勘違いしている人の要因は半分はシャルルが原因だった。


「なるほどねぇ……特に意味はないよ。俺からしたら男とか女とかじゃなくて。──なんて言うんだろ……ペットみたいな感じかな」


「ペット!? 俺にはその感覚が分からん、どこをどう見たらそうなるんだよ、人の見た目してるのに」


 風が強く吹き荒れる、夜も更に深くなり虫達も元気に鳴いている。


「……そんじょそこらの付き合いじゃねぇのよ」


 そしてシャルルの雰囲気が少し変わった。

 あの日の朝と同じく少し暗いオーラがじんわりと伝わってくる。


「たったの五年、何十年何百年一緒にいる訳じゃないけどそれ以上の時間を共に過ごしてる自負はある、リアムからしたら一瞬かもな」


「──なぁ、教えてくれよ、お前とリアムの関係性を、前に聞こうとしたけどリアムは教えてくれなかった」


「……言えない、俺の口からはな。──反するから」


 しばらくの沈黙が続いた後にシャルルはリアムの頭を優しく浮かして自身の足と枕を差し替えた。


「そうか……分かった。──外で話そう、リアムの全部教えられないけど、少しぐらいなら話せる、リアムと共に旅をする理由ぐらいはな」


 リアムをおいて2人は外に出た。

 なるべく離れた所が好ましいと言いテントからだいぶ離れた丘までやって来た。

 疲れた体に鞭を打つように全身が悲鳴を上げながらもなんとかここまで辿り着く事は出来たが、息は上がり会話どころじゃなかった。


「ごめんごめん無茶させて。でも見ろよ、いい景色だろ?」


 ここはシャルルのお気に入りの場所だと言う。

 上は満開の夜空に星が散りばめられた天然のプラネタリウム。

 下は辺り一面に敷き詰まった森に動物、獣、虫の鳴き声や遠吠えが響く自然の立体音響。


「んーどこから話そうか。──俺が故郷を離れてからリアムに出会う2年間の話しでもするか」


「2年間か……そういや俺ってお前の年齢聞いてたかな」


「どうだろ、覚えてないな。──今は20でリアムと出会って5年だから13歳の頃の話か」


「確かにリアム以前にシャルルの事もよく分かってないからちょうどいいや、魔法の事とかも聞きたいし」


「分かった、じゃあ長くなるかもしんないけど興味があるなら聞いててくれ」


 シャルルは昔の事を話し始めた。

 始めは聞き流しつつ景色を堪能していたオースティンだったが、徐々にシャルルの話に引き込まれ、気が付けば夜が明けていた。

 

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