第15話 たぎる夜空
「ぜぇ……ぜぇ……追ってはいないよな?」
まるで不審者のごとくオースティンは執拗に周りを見渡す。
キョロキョロと周囲を確認し少しふらつきながら歩くオースティンはたから見れば完全に危ない人である。
「あ、シャルル!」
ちょうど角からやって来たシャルルに出会した。
オースティンは小走りで近づくが、シャルルは目を細めて頭から足先まで見下ろしじっくりと観察した。
「どうした? ……あ!」
シャルルのその行動に心当たりがある。
この頭だった。
この短時間で髪色が青に変わってしまい自分が誰なのか分かっていいないのではないかとオースティンは考えた。
「──これは、あれだよあれ」
オースティンはすぐさま状況を説明しようとしたが酒が回っているのか上手く言葉が出て来なかった。
そんなオースティンを見てシャルルは一言。
「冒険者デビューってやつか?」
そう言って笑いながら歩き始めた。
恥ずかしさからか、無意識に頭を両手で覆いオースティンの顔が赤く染まる。
「──お前は何処に行くんだよ、リアムは?」
「俺はちょっと王様のところに用があるだけ。──リアムは寝てるんじゃないかな、命に別状はないと言っても毒はある程度回ってたからな。まぁ俺の代わりに看病頼むわ、そんじゃあね」
いつもと変わらないシャルルは能天気に手を振りながら中央地区に向かった。
「いや軽いな、リアムが寝込むほどの毒って事は俺なら死んでたって事だよな? 危険度はそんなに高くないって言ってなかったか? 待てよ、毒耐性の高いリアムに毒人間のシャルル……あいつらの話はあまり信じない方が良さそうだな」
独り言を呟きながらシャルルの家を目指し薄暗い夜のフリューゲルを歩き進める。
フリューゲルは海岸に違いと言う事もあり昼間は暑くても夜は冷たい風が吹き少し冷える、お酒で少し体が熱くなっているオースティンにとっては非常に心地よい風だった。
風を全身で受けて夜道を歩いていると、頭がスッキリして行くのと共に何故か高揚感が高まっていた。
原因はリアムだった。お酒が回り気が大きくなっているオースティンはこのままの勢いで告白を。
そんな事を思っていたりいなかったり……
「いやいや、何考えてんだ俺。──誰のせいでリアムがあんな事に……なんだ、もう着いちゃってよ。今からリアムと顔を合わせるって考えたら緊張して来たな」
扉の前で深く深呼吸をしたオースティンは満を辞して扉を開け中に入る。
「なんだお前か……遅かったな」
その声に反応しオースティンの体が少し震え、周辺視野でリアムを捉えると反射的に体を回転させて背を向けた。
「……まさかまだ気にしておるのか? 全く女々しい奴だな。言っておくがあれはイレギュラーな存在だ、マスターの冒険者が不測の事態で命を落とす事だってある、それにここはフリューゲルだ、母数が多ければそんな不幸を耳にする機会が多くなるのは必然、そんな環境でお前は生き残り依頼を遂行し誰1人として命は失っていない、それだけで十分であろう」
「──言われなくったって分かってるよ、分かってるけど……あぁもうやめだ!」
突然大声を発したオースティンは自身の頬を両手で叩いた。
「ここに来てからネガティブな事しか言ってないよな」
「──いきなりどうした」
「正直2人が羨ましくてさ……故郷の村ではチヤホヤされて育って来た結果がこれだよ、井の中のバケツって言葉は今の俺にぴったりだな」
「…………」
「でも俺は絶対折れないし諦めないよ、いつか2人を凌ぐ実力をつけて本物の勇者になるさ」
自身の考えを少し共有した事で少しばかりか気持ちが楽になる。
「気持ちの変化が激しい男だな……でも楽しみなのは間違いない、シャルルに一泡吹かせる為なら我も協力してやろう、いつでも声をかければいい」
「じゃあ早速だけど魔法陣の事について聞きた……くて……ひゃぁぁ!?」
