第18話 今から本気出す
「いやーいい天気天気! 幸先よしって感じだな」
あれから数時間、オースティンとノーツは二人でフリューゲルの外に広がる広大な草原へ赴いた。
顔合わせ時の様子から不安はあったが、オースティンの予想に反して時間通りにやって来たノーツに少し驚きつつも今後の事について尋ねた。
すると「行くぞ」とそれだけ発し何処かに連れて行かれた結果が現在である。
「──なぁ、そろそろ話してくれてもいんじゃないか?」
「そう慌てるな慌てるな、よくよく考えたら俺はお前の事は何も知らないしお前だって俺の事は何も知らない、まずは交友関係を深めていくのも大事じゃ無いか?」
「言ってる事は分かるけど時間が無いんだよ、1日でも早く力を付けたい」
「──聞かせてくれ、何をそんなに焦ってるんだ? シャルルからはじっくり煮込んでくれって言われてるけど」
「ひどい言い回しだな……まぁいいや、俺はあいつに着いていくつもりだ、黒魔術だかなんだか知らないけど危険で連れて行けないってゆうなら俺が力をつければいい、だからあんたの力を貸してくれ」
「──人に物を頼む態度とは思えんが嫌いじゃ無い、今時お前みたいなタイプの若者は珍しいからな。フリューゲルは歴史も古い狩猟国家だ、多くの冒険者が集まるし大きな依頼が大陸を跨いでやって来る事もある、いい事ではあるが同時に不安要素でもある」
「それと俺みたいな奴が珍しいのは関連が?」
「関連も何も癒着レベルで大アリだ。デカい依頼は当然報酬もいい、報酬を求めるのは悪い事とは言わん。しかしなぁ……今は偏り過ぎててな、その報酬を求めて我こそはと参加者が集まるが逆に誰でも出来る低報酬の依頼は流される、まるで元から無かったみたいにな」
オースティンはノーツの発言に首を傾げる。
「──ごめん、無知だから分かんないんけどいい報酬の依頼はそれだけ重要度が高いって事だよな? そんな依頼が片付くのはいい事じゃ無いのか?」
「いい所に気付いた! お前の言う通りだ、確かにその通りだ。重要かつ危険度の高い依頼は危険地帯にある植物の採取、害をもたらす獣の駆除、そして護衛の依頼だってあるな、危険地帯って言うのは対策をしていてもしきれない様な場所を指す、実際報酬に釣られて多くの冒険者が命を落としてる。逆に聞くが、危険度の低い依頼はどんな物か分かるか?」
「そりゃああれだよ薬草の採取とか、そこら辺に生えてる奴でも使えるってシャルル言ってたし」
「そうだ、そこらに生えている薬草は一般的な薬で使われる。そしてあそこの木に実っている果実、フリューゲルの市場でよく見るがどれも普段から口にしている物だな」
「──それであれだろ? 危険度が低い依頼ってのはこの周辺の依頼がメインって訳だな」
オースティンは自信満々にそう答えたが、ノーツ首を横に振る、それに加えて悲しげな表情を浮かべて生い茂った緑の絨毯に腰を下ろした。
「お前、忘魔の森って知ってるか?」
「もちろん」
ノーツの質問に冷や汗をかきながらそう答えた。
「──あそこは異質な森だ、毒を持った生物だって数多く生息している……けどな? ギルドの決まりでは、あの森での採取依頼の殆どは危険度が低。──この意味が分かるか?」
「危険度が低くて報酬が美味くないからその類の依頼が溜まりまくってる……」
「その通り、そしてその事象が起こる事でどうなるかも分かるか?」
忘魔の森の事はリアムからよく聞いている。
初めて行った時はシャルルの腹痛を治す為薬の元となるキノコを取りに行ったリアルに着いて行く形だったが、それ以外にもあの森には薬の原料や研究材料となる動植物が数多く生息している為、それを必要とする機関は数多くある。
リアムから聞いたそれらの話をふまえると、危険度が低く報酬が少ないからと依頼を避け続ければどうなるか、答えは明白だった。
「──結果材料は出回る事なく入手が困難、必要としている人達の元に回ってこないって訳さ」
過去に材料が入ってこない為、自ら入手しようと動いた医者が居たらしい。
その医者は戻って来る事なく消息不明、3年後に遺体は発見された。魔力によって身体が完全に分解される事なく所持品も幾つか残っていた為身元が判明した。
そんな二次災害が事実として起こっている為フリューゲルとしても無視する事は出来ない。
「そもそもだけどなんで忘魔の森の危険度は低いんだ? 話を聞けば聞くほど紛う事なき危険地帯だろ」
「確かにそうだけどあそこは対策可能な場所だからな、殆どの毒は解毒剤があれば中和できるし出来ない種類でも長時間放置しない限り問題ない。──とは言えそれは全部冒険者の場合で一般の人からすればそう言った対策以前の問題で魔物に食い荒されたり道に迷って力尽きるなんて事があるからな」
「へぇ〜なるほどそういう事か! 対策すれば簡単だから初めはそこでランクを稼いでるって訳か」
「お、なんだなんだ、急に賢者になってどうしたよ」
「実はさ、ギルドの酒場でそれっぽい話小耳に挟んだんだよ、その時は何言ってんだこいつらって思ってたけど今の話を聞いてたらなんか繋がった気がする」
「ケッ! ギルド内でそんな話をする奴も現れるとはな……お前の言う通り今の若い冒険者はそうやって楽に大金を稼ぐ事しか考えない実力に見合ってない肩書きだけの奴らが大量に居るんだよ、護衛の依頼を受けた奴が現れた魔物にビビって逃げ出した事もあるんだぜ? そんな事されちゃ当然信頼も無くなるし依頼も来なくなる、なのに当の本人は性懲りも無く同じ事を続けてたけどな」
「そんな奴いるならやっちまえばいいのに」
「大丈夫大丈夫、もう天罰は下したよ、シャルルが、どうなったかは知らんがもう姿を見る事ないから安心しろって言ってたぞ」
「こわ、あいつが言ったら洒落になってないだろ」
「ん? 現に洒落じゃないだろうなって皆んな言ってるぞ。──まっ 話はこれでいいだろ、じっくりやるつもりだったがちょっと飛ばしちまうか」
「それってつまり!」
「あいつに着いていくんだろ? いやー楽しみだねぇ、面食らうシャルルを一度でいいから見てみたいさ」
「ほんとに! いやーありがたい! 強くなる為ならなんでもやるぞ、なんでも指示してくれ、頼りにしてるぞ……えっと、ダーツ!」
「──まぁ……これも若さだな」
ノーツによる指導が本格的に始まる。
シャルルからある程度話は聞いていた為、今のオースティンに足りない物は幾らでもあるが先ずは長所を伸ばす為に魔力とはなんたるか、その事を徹底的に叩き込む特訓が始まる。
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