第3話 登場。破天荒な毒男
「すごいよリアム! あんな魔力初めて見た」
「貴様にはそれしか見えてないのか? このグレイハウンドの首を跳ね飛ばした斬撃は見えなかったか?」
「ざ、斬撃!?」
グレイハウンドの死体を見ると確かに魔法で吹き飛ばしたとは到底思えない程傷口は綺麗に切断されていた。
「だったら誰が……は!? まさかこの森に存在する未知の存在が俺たちの侵入に対して怒りを!」
「大袈裟だ……誰の仕業かは分かっておる」
「え、分かってんの?」
「そこにいるのだろ? 顔を出せ……リアムだ」
リアムはそう言って草木が生い茂る方向を向くと、その先から草を掻き分けて誰かが歩いてくる。出て来たのは男だった。
自称勇者は当然出会った事はないが、やはりそうかと言わんばかりに大きなため息をつくリアム。
その男は体調不良で家にいるはずの男だった、この男のために薬を調達しているのにその彼は今ここにいる。
「何故其方がここにいるのだ! 大人しく家で寝ていろと言ったであろう……」
リアムは少し語気を強め冷静さを書いた様にも見えた。男はその問いかけに全く反応を見せずにゆっくりと近づいてく……よく分からないが場が緊張感で包み込まれた………気がする。
「おい、聞いているのか?」
何度問いかけてもその男は一言も喋らないず、軽快に川を飛び越えこちらに渡ってくると地面に生えているトランスマッシュを1つ採取した。
何をするかと思えばそのキノコをいきなり食べ始めた。
「な!?」
「えぇぇぇ!!!???」
目ん玉仰天。
とても食べれた物ではないと言っていたキノコをこれが俺の主食と言わんばかりに食べている。
リアムが単に好き嫌いしている訳では無く本当に食べれた物じゃない、そのままでは少々匂いもキツく、軽く表面を舐めただけでも謎の刺激が舌に伝わる。そして何よりキノコとは思えないぐらい硬い。
そんなキノコを「うめーうめー」と言いながらバリボリ音を立てて完食してしまった。その異様な光景に目が点になる2人。
「あれ? リアムじゃん、珍しいな俺以外の人と一緒にいるなんて。まぁ自分を変えようとするのはいいことだな」
「それより何故こんな所にいるのかさっきから聞いておるのだが?」
「なんでって腹痛にはこのキノコ食べたらいいって昔っから言われてたからな」
「腹痛って……それはただの腹痛じゃない……其方は毒に侵されてたのだ」
「え!? そうなの? ま〜た俺を騙そうとしてるな? はは、残念今の俺には効かないぜ! 体調がすこぶるいいからな!」
頭を抱えるリアムと高笑いする謎の男と蚊帳の外の自称勇者。今現在この森で1番カオスなのはこの3人の集まりかもしれない。
「ごめん、俺分かんないんだけどどう言う状況?」
「そいつは一昨日この森にいたのだが……帰って来たら腹が痛いと言っておってな、話を聞くと変な物食べたと言うから調べたら毒に当たっていたと言う流れだ」
「あの〜さっきから毒がどうのって言ってるけど毒に侵されて腹痛って事はそこまで強い毒じゃないのか?」
「無論そんな事はない、この森の植物が持っている毒はどれも強力な物ばかりなのだ……我とて摂取するのは避けるほどのな」
「じゃああの人はなんであんなにピンピンしてるんだ!?」
「そやつは元々毒に耐性があるからな、ここの植物の毒ですら効果が薄い…だから焦っていたのだ…新種の毒でも体内に入れたと思ってな」
「なんだよさっきから2人で話し込んで……だから変なもんじゃねぇって」
「じゃあ聞くがあの日何を食べた……其方の事だからその辺に生えている物を食べたに決まっておる」
「よくぞ聞いてくれた! ちょっと待ってな」
するとその男は腰に下げた袋から何を取り出すかと思えばまたもやキノコだった。そのキノコは紫色で表面は無駄に艶やかな感じだった。明らかに禍々しい見た目のキノコを本当に食べたのであれば原因はそれしかない。
「じゃじゃ〜ん! すげーだろこれ! 初めて見るキノコだけど見ろよこの輝きに艶! ブラックダイヤモンドに対抗してパープルアメジストって名前にしない?」
「其方はほんとうに…」
「え? お前このキノコの事知ってんの?」
「それはヒドラの巣の近くに生える突然変異種のシドクタケだ……普通なら食べるのは愚か素手で触る事すら出来ないと呼ばれる物だ」
