第20話 帷の下りた散歩道

 昼間の人混みとは真逆に、夜の帷が下りたフリューゲルの街は静寂に包まれ月光が微かに光を灯す。

 そんな奥深く暗い街中だが、この時間帯になっても尚眠らない人々の憩いの場が存在する。

 当然それは酒場ギルドである。

 連日1日を過ごした冒険者たちが集まりこの場で盃を交わしとても賑わう。

 そんな酒場で盛り上がっている人々を横目に神妙な顔つきな男が2人、会話もなく端の席でひたすらじっと座っている。


「──居た。ノーツが呼んでたって聞いたけど……セルゲイも居たのか、暗い顔してどうした」


「来てくれたか、リアムも一緒か。ちょっと問題が起きてな、結論から言うと……オースティンが居なくなった」


「居なくなった? 修行中に不祥事でも起こったのか?」


「いや、そうじゃない……とりあえず1から説明しよう、状況の説明もついでにな」


 ノーツはこれまでの出来事を丁寧に話す。

 当然、修行を終えてフリューゲルここに辿り着いた時は存在を確認していた。

 目を離したのはその後に積荷を運んでいた際で気が付けば居なくなっていた。

 何も言わずに帰ったのかと初めは気に留めていなかったノーツだが次第に心配になり探し回ったが見つからない、シャルルの家に居候していると言う情報は聞いていたため家に赴いたが誰も居なかった。

 途中でセルゲイに助けを求めて数時間探し回ったが結果は何も変わらず今に至る。


「──なるほど、急になぁ……何か変わった事はあった?」


「特に何も、強いて言えば帰りの馬車であいつがうたた寝しててよ。よく分からんがリアムに関する夢を見てたみたいだからリアムの事を少し話したんだよ、そしたら……」


「オーケー。大体分かった、探しに行く」


「おい、探しに行くってどこに」


「そりゃあ外でしょ、フリューゲルの。あんたもノーツと一緒に街中を探したんだろ? だったらもうそれしかないと思うけど」


「いやまぁそうじゃが……」


 シャルルは有無を言わさず行動に移す。

 現在の時間を確認しながら装備を整え始めた。

 その後悔を見ていたノーツとセルゲイは2人で顔を見合わせ、どうしてあいつの為にここまでする必要が? と言わんばかりに首を傾げた。


「──待て、其方そなたは1人で行くつもりか?」


「そのつもりだけど? 今からやる事はだぞ」


「そんな事分かっておる、ただ……あまり気分が良くないのでな、内容は知らんが夢で我が出て来た事で様子がおかしくなったのだろ? 気分を害したのであれば我にも責任がある」


 シャルルと同様にリアムも出発の準備を整える。と言ってもリアムの持ち物はほぼない為、『先に待っている』と残し1人酒場ギルドから出て行く。

 そんな2人の緊張感漂うオーラが溢れ出ていたのか、普段は他人の話など気にも留めない酒場に集う飲んだくれ達も酒の手を止めまじまじとシャルル達に注目していた。


「なぁなぁ、ノーツ。最近思っとるんだが、リアムの野郎、似て来てないか? 小僧に」


「それ分かりますよ、しかも何が厄介かってゆうとどうでもいい所ばっか似てるんですよこれが、僕の扱いが雑な所なんてそっくりすぎてドッペルゲンガーですよ」


「──なーにこそこそしてんの? じゃあ道案内頼むよ、アイツと別れた場所まで」


◇◇◇◇◇◇


「ふ〜ん……逆によくこんな開けた場所で気付かなかったね」


 シャルルから何気なく発せられた鋭い言葉がノーツに突き刺さる。

 シャルルのご要望通りオースティンと別れた場所まで案内したが、確かにシャルルのいう通り、見失う事の方が難しいほどよく開けた場所だった。

 そう思うと先ほど突き刺さった言葉が、さらに遅れて突き刺さる。


「まぁ後はこっちで何とかするよ、ありがと」


「なぁ、ほんとに行くのか? 日没からかなりの時間が経ってるぞ、別にお前ら2人なら心配するほどでもないが」


 日没から時間が経てば経つほど魔物達は凶暴になって行く、セルゲイが危惧しているのはそれである。

 凶暴になった魔物が一つの集落を一夜で滅ぼしたなどの話は度々上がってくる、夜の魔物はそれほど危険な存在である。


「フリューゲル近辺ならそこまでじゃがもしも森の方に近付いてたら……悪いがもう」


「──知ってる。その時はその時……その時考えるよ。そもそも夜の外の危険性はもっと入念に教えとくべきだったかな。失敗失敗」


「後は我らに任せてなんじらは家で大人しく待っておれば良い」


 その挑発的な言葉に少し怒りを覚えたが、現にこの後は全て2人があの対応する為言い返す言葉も出てこなかった。

 そして2人が暗闇に消えた頃、セルゲイが唐突に胸の内を明かし始めた。


「──何やってるんだろうな俺たち。信じられるか? レブサックが居なくなった後、誰がフリューゲルを支えるのか、そうやって争ってた時期があったよな、お前とも」


「懐かしい……僕たちも色々やってましたよね、けど……それが今ではこれですか」


「全てアイツに持って行かれたな、プライドも栄光も。──けど嫉妬も何も無い、そうなるべくしてなった。でも嫉妬しない俺自身にムカついてる所はあるよな」


「でも本人はそんな経歴なんてどうでもいいみたいっすけどね、詳しい目的は知りませんけど『リアムと居れればそれでいい』って言ってましたし」


「──敵わん……敵わんなぁ……」


 少し弱みを見せつつ天を仰ぐセルゲイの様は見方を変えれば涙を堪えているようにも思える。


「……飲みに行きます?」


 ノーツなりに彼を励ましたのだろう、落ち込んだ気持ちを拭うように頬を両手で叩いたセルゲイと共に肩を組みながら足取り揃えて夜道を移動した。

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