第22話 暗く明るい地下世界

「見つかったっすか?」


「まだだ。結構しっかり探したと思ったんやがなぁ」


 薄暗い森よりも更に暗い洞窟の中で、2人の男が会話をしている。

 1人はフードを深く被り素顔は見えない。

 対するもう1人の男は顔を隠しておらず全体的に赤みがかった頭が目立つ。


「しぶといな。そもそもこっちの計画に勘付いた時点で只者じゃないと言う事か」


「──どうでしょう、長い事フリューゲルにいるが見た事ない奴だったしよそ者っすよね? たまたまじゃないすか? たまたま」


「そうか? だとすれば早く用を済まさないとな、素人相手に苦戦するなんてどんなお叱りを受けるか分からんからな」


「ならあれ使っちまいますか。ちょっと勿体ないけど」


 フードを深く被った男は懐から紙で包まれた謎の物体を取り出しその場に置いた。


「──えっと、確かここを押せば」


 何かを包む外装の紙は一瞬にして灰となる。

 紙で包まれていた装置が顔を出して小さな魔法陣を描いた。

 数秒経つと魔法陣は消えさり、代わりにほんの僅かな光を放つ球体が2人の前に現れた。


「話だと、こいつがターゲットの存在を感知して追ってくれるんだよな?」


「後は着いていきゃいいらしいっすね」


 怪しい2人の男はシャルル達の光の玉と酷似した謎の球体の導きに従い歩みを進める。

 一方その頃、シャルル達も同様に歩みを進めているが、一向に手掛かりが掴めず未だに薄暗い森を彷徨っていた。


「──なっが。どこまで進めばいいんだ」


「考えても無駄だ、とにかく今は後ろを着いていくしかない」


「それは分かってるけどこの先なんかあったか?」


「この先? 分かれ道があった記憶だな、どちらか一方に進めば地下に続く洞穴だったな」


「──確かにあったな、そんな道……」


 シャルルは突然足を止めた。


「どうした?」


「マジかよ、それじゃん」


「は?」


「ずぅーっとなんかおかしいなぁって思ってたけど地下だよ地下、多分あいつはその洞窟にいる」


「何故それが言い切れる……いや、──確かに先程頭に流れて来た映像の中で鉱石の様な物が見えたな、何か関係が?」


「大アリ。この大地全体に言える事だけど鍾乳洞とか多いいだろ? 確かこの森の地下にもあるんだよ、貴重な鉱石が採掘できる場所が」


「……貴重な鉱石は確かに取れるが量も多くなく、そこに辿り着くまでの労力と見合わないと其方そなたが昔言っておったな」


「そう。それにこの森に近付くにつれて黒魔術の気配が強くなったから俺だってずっと魔力を追ってた。──けどずっと引っかかってたんだよな、黒魔術の気配は割と近くから来てるのにたどり着くまで果てしない的な」


「確かに地下なら辻褄は合う。──魔力が地盤を貫通して地上に流れてそこら中に広がるが地盤から流れてくる気配を辿るのは困難、まず気付かないだろうな」


「そう言う事〜♩」


「ならば話は早い、すぐに向かおう」


 走り始めようとしたリアムに対して首を横に振りながら3回舌打ちをしたシャルルはニヤけた顔でリアムを見つめる。


「何をしておる、時間がないぞ」


「分かってる、けどもっといい方法があるだろ?」


「──何をするつもりだ?」


「──見てな、一箇所ぐらい大丈夫だろうから」


 シャルルは床に手をつき何かを入念に確認し始めた。

 10秒ほどで確認が終えたのか、今度は呪文を詠唱、『リュクシオン』そう唱えると、地面に刻印の様なものが浮かび上がった。

 最後の仕上げ、右の拳に魔力を集中させたシャルルは少し助走をつけて高く飛び上がる。

 魔力が込められたその右手から放たれた渾身の一打は大地を揺らし、刻印が付与された半径5メートルの範囲はぽっかりと穴が空き、その衝撃によりパニックになったのか木々の上で眠りに着いていた野鳥のほとんどが飛び立ってしまった。


「シャル!? どこに!」


「お前も来いぃぃぃ!」


 大地を砕いた張本人シャルルは穴が空いた際の勢いそのまま、リアムに言葉を残し1人地下へと落ちて行った。


「来いって……この穴を降りるのか? 翼をへる広げるには穴が少々小さい……やるしかないのか?」


 しばらくその場で戸惑っていたリアムだが、意を決して真っ暗闇の穴にダイブした。

 目を閉じひたすら無抵抗に落ちて行く感覚を全身で感じ取り重力に身を委ね続けた。


「…………?」


 暖かい? 不思議な感覚だ、何とも言えない感覚がリアムを包んだ。恐る恐る目を開ける。聡明の言霊、授かった光の玉が共に落下している。

 時間が止まっている様にぼんやりと時が進むこれまでにない感覚。

 光の玉は次第に形を変え徐々に人の形へ……


「……!? マール?」


 髪の長い女性のシルエット、顔は分からない。『マール』リアムがそう呼ぶとそのシルエットは光の粒子となりリアムを包み込んだ。


──ぽよんっ──


 緊張感の和らぐ音と共に体にかかっていた重力負荷が消え去った。


「起きろ〜早く起きろ〜」


「ん……シャルル? 光の玉は? 粒子が僕を包んで……」


 目を開けると目の前にはシャルルの顔が、そして謎の柔らかい物体の上で寝そべっている。


「はい? 何言ってんの? 怖すぎて記憶飛んだか? ほんと面白い奴だよな、翼で空を飛べるくせに高いところは苦手だもんな」


「そうか……気にするな。──それよりここは其方そなたが言っていた鍾乳洞か?」


「そう、地下の洞窟。鍾乳洞……とは言い難いな、部分的にそうだからって感じかな」


 渾身のドヤ顔をリアムに見せたが。


「──そうか、先に進もう」


 アホに構う余裕は今のリアムには無かった。


「おーいおいおい一言ぐらいなんかくれよ」


「……? あぁそうだな、油断せずにな、我に着いてこい」


「調子狂うな〜」


 もう一つの道筋を追加した2人は、光の玉と共に新たな道を開拓する。

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