第23話 足元注意報

「イッテ……この道も荒れてるな」


「足元もそうだが頭に気を付けろ、後ろからずっと見てたが危なっかしくて見てられん」


 光の導により2人は止まることなく洞窟を進み続けていた。

 時間が経つにつれて気配が大きくなるのは2人にとって物凄くありがたい事、反面大きな悩みが一つ、二つ。

 初めは少し足場が悪い程度だった、所々穴が空いた地面にゴツゴツの岩肌、次第に足場が脆くなり一歩踏み出すだけでも細心の注意が必要に、そして相打ちをかけるように地面から天井までがあまりに狭すぎた。

 160cmちょっとのリアムはギリギリセーフと言った所だが、10cm程背の高いシャルルは中腰になっていないと頭がごっつんこ、地味だがとても危険な状況に置かれている。

 せっかく気配を強く捉える事が出来てもそこにたどり着くための道がこれでは士気が上がらない。


「はぁ……ちょっと待ち」


「どうした? 体力切れか?」


「いや、なんか声聞こえない?」


 言われて耳を澄ます、感覚を集中させた、確かに何かの音が響いている様には感じるが、リアムの耳に入ってくるその音は声と呼ぶには程遠かった。


「じゃあ俺の聞き間違い? おっかしいなぁ」


「それにしてもよく分かったな、われとて耳を澄ませてやっとのレベルだぞ」


「リアムと過ごす様になってなんだかんだ5年ぐらいだっけ? 今はフリューゲルにいるからあれだけど最初なんてずっと森とか山とか自然の中で過ごしてたからかなんか五感が調子いいんだよね」


「5年……5年か……」


「つってもリアムからしたら5年なんて寝て起きるぐらいの感覚か?」


其方そなた達に会うまではそうだったな、毎日が濃すぎる、それにあの1ひとつき程長い時間を生きた事はない」


「──へぇ、そんな事思ってたんか、マールにあった時にちゃんとその話しなよ」


 リアムはフードを深く被り何やら気まずそうに顔を背けた、顔を向けた先にある小さな結晶岩は霞んだ顔色のリアムを映し出す。

 結晶岩が元々霞んだ色をしている為、実際に顔色が霞んでいるわけではない、しかしリアムはそう思わない、この結晶岩が写しているのは顔ではなく心、自身の心が霞んでいる、一度そう考えてしまうとその思考から抜け出せない、いつの間にか放心状態で立ち尽くしていたが、シャルルの声掛けで我に返った。


「おいおい、はぐれるなって言ったのはそっちだぞ」


「──すまない、先を急ごう」


「チッチッチ。ここを見ろ」


 顔を上げた先に見えた光景は壁、どう見ても壁、見事なまでに行き止まりだった。


「どういう事だ? 聡明の導が間違っていたとでも?」


「いや、あってるっぽいよ、軽く叩いてみな」


 リアムは扉をノックする様に行き止まりの壁を2、3度叩いた。

 当然壁は岩で出来ているためとても硬かった、それと同時に音が抜けていく様にも感じた。


「──まさか空洞か?」


「だと思う、てかここまで来たら方法を選んでる余裕なんてないし頼んでいい?」


「──いいだろう」


 狭い通路で場所を入れ替えリアムが前に出る。

 『ハァ……』と一度息を吐き再び大きく呼吸をしたのちに発勁はっけいの要領で壁に力を集約させた。

 壁はみるみる内にヒビが広がり少しずつ確実に崩れて行く。


「──どうだ? 少し抑えてみたがもう少し出力を上げても良かったな」


「いや、十分十分。──おお、意外と下まだあるんだな、大体2メートルぐらいの高さか。このぐらいなら大丈夫だな、先行くよ」


 自信満々に飛び降りたシャルルは身体の芯がブレる事なく見事に力強い着地を決める。

 それに続き飛び降りようとしていたが、下に行ったシャルルの様子がおかしかった。


「おい! 早くそこをどけ、われが降りれぬ」


「──いや待て! ちょっとさ……あの、やばいかも」


「何がだ?」


「そっちまで聞こえてないかも知れないけど着地した時にいやーな音がしてさ」


 ピキ! ビキビキ! と岩に亀裂が入る不快な音がシャルルを襲う。


「そうそう、こんな感じの……へへへ」


「呆れた……骨は拾ってやる、安心して落ちておけ」


「ははは……それなら安心? って勝手に殺すなよ、今ならまだチャンスはあるさ、片足ずつゆっくりとこうして……あ、「あぁぁぁぁ!」」


 限界を迎えた床は真っ二つに割れ、岩の破片と共にシャルルは更に下に落ちた、落ちてすぐ地面についた音が聞こえて来た為高さはそこまでないようだ。

 そんな事よりも一つ引っかかる、シャルルは悲鳴を上げながら落ちた、その声にかき消され気味だったが、もう一つ、シャルルとは別の悲鳴をリアムの耳は逃さなかった、不思議に思いつつシャルルの落ちた穴へと向かった。


「おい、大丈夫か? われも降りるぞ。──よっと。ん? 顔など抑えてどうした、鼻血でも出したか?」


「いや、なんか思っくそ顔踏まれた……」


「──踏まれた? !? 動くな! 動けば首が飛ぶぞ」


 暗闇の向こうにシャルルの他にもう1人顔を抑えたじろぐ人が1人。

 警戒を強めたが、そんなリアムに割って入るかの様に聡明の光がこれまでより一層輝きを増しその人間に近付いた。


「うわ! まぶし! なんだこれ」


 青い髪、シャルルが貸した服、間違いない、光に照らされたその人間こそ2人が探していたオースティンそのものだった。


「貴様! 一体今まで何をしておったのだ!」


「その声……リアム!? あ、シャルルも」


「いいから答えろ!」


「いや、今はちょっと! 後で話すから!」


 オースティンの胸ぐらを掴み問い詰めようとしたがシャルルはそれを止めた。

 当然止めたことに対して怒りを向けるリアムだったが、『何かがこっちに来てる』の一言で冷静さを取り戻した。


「──聞きたいことがあるのは分かる、けど。──ごめん、とりあえず今はこれだけで、ついて来てくれ!」


「おい! どこに!」


「よく分からんけど今はただ着いていこうや、生きてれば問い詰めなんていくらでも出来るさ」


「……チッ! 後でみっちりお尻叩きの刑に処してやる当然われが直々にな」


「決まり、行こう。うしろは俺に任せてくれればいい、心配するな」


 言葉通りシャルルに背中を預けリアムは前だけ見続け、地表から降りて来た雨水により湿った岩場を高速で駆け抜けて行った。

 

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