その言葉に甘えて早速リアムに教えを乞う為に振り返ったオースティンはとんでもない光景を目の当たりにする、その衝撃で自分でも何処から発したか分からない掠れた音を出した。
そこに立っていたリアムは裸だった、なんの恥じらいもなく裸で突っ立っていた。
「なんだ今の掠れた気持ちの悪い声は、ちょ何をする。おい、聞いてるのか? 何故顔を逸らすのだ」
「いいから服! 服を着れ服を!」
オースティンはリアムの裸体を視界に捉えぬように目を閉じ顔を逸らしリアムの背中を押して部屋に押し込んだ。
裸を凝視する事なく無事に押し込んだオースティンは一安心。
「ふぅ……危なかった。……リアムの筋肉、凄かったな。硬さもそうだけど、それだけじゃなくて凄いしなやかだった」
「──何を1人でぶつぶつと喋っている」
「あ、おう、もう着替えたんだな」
「こうしないとお前がうるさいからな。この空間には我とお前の2人、増えたとしてもシャルルが1人だろ? あそこまで慌てる必要などなかろう」
「いやいやそれが大問題なんだよ、いくら仲が良くてもそこまでするのは少し大胆すぎるというか……」
「長話か? 悪いが思ったより体調が優れていないのでな、力になるとは言ったが話は明日にしてくれ、それにお前だって疲れておろう、早く風呂にでも入って来るのだな」
「俺は別に……分かったよ」
椅子に座りテーブルに肘をつき小さく、長く息を吐くリアムを見て言われた通りに風呂に向かう。
「リアム、大分消耗してたな」
浴槽から溢れるお湯に耳を傾けながら窓から夜空を眺める。
「欲を言えば今のうちに魔法について聞いときたかったなぁ……いや、あの時の感覚を思い出せば。──ダメか、濡れてるから? でも関係ないよな、なんて言うかあの2人の魔法は魔力の結晶体って感じなのに俺のは野次馬みたいな物で突然結合してる訳じゃないからすぐ形が崩れる、このお湯みたいにすぐ魔力の箱から溢れちまう、一体どうすれば……」
考えた、オースティンはひたすら思考を巡らせ続けた、時間を忘れ1人で小さく言葉を発しながら頭を整理し続けた。
5分、10分、そして30分と時間が過ぎて行く。
次第にオースティンの意識が薄れ何も考えられなくなった。
目を瞑る最後の一瞬、思い浮かんできたのはシャルルの大きな背中だった。
「おい、まだ入っておるのか? さっきは何やら独り言を言ってたみたいだが。……聞いておるのか? ……オースティン? 入るぞ」
呼びかけにも答えず不審に思ったリアムは浴室の戸を開けた。そこにいたのは完全にのぼせきったオースティンだった。
「──何をやっておるのだ、アホなのか? すぐにそこから出ろ」
浴槽から無理やり引っ張り上げたリアムは、裸のままリビングに連れて行きソファに寝かせた。
「すぐに体を拭く、しばらくそのままじっとしていろ。シャルルのお気に入りのソファが少し濡れてしまうがまぁ良いだろう」
「リアム? おはよう、気が付いたら寝てたよ」
「バカを言うな、寝てたのではなく気絶していたのだ、全く……変なところはシャルルと似ておる」
オースティンはその後、リアムのおかげですぐに回復した。
落ち着いた後もしばらくソファで横になっていると、自身が裸のままである事は関係なくそのまま眠りについた。
それを確認したリアムは自室から持って来た掛け布団をオースティンにそっとかけた。
その後のリアムはシャルルの帰りを待ち椅子に座っていたが、リアムもかなり疲労が溜まっていたのか、シャルルの帰りを待たずにその場で眠りについた。
オースティンにとっては初めての依頼、そしてリアムにとってはシャルル以外の人間と冒険する初めての経験、2人にとって非常にハードな1日は楽な戦いとは行かなかったが、無事に幕を閉じた。
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