「……じゃあ売れないのか……残念。ここにいても仕方ないし帰るか──」
「それとあと一つ言っておこう。シドクタケは毒の性質が特殊トランスマッシュと反応してしまう、毒は消えるがその代わり……」
「ん? ……で、出る! ヤバい漏れそう!」
「強烈な下痢の作用がやって来るのだ……はぁ……あっちの草むらにでも行ってろ」
両手でお尻を押さえてカニ歩きの要領で素早く横移動しながら生い茂る草木にダイブして
ブリュルルル! …ぶ! ぶ…ぷぅ〜
と、とてつもなく下品な音を立てて満足した顔で戻って来た。
「いや〜危なかった危なかった、紙の代わりにいい匂いの白い葉っぱがあったのもラッキーだったわ」
「はぁ……帰ったらちゃんと風呂に入るのだぞ」
「な、なんか凄い人だな」
「あやつを相手していると貴様の方が幾分かマシに見えるな」
「それって……褒めてる?」
「貴様が決めるといい……それより早くギルドに戻るぞ、薬は必要なくなったが受けた依頼は最後まで遂行せねばならん」
「そうだった忘れてた」
「簡単な依頼だからって気を抜くなよ、帰るまでが依頼だからな」
ブーン……ブーン……
たった今男が用を足した草むらから羽音が聞こえて来る。その音はどんどん強くなって行く。
「なんだなんだ? 俺のブツにハエでもやって来てんのか?」
「おい、さっき白い葉っぱを紙代わりにしたと言ったな? 其方……もしかして根ごと引っこ抜いたなんて言わないだろうな」
「ダメだった?」
「其方よ……やってくれたな……」
羽音の正体はこの森に生息する危険ランク3の蜂だった。
奴らは地面に巣を作るが目印はいい香りのする白い葉。こちらで他の虫を呼び寄せる役割もあるが自分たちの巣を匂いで辿れる様にするための意味もある。
基本的に大人しく近付いても刺して来る事はないが巣を荒らされたとなれば巣全体で襲いかかる。根っこを引っこ抜き巣の一部を破壊した男は標的にされた。
「やっば逃げるぞ2人とも! 全力で走る だばぁ!」
男はリアムが魔法で作り出した障壁に激突した。四方が障壁で囲われており退路を断たれてしまった。
「よし、今のうちに逃げるぞ」
「え? あいつはいいのかよあいつは」
「あの虫はツインビーと言う蜂でな。普通の人間が集団で襲われ毒を注入されれば命はない……我も痛いのは嫌なのでね」
「毒……あぁなるほどね……ははは」
「うわぁ! 薄情だぞお前ら! ヤバいって! 音がほらぶんぶんヤバいって! お前今日トマト食わせてやるから覚悟しとけよ! うわーーー!!!」
壮絶な叫び声が後方から聞こえて来る、なんか……これが罪悪感と言う物だろうか。
その後2人はなんの問題もなく森の入り口まで戻って来れた。
5分ほど待っていると奥から腫れた顔の男がやって来た。見るからにグロくて大丈夫そうではないが親指を立てて大丈夫だと言い放つ。
その言葉通りフリューゲルに向かう道中で気付けばいつのも素っ頓狂な顔に戻りニコニコしていた。
無事フリューゲルに辿り着くと、まもなく陽がおちる夕暮れ時にも関わらず中央広場の熱狂がまだおさまっていなかった。
不満げな顔のリアムとリアムと肩を組み楽しそうにしている男とまたしても蚊帳の外の自称勇者と言うはたから見るとノリの合わない3人が集まっている。
結局よく分からないままギルドに向かい依頼のトランスマッシュを納品して終了した。
まぁ色々あったがこれで俺も冒険者に! と思っていたが予期せぬ事態となった。
「そちらの方は先程エントリーされた方ですよね? それでは試験を受けてもらいますが……生憎手が空いている方が現在いない状態ですので1週間後にまた来てもらえますか?」
「え? エントリー試験受けるの?」
「おや? もしかしてリアムさんから推薦でもされたのですか」
「我はそんな約束もしてないしそもそも推薦などせんぞ。面と向かってそう言っただろうに」
「そんな〜頼むよリアム〜」
「鬱陶しい離れろ!」
情けなく泣きつく自称勇者を見てギルド内は微笑ましい空気に包まれた。
「推薦して欲しいのか? してやってもいいけど?」
「ほんとか! ……ってお前が!?」
名乗りを上げた男はさっきまでずっと近くにいたあの素っ頓狂な顔の男だった。
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